噛みつき評論 ブログ版

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NHKは地震アレルギー?

2012-12-10 10:06:51 | マスメディア
「大山鳴動して鼠 一匹」と思われた方も少くなかったことでしょう。
 12月7日午後5時18分頃、三陸沖でM7.3の地震が起きるとNHKは直後から総合、Eテレ、衛星2波、中波・FMの通常番組をすべて中止して地震報道を行いました。「東日本大震災を思い出してください」「可能な限り高いところへ逃げてください」と緊迫した調子で繰り返し、地震報道は午後8時頃まで続きました。

 民放はというと警報・注意報に関する字幕が出ていたものの通常の番組が放送され、CMもちゃんと流れていました。比較的平静を保った民放に対し、NHKの興奮ぶりが際立ち、あたかもアレルギー反応を起こしたように見えました。

 今回のNHKの対応は最大級のもので、もし3.11級の地震が起きてもこれ以上の対応はできないと思われます。つまり今回の地震も3.11級の地震も視聴者には同程度と判断される危険があるというわけです。NHKの地震報道のレベルは2段階程度しかないのではないかと思われます。危険度に応じたレベルの報道があってもよさそうです。

 予想される津波高さは最大1メートル、地形によってはそれを超えることがあり、また予想の誤差もあるということで、大袈裟に報道するのがよいという考えもあるでしょう。津波高さを30m以上と想定するような地震学者たちと同様、それは責任回避には有効です。しかしそれを繰り返すと「オオカミ少年」効果が生じ、もっと大きな被害を招く可能性があります。その場合でも「信じない方が悪い」という「逃げ道」が備わっていますが。

 今回、民放の平静さはスポンサーや収益に配慮した結果に過ぎないかもしれませんが、結果として適切な報道であったと思います。一方、NHKは阪神大震災以降、震度1、マグニチュード2程度のものまで報道するようになりました。テレビの場合は字幕ですが、ラジオの場合は番組を中断して報道します。NHKの地震報道はパラノイア(偏執病)を思わせるものがあります。この弱小地震の報道にどんな意味があるのか理解するのは困難です。

 ついでながらNHKの地震報道について気になることがあります。NHKは地震発生時、伝達速度の大きいP波から地震の規模や震源地を予測し、大きな揺れのS波が来る数秒から数十秒前に発表する緊急地震速報を伝える体制をとっています。速報を受けたときの行動指針をラジオなどで繰り返し放送しています。屋外にいる時、運転中の時など、状況に応じた行動マニュアルなのですが、屋内にいる時は次のような内容です。

〇頭を保護し、丈夫な机の下など安全な場所に避難してください。
〇あわてて外に飛び出さないでください。
〇無理に火を消そうとしないでください。

 阪神大震災の場合、死者の約80%、約5000人は倒壊した木造家屋の下敷きになって即死、被害は木造軸組構法の住宅に集中したとされています。もし外に飛び出していれば死者はもっと少なくなっていた可能性があります。「あわてて外に飛び出さない」は倒壊しない建物についてだけ言えることで、倒壊可能性の高いものまで一律にマニュアル化しては逆効果の恐れがあります。

 また東京都による被害想定によるとM7.3の東京湾北部地震での死者数は約9700人ですが、その約42%の4100人は火災によるもの推定されています。火災による死者が多いのは同時に多くのところから出火して逃げ道が遮断されるためです。火災発生件数の増加は死者の飛躍的な増加を招きます。

「無理に火を消そうとしないでください」という言葉を繰り返し聞かされていれば何割かの人は「消火は最優先することではない」と理解し、それを実行するでしょう。その結果、火災による死者は大きく増加する危険があります。木造家屋の密集地域ではとくに危険と思われます。たった一箇所の火災が数千人の避難路を遮断することもあり得ます。

 これを考えた人はきっと自分の命が最優先とする戦後教育にすっかり染まった人なのでしょう。まともな人ならば、数多くの人に甚大な被害をもたらすかもしれない火災の防止をこれほどまでには軽視しないでしょう。

 緊急地震速報に接したときのように、ゆっくり考える時間がない場合、合理的な選択よりもとっさに頭に浮かんだ方法を選択しがちです。ヒューリスティクスと呼ばれる簡便な解決法ですが、繰り返し叩き込まれたマニュアルは有力な候補になります。それが状況には不合理なものであっても選択されやすく、一律なマニュアルなどないほうがマシという事態も充分あり得ます。

 この緊急地震速報のマニュアルは実際の、あるいは想定される地震被害に対してはたして適切なのでしょうか。逆に死者を増やす可能性があると思われます。マニュアルを作ったのは気象庁で、NHKは熱心に伝えるだけ、被害想定を作成したのは東京都です。みんな独立心旺盛で、よそのことには関心がないのかもしれません、我々には迷惑な話ですが。