フレドリック・ルジェスキーとイゴール・レヴィットのリサイタルを聞いた。小ホールに一杯の聴衆だったが近くでスタインウェーを堪能した。勿論前者のピアノは作曲家のそれだったが ― しっかりと楽譜を確認しながら一音一音丁寧に弾く ―、まず最初にドイツ語で黒沢明の名作「夢」にインスプレーションされた創作として曲「ドリームス」を紹介した。彼に言わせれば「音楽の形を与えただけだ」となる。
Frederic Rzewski: Dreams
正直驚いたのはドイツ語を話したことで、恐らく周りの聴衆もゲットーの繋がりを直ぐに想像してしまったと思う。ベルギーのアーヘンに近いリェージュで長く教鞭をとっていたことからドイツ語もと思ったが、やはり両親はドイツ語を喋っていたのだろう。仲間が彼にコンタクトしていた時もドイツ語だったとは聞いていなかった。2曲目の「カブリオ―レス」もシモーネ・ケラーに献呈されているようで、退職のメールも貰ったピアニストでもあるケラー氏の娘さんなのだろう。髭のヴェルナ―・バラッチュにも習っている。
第1曲はそのもの「ドリーム」で、3曲目の「アメンシュ」はドイツ語だが英語の不定冠詞がついているイディッシュ語のようだ。アメリカのアクションアーティスト、スティーヴ・ベン・イスラエルに捧げられている。ラグタイムやジャズ即興風がまたとてもユダヤ風だ。前半最後の「失われたイリュージョン」が一番素晴らしかったが、英国のピアニスト、イアン・ぺースの委嘱作となっている。
Steve Ben Israel & Baba
後半は、最前列で一緒に聞いていたレヴィットが今度は壇上に上がる。上体を屈めた姿勢が印象的だったが、ペダルを含めてとても拘りのピアニストだった。流石に作曲家のピアノとは楽器が変わったかと思わせるほど違うが、この春に先行してキリル・ペトレンコと共演したカナダのアムランなどと比較するとピアノの名手であるよりも拘りの音楽家であって、少しピーター・ザーキンをイメージさせた。なるほど「ドイツのピアニスト」としては、ブッフビンダーやシュタットフェルドまでを含めた中で、第一級の名人であることは間違いない。キット・アームストロングなどとは違って完全に完成しているのも全く異なる。
Igor Levit - Rzewski's Variations (Gramophone Classical Music Awards 2016)
FREDERIC RZEWSKI The People United Will Never Be Defeated! Pt.1/5
Hamelin - Rzewski:The people united will never be defeated!
それでもフィナーレ第8曲のフォークソングのウッディ―・ガスレーの「ウェークアップ」などでの変奏などはとても見事だった。後半最初第5曲目の「ベルズ」の鐘の余韻のような響きの制御も聞かせどころで、勿論リズム的な精査が流石である。第6曲目の「蛍も」黒澤のそれを印象させるが更に心象世界は広がっていて、中々怖い曲だ。第7曲の「廃墟」もトレモロなどが多用されるがより対位法的にも複雑になっていて全曲の集大成のようになっている。このような曲のこのような演奏を聴けば、この作曲家のピアノ作品がこうして一流のピアニストで弾かれるべきなのも分かり、この若いピアニストがこの作曲家に傾倒したのもよく分かった。そして二部はハイデルベルガーフリューリングなどの委嘱で2015年初演のレヴィットに献呈されているとは知らなかった。
Woody Guthrie - Wake Up
一番話題になっていたであろう1970年代から高橋悠治などは弾いていたようだが、こうして聴くようなことになるとは全く思ってもいなかった。79才であり自作自演を聞ける機会はそれほどないと思うが、それと同時にこうして拘りのピアニストの演奏実践が聞けるとはなんと幸運なことであったろうか。そしてそのピアノ芸術を堪能した。
レヴィットのツィッターを今回も見たが、反プーティンなどにも熱心で流石である。兎に角、おかしな連中には東京に引っ越してもらって、文化の吹き溜まりのようなそこで糊口を凌んでいただきたいと思うばかりである。レヴィットは、東京から戻って来てから今度はヴァークナー博士のベートーヴェンフェストで三度ほど演奏会を開く。
参照:
