
これは凄い。短編連作なのだが、冒頭の母親が夫を殺す話のあっけらかんとしたタッチに興奮する。最初はこの老人は痴呆なのか、とか、最近よくある介護疲れからの犯行かとか、思うけど、そうじゃない。確信犯的行為なのだ。でも、彼女は夫を恨んでいるとかいうわけではない。では、何なのか? まるでわからないまま、突き放されたように、唐突に断ち切られる。
最初は短編集で、ひとつひとつは独立した短編だと思ったから、こんなところで終わるなんて、と衝撃を受けた。これはいったい何なのだろうか、と。(でも、次の話を読んで、短編連作と知り、少しほっとする)79歳の母親が7つ年下の夫を簡単に殺してしまう。寝ているところを、濡れ布巾で口と鼻をふさぎ、息が出来ないようにした。3人の子供たちがやってきて、今後のことを相談する。普通なら警察に届けるのが筋だが、彼らは死体遺棄で一致団結する。そんな父親なのだ。だが、彼は悪い男ではない。いいかげんで女にだらしなく、家族を顧みることもなく放蕩三昧だけど、憎めない。
ふたりの娘、一番下の弟。彼らの家族。もちろん、母親、そして父親や彼の愛人。7つのエピソードがどんどん時間を遡るようにしながら描かれていく。そこから浮かび上がる彼ら家族のドラマが、再びラストで1話の続きとして語られることで、完結しない。最初と同じように突き放されるようにして終わるのだ。でも、ここまでたどりつくと、僕はもう驚かない。これはこんなお話なのだ。茫洋としたまま、放り出される。これは実によくできた作品だ。