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習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ザ・マジック・アワー』

2008-06-12 21:43:40 | 映画
 三谷幸喜の第4作は、かなりヤバイ映画だ。興行的にも作品的にもとても危険な綱渡りをしている。映画のバックステージものは絶対ヒットしないという定説があるが(あると思うが)敢えてそんな禁を破り挑戦したのは、それでも映画が好きだという彼の熱い思いであろう。

 楽屋落ちになりがちだし、へんな薀蓄は一般の人の興味を削ぐことに成りかねない危険がある。そんなこともわかった上でやはりこの題材で作ろうと思ったのは、やりたい、という純粋な気持ちに勝てなかったのだろう。

 『THE・有頂天ホテル』のような大ヒットを望むのなら、映画をテーマにしたりしないほうがいい。なのに、やらざる終えない。素朴で単純な理由。好きだから。まるで子どもだな、と思う。でもそんなとこが彼の良さだとも思う。

 だから、やると決めた以上はとことんやってくれ、と思う。だいたいマーケッティング戦略には長けた彼のことだから簡単に失敗したりはしない。今回も中高年にターゲットを絞り込み、彼らが喜ぶシチュエーションを作っている。映画の黄金時代のプログラム・ピクチャーへのオマージュとなっているのだ。昔浴びるほどどうでもいいようなアクション映画を見た世代を喜ばせるような、そんな映画になっている。

 三谷ブランドで、若い層を引き込むことも出来るか否かに今回の成否がかかっている。前作があれほどの大ヒットとなったことは充分プレッシャーとなっていることであろう。それなのに、それに負けず、とてつもない冒険にチャレンジする。そんな彼の姿はちょっとカッコイイ。

 だが、そのカッコよさって、なんだかドンキホーテと似ている。道化すれすれを敢えて演じる。主人公2人も同じ理由で、なんだかカッコイイ。佐藤浩市のちょっと勘違いしたダンディズム。妻夫木聡のほんとうはオロオロしているのに、腰の据わった顔で対応する姿。この2人がギリギリで芝居をしている。あと少しどうにかなったなら、この映画は空中分解していたはずだ。あぶない、あぶない。

 彼ら2人が、お互いに立場は違えども、同じように映画撮影という虚構を演じることで、この舞台となる町、守加護(シカゴのもじり)というこれまた嘘くさい町を舞台に、ギャング団による争いの中、自分たちの命をいかに守っていくか、さらにはここから無事に脱出できるのか、という感じのストーリーラインを持つコメディーになっている。ハラハラドキドキは当然の事だが、それ以上にこのありえない嘘話を「そんなの嘘じゃん」と言わさないだけの世界観を提示できている。

 映画なんて嘘の世界だ。しかし、その世界に浸っている時の心地よさ。たった2時間ほどだが、ずっと夢の中を生きられる。そんな幸せは他にない。現実の人生なんかよりずっと素敵だ。だが、人は映画の中を生きれない。映画のような人生を生きることすら叶わない。

 だから、僕らは映画を心から愛する。自分の人生を生きる合間合間にたくさんの映画を見る。この映画はそんな当たり前のことを改めて思い知らせてくれる。とてもよく出来ている。かなりギリギリのところで、あと少しで破綻する、そんながけっぷちに成立した映画である。僕はこの欠点だらけの映画の方がよく出来『THE・有頂天ホテル』よりも好きである。

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