噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

所得額の4倍課税する不思議

2012-12-03 10:09:43 | マスメディア
 以下は、クソ真面目な仕事が極めてバカバカしい結果を招いた見本のような例であります。11月30日付の朝日の記事から引用します。

『競馬で得た所得を申告せず、3年間で約5億7千万円を脱税したとして、大阪市の男性会社員(39)が所得税法違反の罪で起訴された。インターネットで馬券計約28億7千万円分を大量購入し、30億円余りの払い戻しで差し引き約1億4千万円の黒字に。しかし、国税局が経費と認めたのは当たり馬券の購入費だけ。もうけを上回る脱税額に「外れ馬券も経費と認めるべきだ」と無罪を訴えている。

 会社員は2007~09年に競馬の払戻金などで得た所得約14億5千万円を確定申告せず、所得税約5億7千万円を脱税したとして起訴された。所得税法上、サラリーマンは給与外の所得が年間20万円を超えると確定申告が必要になる。また競馬の払戻金は半額が課税対象の「一時所得」となるが、収入を得るのに直接かかった費用のみを経費と定めており、当たり馬券の購入費だけが対象とされた。

 大阪国税局は、払戻金から当たり馬券の購入費1億3千万円を引いた約29億円を一時所得と判断した。実際のもうけを大幅に上回る半額の約14億5千万円を、課税対象の所得と認定。無申告加算税を含め約6億9千万円を追徴課税し、地検に告発した。(後略) 』

 この方は過去のレース戦績を分析して市販の競馬予想ソフトを改良し、インターネットで馬券を大量に購入していたそうですが、なかなかたいしたものです。しかしその結果、約1億4千万円の収益に対して約5億7千万円の税を課せられたというわけです。

 いろいろと小難しい事情があるのかもしれませんが、所得の4倍もの税金を払えということに国税局と大阪地検は疑問を感じないのでしょうか。所得額を超える課税なんて聞いたことがありません。現在この方は妻子を抱えながら、手取り約30万円の月給から約8万円を税金支払いに充てているそうです。支払いには計算上700年ほどかかることになります。国税局は腎臓を売れとまでは言わないのがまだしもの救いですが。

 収入を得るのに直接かかった費用のみを経費と定めており、外れ馬券は経費として認められないという判断があるとのことですが、ずいぶん恣意的な判断に見えます。ならば福利厚生費や広告費なども直接かかった費用ではないとしなければ整合がとれません。

 当たり馬券だけを計算に含めるというこの解釈であれば、1年間で当たり馬券の払い戻し合計額からその馬券の購入費を引いた額、つまり利益が50万円を超える部分は課税対象になるので、差し引き合計で大負けしていても課税される人が多数存在するという不思議なことになります。また公平性を保つためには彼らにも等しく課税する必要があります(当たり馬券の払い戻すときに本人確認をして税務署に調書を送れば可能ですが、そうすれば競馬人口は激減するでしょう。現在の仕組みは税徴収のいい加減さを前提に成立しているわけです)。

 外れ馬券を買わずに長期間の所得を得ることは不可能であり、外れ馬券の購入費は必要経費と考えるのが自然です。「直接かかった費用」という文言は収入を得るために必要なものという意味が強いと思われます。

 また買う時点では当たりか外れはわからないものを後で当たり馬券だけを経費と区分するのもまた無茶であります。外れ馬券は結果的に遊興費であったとでもするのでしょうか。株の場合は損益の通算が可能で、合計した場合の利益に対する課税となります。内容としては株の取引に似ています。

 競馬の売上げの10%以上は国庫納付金ですから、既に国はこの方から約2億8千700万円以上を徴収しています。この上約6億9千万円を取り立てようというのではあまりにも強欲(グリード)です。金融業界を見習うことはありません。

 「直接かかった費用」の解釈など、どうにでもなります。大事なことは所得額を超える課税という非常識なこと、税の理念や原則を否定するようなことが起こらないようにすることでしょう。

 この問題は法の細かい解釈にこだわるあまり、法の本来の目的から大きく外れ、理不尽な結果を招いた例としての教育的価値があります。「木を見て森を見ず」という近視眼的思考や、法の不完全性を教えるのに格好の例です。普遍性のある問題であり、教材として教科書にでも載せるとよいでしょう。まあ理屈はともかく、所得額の4倍も課税してもおかしいとは思わない国税局の方々の「お心」には寒気がいたします。また起訴を決定した大阪地検(村木事件の証拠改竄で有名になりました)も同様です。大阪地裁の判断に期待したいところです。

 ついでながら「大阪国税局の調査姿勢は関西経済の地盤沈下に拍車をかける遠因と言われてきた」(財界関係者)というお話もあります。詳しくは「評判悪い大阪国税局、今年はさらに対応悪化もという最近の記事をどうぞ」。