習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇団大阪『月の砂漠』

2008-06-20 22:24:03 | 演劇
 山田太一のドラマを見ているような始まり方だ。だが、事件があまりにてんこ盛りになりすぎて芝居自体がそれらをきちんと消化できないまま先に先にと進んでいく。これでは家庭内に起こる事件のショーケースである。しかも、連続していくことにより収拾がつかなくなっていくという事態を見せていくにしてはタッチがシリアスすぎる。

 現実の家庭では、ここまでモデル化したことがすべて起きていくわけがないし、もしそんなことが起きたならそれはコメディーとなるしかない。この芝居はその臨界点を見せていく、というかなりやばい芝居なのかも知れないが、作り方が真面目すぎて化学変化が起きないまま、現実をすべて受け入れていくしかない、ということになる。

 それにしても、息子が突然暴れ出すのはあまりに唐突で、とってつけたような印象を与える。最初、彼はいつまでたっても部屋から出てこない。部屋で暴れているばかりで、そのため彼のエピソードが芝居全体から置いてけぼりを食らう。

 ここまで行くのなら、いっそ彼を「部屋に籠ったままの不気味なモンスター」として描き、それを作品全体のアクセントにしたならよかった。だが、そんなふうには決してならない。要するに他のエピソードが忙しいから彼の話は後送りされていただけ、という印象を与えることになった。彼がなぜキレてしまうのかも、この芝居を見ただけでは全く見えてこない。最初はそれでもまだいい。だが、彼が舞台に登場してからは、せめてもう少し描きこまないことには話が弾まない。

 完全に解体した家族を安直に再結集させたりしないのは、よかったと思う。ラストのクリスマスのシーンでめでたしめでたしになんかされたら、情けなくて泣いていただろう。さすがにそれはしなかった。救われた気分だ。

 それにしても、リストラ、家庭内暴力、不倫、派遣、起業の失敗、ぼけ老人の介護、ボランティア、離婚、妻の独立、再就職、等々、1本の芝居の中によくもこれだけのものを詰め込んだものだ。これで1本の芝居にしようだなんて、無謀としか言いようがない。冗談ならともかく、それを大本気で、全ての問題と真摯に向き合おうだなんて、不可能である。なのにそれをしようとするから結局全てが中途半端なままになる。真面目な芝居だけに残念だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« よしもとばなな『サウス・ポ... | トップ | 『西の魔女が死んだ』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。