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映画・演劇のレビュー

ゲキバコ!『葉桜観想』

2008-04-19 22:22:32 | 演劇
 とても端正に作られた作品。美術が素晴らしい。この6畳の部屋から2人は一歩も出ない。少女たちはこの閉ざされた空間の中で息を潜めている。ずっと閉まることなく、最後まで開かれたままの窓。(最後で閉められ、シルエットで桜が映るのがいい)彼女はそこから見える外の世界を憧憬する。そして、そこにいた男性に恋をする。

 病のため床から出ることなく暮らす妹(堺のぞみ)と、彼女の身の回りの世話をする姉(余地見空香)。ふたりっきりの世界。外の世界では日露戦争が起きており、日本は大きく揺れているけど、彼女たちはこの小さな世界から出ることはない。ここで空想の男性に恋をする。彼女は想像の中で、彼への想いを綴る。彼女の書いた「彼からの」手紙。その手紙の続きをしたためる姉の書いた「彼からの」手紙。2人の少女たちの満たされない想いがこの小さな芝居を形作る。

 太宰治の短編『葉桜と魔笛』を姉と妹との会話劇として再構成した吉野圭一さんの台本は原作のイメージを損なうことなく忠実になぞる。姉の独白として書かれた世界を2人の世界にし、きちんと仕立てる。そのため作品世界が小さくまとまりすぎたのが残念だ。芝居としての想像の翼を充分に広げる可能性がたくさんあったのにそこに封印をしてしまった。

 窓という開かれた境界であり突破口でもある場所。でもそこから外に出ることは叶わない。ここをもう少し象徴的に使えたならよかった。この芝居は少女たちの視線の劇であり、それは決して叶う事のないあの窓のむこうに向けられている。夢見る想いと、叶わぬという諦め。そのあわいで揺れる心。それが劇的に描かれるためにも、窓に向ける2人の視線をもう少し上手く演出出来ていたならと惜しまれる。

 障子紙で作られた壁と窓で囲われた「白い部屋」。その向こうに広がる大黒によって作られる「黒い世界」。この白と黒の対比は見事だ。それが明かりによって黒から白に反転していくのもいい。しかし、そういう仕掛けがドラマときちんと連動していない。丁寧に作られているように見えて雑な部分も多い。

 口笛の謎が解明するところで芝居終わってくれたなら綺麗だったのに、その後まだ説明が続くのは少し興ざめだ。吉野さんは丁寧に語りすぎ。切るべきところではすぱんと切って欲しい。

 

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