日中紛争と題してハイデルベルクの独米文化会館で講演会が行われた。フクシマ後の講演に続いて再び、帰任したシュタンツェル前在京独全権大使の講演であった。数か月前に丸山真男研究家で先頃ハイデルベルク大学教授を退任したザイフェルト教授の設定した演題であった。
講演に先立ちザイフェルト教授からこの件に関しての同じく元外交官孫崎享の著書と前大使の幕末の研究書の紹介があった。どうして地図にも載らないような小さな島が紛争の対象になるのかの疑問を端緒として講演が始まる。
予め分かっていることは、前大使であっても次に米国の極東専門家として研究所に赴任する外交官であることは変わりないことで、前回のフクシマ同様に飽くまでも外交的な分析と予想がその内容であって、それ以上のことを期待してはいけない。そのことは、講演後に新任の後継教授が、あまりに日本側の視点での分析ではないか、米国の関与はどうだと詰問したのだが、それに関する回答は既に出来上がっているのである。
前者に関しては、以下の講演内容にも深く関わるが、それ以上に北京大使館にも専門家として赴任した連邦共和国外務省の極東専門家として、その分析と予想は決して間違ってはいけない訳で、彼が講演する内容とそこから導かれる見識は今後の外交方針の基礎と違っていてはいけないのだ。メルケル首相など政治家が判断する場合の基礎的な分析でなければいけないのである。その意味から、その講演の内容を外交的な辞令字句として扱うのではなく、その意味を読み取るべきなのである。後者に関しては、講演の主催者が独米文化財団であることよりも冒頭のザイフェルト教授による孫崎論文の言及や本人による舟橋洋一論文の紹介に含有されているとしてよいであろう。
そこで本題に入る。先ずは、この無意味にも見える尖閣列島の場合を南沙諸島紛争と平行に捉える。その枠組みに、近代化と経済成長に伴って、漁業権、海底資源、地政学的な価値、そして国家の沽券へと進む背景に、天安門事件以降の中共の弱体化を背景とする。この辺りは、FAZのジーメンス氏の分析に近いが、その弱体化に伴って二つの流れを顧みる。その一つは共産党自体の歴史的な流れであり、もう一つは日本の支配からの解放を添える。その後者がシナの国粋主義的な盛り上がりを以て、中共の弱体化を後ろ支えするという構図である。
それゆえに必要もないほどの無人島が中共にとって重要な課題となってきた背景であり、沖縄米国占領下においても砲撃目標とされていたその地域の占有になんら異議も唱えなかった占領権の問題が政治そのものとなってきたことを解き解く。その実際として、日中友好時代の言葉として有名な「次世代の課題として据え置く」の中共の外交政策を分析する。
つまり、これは政治学的に切っ掛けをつくり、その相手の反応を呼び起こすことでの外交方針であり、それを引き続き繰り返して遂行していくことを現実に行こうとする方法として認知する。シナの現実外交が厄介ものであり続けることはこれによって説明できる。そうした事情が、習主席がオバマ大統領を訪問した節に、「太平洋は我々両国にとっても大き過ぎる」とした発言に良く表れているのである。
それに対して、大国に挟まれる形の日本はどのようなことが出来たか、出来るだろうかと言うことで、論者の「切り掛けるのはシナであり日本は受け身であるからそのような視点しかないのだ」という基礎認識で、「日本政府が如何に無力であるか」を知らしめるに至るエピソードを列挙する。なるべく穏便にと言う日本外交の、日本文化の特殊性でもある。
それは、石原前知事が米国にて島の買い上げをぶち上げて中共が反応することになって、世界に初めてそれまでは実効支配していた魚釣島が国境問題であることを広く知らしめることになり、日中の国境問題として浮上する経過や、その時の野田政権は外交ルートで事の沈潜化をはかったにも拘わらずそれが敵わず、国際的に認知された国境問題となってしまったことが語られる。その他、漁民の逮捕不起訴の仙石問題などで、日本政府がお手上げとなってしまったことは、現在の安倍政権での村山・河野談話の注釈をしてもそうした日本政府の無力状態は変わらないのは、毎日の報道でも明らかである。
そうした傾向とは別に、鳩山政権の進めようとしたEUに倣ったアジア共同体の考え方は、その近代的な思考として評価するとともに、その背景にあった田中派に脈々とする小沢の対中・対米外交と共に、こうした日本の無力化からの脱出の可能性として言及するに至る。その他の具体案としては、既に提唱されているような国際裁判所での調停などが挙げられるが、その結果如何に依っての国際関係への影響などの難しさも語られる。
現状認識として、先ほどの航空指標設定による外交的な挑発は、FAZ紙が社説で伝えたようにかなり危険性を孕んだものであり、日本の菅官房長官の対応とともに緊張感を齎したものであったとして、余計にこうした中共の対応分析が重要であることを証明していた。今回の事象において米軍のボーイング機が選んだお試し飛行コースは綿密に中台関係の影響を認識していたことでも、また上の地政学的もしくは中台問題とその他の国境問題との差異を明確に峻別することの必要性の裏打ちとした。
日本の外務省は、習の権力掌握の時期を見届けるとしているらしいが、現在の米国もしくは武器商人の傀儡政権である安倍政権では独自外交への道と逆行していることだけは間違いなさそうである。それが正しく例示されていたのだった。月曜日には、日本の外務省が「共に核武装化の道を歩もう」と語りかけたブラント政権時のユダヤ系交渉人エゴン・バール社会民主党顧問が講演する。
参照:
Patt im Pazifik, Botschafter A.D. Volker Stanzel, (DAI)
独駐日大使からの福島報告 2011-06-29 | 雑感
情報の隠蔽も未必の故意 2011-07-01 | マスメディア批評
一発触発の民航機撃墜 2013-11-29 | 歴史・時事
中共が野田政権を後押し 2012-08-27 | 歴史・時事
そこには何でも埋まっている? 2010-09-18 | 歴史・時事