噛みつき評論 ブログ版

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防衛力強化の議論はタブー?

2010-09-27 10:07:33 | Weblog
 吉村昭著「ポーツマスの旗」は日露戦争時、日本側全権として講和会議に臨んだ小村寿太郎を中心に描いた小説です。政府は会議を有利に運ぶため、和平斡旋を引き受けたルーズベルト大統領と米国民をもちろん、要員を主要国に派遣しその国の世論をも味方につけるための努力が詳細に描かれ、当時の外交の周到さに驚かされます。一方、尖閣諸島沖の事件に対する政府の対応は別の意味で驚かされました。

 尖閣諸島沖の事件で中国人船長が釈放された問題に関しては既に様々な立場からいろいろな見方が発表されていて、私のような素人がどうこう言っても所詮二番煎じだと思うのですが、ちょっと気になることがあります。

 この事件は将来に禍根を残す日本外交の敗北であり、民主党政権の外交能力の低さを露呈したというのが多数の見方のようです。そして同時に中国は予測不可能な動きをする国家であるということが示されました。民主党政権の外交能力も困った問題ですが、こちらの方がより不気味な問題です。相手の行動が予測困難であるということはあらゆる事態に備える必要があるということになります。

 石原知事の「暴力団の縄張りと同じやり方」という発言のように、フジタの4名は人質となりました。外務省幹部は売春や麻薬で捕まっている日本人への死刑も含めた刑の執行を予測し、防衛省関係者は中国軍艦の尖閣周辺への派遣もあり得ると見ていたそうです。中国の行動は帝国主義の時代、日本をも含めた列強を思わせます。

 中国はこの20年間に軍事予算を18倍にし、空母建造など海軍力の強化を図っているとされています。それは将来、軍事的威嚇や軍事行動の必要があると考えているからでしょう。しかし近年の日本の防衛予算は逆に減少傾向にあります。まともに話も出来ない隣国が強大な軍事力を持ち、しかも膨張政策をとっていることは日本にとって大きな不安要因です。

 さらに日本は憲法9条によって手足を縛られていて、中国から見れば安心して軍事的な恫喝ができる国に見えることでしょう。日米関係の弱体化は中国に対し有利に働きます。鳩山元首相は日米関係に深い溝を掘るという大きな「業績」を残しました。中国から勲章を贈られてもおかしくありません。

 隣国による軍事的な脅威が顕著に増加しているとき、日本の防衛力だけ現状のままでよいとする根拠があるとは思えません。勢力の均衡が破れるとき、しばしば戦争が起こることは歴史が教えています。

 しかし、日本では軍事力の強化は戦争につながるという考えが強く、その議論さえできない状況が続きました。今回の事件でも抑止力の問題を取り上げたメディアは見あたりませんでした。

 鳩山元首相は首相になってから抑止力の重要性を理解されたようですが、抑止力は米国だけによるものではなく、自衛隊による抑止力も重要なものであり、外部環境の変化に対応する必要があります。中国が恫喝したとき、国内に防衛力強化の議論が出てくるだけでも中国に対する牽制となるでしょう。

 現在の防衛予算は子供手当て(満額の場合)より少ない額ですが、長期に抑止力を維持するためにはどの程度必要なのか、私にはわかりません。しかし抑止力について現実的な議論ができないような状況は好ましくありません。

 中国がどのような国になっていくか、予想は困難です。したがってメディアは相手も変わっていくという前提で、予想されるすべての状況に対応できるような体制実現の必要性を認識すべきでしょう。9条を死守するといった硬直した態度では自ら選択の幅を狭めてしまうことになり、情勢の変化にうまく対応できるとは思えません。中国にとっては願ってもないことですが。


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