ボヴェ太郎『ｉｍｐｌｉｃａｔｉｏｎ』

闇の中からゆっくりと浮かび上がってくる。そして、再び闇の中にゆっくりと消えていく。明かりが消えて完全な闇になった後にも気配が残る。闇の中で、音はしばらくは残る。しかし、それも消え、かすかに残っていた何かがすっかり消える。

　ボヴェ太郎は優雅に、静かに舞う。ゆるやかに、くるりと回転する。気付くとその体が一回転しているのだ。あまりにゆっくり動いていたから、動いていることにすら気が付かない。ピアノ曲が静かに流れる。だんだん眠くなってしまう。それくらいに単調で、動きに変化がない。

　人の体がこんなにもゆるやかに動いていく。少しずつ体が動き、何度となく舞台上を舞う。その一連の動きは静止しているように見える。だから、一転したときに驚く。止まることなくゆっくりとゆっくりと動いている。わざと動きを遅くしているのではない。目に見えないくらいに静かに、確実に動いているのだ。そんなふうに見える。バロック調のピアノ曲がこのダンスの背景に流れる。音楽はボヴェの動きを盛り上げるのではない。ただ静かにそこに共存している。

　何度も書いているが、彼のダンスは踊るというより、舞うという表現が似合う。その身体の特徴は、躍動感を誇示するでなく、ただ流れるようにそこにある。ここにある全てが、水の流れのように、静かで透明に澄んでいる。

　空間の中に自分の体を置いてみて、この空間全体を再構築していく。それを音と明かりが、一体となって作り上げる。空間の中に身体が綺麗に納まっていく。すべてが調和してひとつの小さな世界を作り上げていく。そんな中で緩やかにボヴェが舞う。

　この世界はとても単純で美しい。滑らかで流動的な宇宙を提示する。その世界に寄り添うようにボヴェは身を委ねる。当然のこととして、彼がこの舞台の中心にあるのに、彼はその存在を不必要には誇示しないのだ。