泉寛介演出の『おおきな声がうるさい』がおもしろい。豪華キャストが集結して、中編ではなく長編仕様の作品なのだが、それをこの尺で見せたとき、とてもシンプルで心地よいものに仕上がった。妻を失い失意の日々を送る父親と、彼を心配する子どもたちの群像劇。本当ならいろんな要素を放り込んで、2時間くらいに仕上げるところを、悠々たるタッチなのに、40分強にして見せる。子どもたちのそれぞれの事情をちゃんと描きながら、頑固な父親とのほのぼのとした家族の物語として見せる。ちょっと甘めの小津の映画(そんなのあるのか?)でも見ている気分だ。簡潔で、ちょっとした描写がそれぞれの心の機微を丁寧に見せる。泉演出の賜物だろう。適材適所の役者たちが上手いから安心して見られる。
今回のこの企画は泉+坂本コンビが絶妙でA,Bとも面白い作品になっている。こういう「企画もの」は得てして妥協の産物(のようなもの)になる場合が多い気がする。どうしても船頭が多ければまとまりに欠けることになる。お互いに遠慮もあろう。だがこのふたりはまるでそうはならない。自分のペースを崩さないからだ。まるで接点のない自分本位の芝居作りで、別々の方向を向いた作品なのに、セットになればなぜか、しっくりとくるのは凄い。