時間と共に熟成するとは? 2017-04-24 | 文化一般
自身もその中の一人でしかない 2017-06-07 | 生活
広島・長崎を相対化する福島 2011-08-06 | 歴史・時事
Frederic Rzewski: Dreams
正直驚いたのはドイツ語を話したことで、恐らく周りの聴衆もゲットーの繋がりを直ぐに想像してしまったと思う。ベルギーのアーヘンに近いリェージュで長く教鞭をとっていたことからドイツ語もと思ったが、やはり両親はドイツ語を喋っていたのだろう。仲間が彼にコンタクトしていた時もドイツ語だったとは聞いていなかった。2曲目の「カブリオ―レス」もシモーネ・ケラーに献呈されているようで、退職のメールも貰ったピアニストでもあるケラー氏の娘さんなのだろう。髭のヴェルナ―・バラッチュにも習っている。
第1曲はそのもの「ドリーム」で、3曲目の「アメンシュ」はドイツ語だが英語の不定冠詞がついているイディッシュ語のようだ。アメリカのアクションアーティスト、スティーヴ・ベン・イスラエルに捧げられている。ラグタイムやジャズ即興風がまたとてもユダヤ風だ。前半最後の「失われたイリュージョン」が一番素晴らしかったが、英国のピアニスト、イアン・ぺースの委嘱作となっている。
Steve Ben Israel & Baba
後半は、最前列で一緒に聞いていたレヴィットが今度は壇上に上がる。上体を屈めた姿勢が印象的だったが、ペダルを含めてとても拘りのピアニストだった。流石に作曲家のピアノとは楽器が変わったかと思わせるほど違うが、この春に先行してキリル・ペトレンコと共演したカナダのアムランなどと比較するとピアノの名手であるよりも拘りの音楽家であって、少しピーター・ザーキンをイメージさせた。なるほど「ドイツのピアニスト」としては、ブッフビンダーやシュタットフェルドまでを含めた中で、第一級の名人であることは間違いない。キット・アームストロングなどとは違って完全に完成しているのも全く異なる。
Igor Levit - Rzewski's Variations (Gramophone Classical Music Awards 2016)
FREDERIC RZEWSKI The People United Will Never Be Defeated! Pt.1/5
Hamelin - Rzewski:The people united will never be defeated!
それでもフィナーレ第8曲のフォークソングのウッディ―・ガスレーの「ウェークアップ」などでの変奏などはとても見事だった。後半最初第5曲目の「ベルズ」の鐘の余韻のような響きの制御も聞かせどころで、勿論リズム的な精査が流石である。第6曲目の「蛍も」黒澤のそれを印象させるが更に心象世界は広がっていて、中々怖い曲だ。第7曲の「廃墟」もトレモロなどが多用されるがより対位法的にも複雑になっていて全曲の集大成のようになっている。このような曲のこのような演奏を聴けば、この作曲家のピアノ作品がこうして一流のピアニストで弾かれるべきなのも分かり、この若いピアニストがこの作曲家に傾倒したのもよく分かった。そして二部はハイデルベルガーフリューリングなどの委嘱で2015年初演のレヴィットに献呈されているとは知らなかった。
Woody Guthrie - Wake Up
一番話題になっていたであろう1970年代から高橋悠治などは弾いていたようだが、こうして聴くようなことになるとは全く思ってもいなかった。79才であり自作自演を聞ける機会はそれほどないと思うが、それと同時にこうして拘りのピアニストの演奏実践が聞けるとはなんと幸運なことであったろうか。そしてそのピアノ芸術を堪能した。
レヴィットのツィッターを今回も見たが、反プーティンなどにも熱心で流石である。兎に角、おかしな連中には東京に引っ越してもらって、文化の吹き溜まりのようなそこで糊口を凌んでいただきたいと思うばかりである。レヴィットは、東京から戻って来てから今度はヴァークナー博士のベートーヴェンフェストで三度ほど演奏会を開く。
参照:
時間と共に熟成するとは? 2017-04-24 | 文化一般
自身もその中の一人でしかない 2017-06-07 | 生活
広島・長崎を相対化する福島 2011-08-06 | 歴史・時事