噛みつき評論 ブログ版

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原発報道で露見したマスメディアの弱点

2011-03-19 22:22:10 | マスメディア
 いま、福島第一原発の事故の経過を国中が強い不安をもって見守っている状況です。このような中、適切な情報が報道される意味はたいへん大きく、誤った情報が危険を煽るようなことは避ける必要があります。しかし残念ながらそのようなことが散見されます。

 NHKの水野解説委員は4号機の核燃料プールの水温が84℃まで上昇していたことを受け、現在はもう空っぽになっている可能性がある、と説明しました(多分3/17)。水野解説委員はそれまでの温度上昇の進行速度から考えて既に蒸発してしまっているという可能性を述べたものと思われますが、理解に苦しみます。

 1kgの水が1℃上昇するためには1kcal(4.186kJ)必要で、50℃の上昇なら50kcal必要です。しかし1kgの水が蒸発するためには約539kcal(2258kJ)が必要です。仮に当初の温度が40℃、1日の温度上昇が10度とすると6日で100℃に達しますが、全量が蒸発するためにはさらに53.9日必要な計算になります。むろん水位など他の要素もあるので一概には言えませんが、蒸発によって2日や3日で空っぽになるという説明は理解できません。プールが空っぽになっているかもしれないという説明は深刻な事態を想像させるものであり、軽々しく言うべきものではありません(蒸発熱は高校の物理レベル)。

 他にも2号機、3号機周辺で、最大400ミリシーベルトの線量が測定されたとき、水野解説委員はこの放射線レベルは一瞬でも浴びるだけで大変危険な状態だと認め、不安を増幅しました(これは1時間値であることを理解していないため、後に訂正)。また、使用済燃料の発熱量と放水量がわかっているので水蒸気爆発は計算できるという理解不能な説明などを考えると、水野解説委員は基礎的な知識を持っておられるのか疑問です。

 また19日朝の日本テレビ、ウェークアップでは伊藤哲夫 近畿大学原子力研究所所長は核分裂反応停止後の発熱量について運転時出力の3パーセント程度と説明しました。100万kwの熱出力の炉ならば現在も3万kwの熱が出ていると受止められますが、これは正しくないと思われます。

 運転停止後の発熱は核分裂反応によって生成した放射性同位体が崩壊することによって生じる崩壊熱ですが、これは運転停止直後では運転時出力の7パーセント程度ですが、初めは時間と共に急速に減少します。詳細は中部電力のHPをご覧下さい。

 運転停止1時間後には2%弱、1日後には1%弱、現在は0.4~0.5%程度というところでしょうか。1~3号機の発熱量が初期に比べて小さくなっていることは冷却機能に余裕が生まれていると考えるのが自然です。この事実はあまり知らされてないようですが、ひとつの大きい安心材料だと思われます。

 科学技術の分野で、解説の誤りを発見するだけの知識のある人、あるいは解説にふさわしい人を評価・選定する能力のある人がメディアにはほとんどいないのではないかと思われます。

 国民にとって、マスメディアがほとんど唯一の信頼できる情報源ですから、誤った知識を報道することによって不安を増幅することはなんとしても避けるべきです。

 テレビのニュースには〇〇大学の何とか教授とかいう偉そうな人たちが次々と登場して解説をしています。全部とは言いませんが、アナウンサーの質問に対しまともに答えなかったり、あまり意味のないことを話す人が少なくないという印象を受けます。現状を把握するのに十分な情報がなく断定は難しいことはわかりますが、なんか頼りないなあ、という印象をもつ人が多いのではないでしょうか。解説にふさわしい人を評価・選定するだけの能力をメディアは十分備えているのかという疑問が生じます。。

 私は2年前に原子力学科の学生数が十分の一以下にという記事で、人材不足によって管理能力が低下すれば事故の起きる可能性は高くなると書きました。それが杞憂であることを願っています。