サン・テグジュペリの『星の王子さま』をもとにして、飛行士と王子さまの交流を描くミュージカル。10数曲の歌が散りばめられて、お話は原作に忠実。砂漠に漂着した男が王子さまと出会い、彼と関わっていくうちに、今の自分の生き方を見つめ直すことになる。死んでしまった弟への想い。恋人のこと、空への想い。そんなこの小さな小説に込められた想いをしっかりと汲み取って、人と関わり会うことの意味を伝える。
ほんとうの友だちって、何だろうか。相手のことを思いやる、って、どうすることなのか。誰を大切に思って、その人のために何をすればいいのか。飛行士は王子さまのお話を通して、自分の人生を振り返ることになる。この小さな男の子の無邪気なお話が大人のはずの彼を変える。
クライマックスはもちろんキツネとの話だ。なんと4役も演じた山本あす美が演じる。彼女が素晴らしい。このファンタジーの要となる部分をしっかり引き締めた。流れていくようにそれまでのエピソードは綴られるのだが、ここできちんと立ち止まる。(ダブルキャストになっているから、堀由香が演じた回もある。きっとこちらも別のおもしろさがあったはず)
誰もがよく知っているお話を、なぞるのではなく、自分たちの問題として真摯に受け止め、考えさせられる。主人公のふたりがとてもいい。飛行士はもちろんいつものように中村多喜子。彼女が中心になるのが邂逅の芝居。そこからすべてが始まるのだが、今回、王子さまを演じた河野光南が素晴らしい。ただ無邪気なだけではない。彼女の素直さが作品全体を引っ張っていく。中村さんは彼女に引きずられて、ただついて行くだけでいい。
コロスたちの使い方も上手い。彼女たちが作品世界を贅沢に彩る。わかりやすいお話を流れるようなタッチで見せていく。単調になりかねないところを、うまくバランスを取りながら、2時間一気に見せる。