噛みつき評論 ブログ版

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北沢防衛相の危うい指揮

2011-03-23 22:25:05 | マスメディア
 17日に実施された自衛隊ヘリによる水投下は、16日に予定されていたものが遅れに遅れ、北沢防衛相の「今日は限度だという判断で実施した」という重大な決意のもとに実施されたのだそうです。しかし投下の映像から判断すると、投下された30トンのうちプールに到達したものはほんの僅かと推定できます。目的はプール水位の回復である筈なのですが。

 投下後の会見で、北沢防衛相は「使用済核燃料に対する冷却効果は期待できるのではないか」と述べました。また陸自の火箱幕僚長は会見で隊員の被曝に関し「現在、私の方には異常はないということが入っております」と隊員の安全を強調しました。

 北沢防衛相が今日が限度だと述べたことは事態がそれだけ切迫していることを示したものと理解できますが、そうならばほとんどが飛散するような放水をなぜ4回だけでやめたのかという疑問が生じます。繰り返すことで少しでも水を注入することを期待するのが当然と思われるのですが、やめた理由の説明はありませんでした。

 当日の放射線量は300フィート上空で87.7ミリシーベルト/時だったそうですが、隊員は底部には防護板を張った機体内にいながら、上空を数秒間通過するだけです。仮に生身で10秒間滞在しても0.24ミリシーベルトの放射線を受けるだけであることは素人でもわかります。上空に停止して投下すれば命中精度は高くなると思われますが、それさえも避けるほど隊員の健康が第一なのでしょうか。自衛隊とはその名称の通り、自分を守る隊という意味かと思ってしまいそうです。

 隊員の被曝量は1ミリシーベル以下であったと発表されましたが、実際の値が気になります。もしかするとあんまり低いので発表したくなのかもしれません。隊員ならもっと浴びてもよいと思っているわけではなく、東電や関係会社の人々が上限値近くの線量を浴びながら必死で作業を続けているときに、この安全第一の姿勢がまったく理解できないのです。

 状況が把握できていない場合はいつ急激な変化が起こるかわからないので、できる限り早く効果的に冷却することが要請されます。したがって北沢防衛相の「今日が限度」という発言は根拠のあるものとは思えません。冷却が遅れ、放射線量が上昇するような状況になれば選択肢は少なくなります。

 1機あたりの作業は40分まで可能ということであったのですが、4回で止めたことに対し納得のいく説明をせず、あれで冷却効果が期待できるといった発言は政府に対する不信を生みます。火事にコップの水をかけて、これで効果あったと胸を張るようなものです。幸運にも放水が遅れたことで重大な事態になることはなかったですが、愚図愚図している間にもっと悪化していた可能性は否定できません。

 この放水を見る限り、北沢防衛相や幕僚長は放水の意味を正しく理解しているとはとても思えません。国の安全にかかわるような重大な危機に際して、現状を正しく認識する能力を欠いた人物がトップに座って指揮しているのであれば、これほど恐ろしいことはありません。政府に対する信頼も大きく損なわれます。また外国に対しては、自衛隊の作戦能力や指揮能力を判断する格好の材料を提供することとなるでしょう。

 (参考) 自衛隊への入隊時の宣誓には次のような言葉があります。「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います」