風の無い晩に歌が聞こえる……
――月は黒ずんだ青葉の
曲折ギザギザに銀を被キせてる。
……歌がきこえる、 生埋イキウメになった
木精コダマかしら、そらあの石垣の下さ……
――已ヤんだ。 行って見よう 、そこだ、その陰だ。
蟾蜍ヒキガエルよっ。 ――なにも恐い事は無い。
こっちへお寄り、僕が附いてる。
よっく御覧、これは頭を圓マルめた、翼ハネの無い詩人さ、
溝ドブの中の迦陵頻伽カリョウビンガ…… あら厭だ。
……歌ってる ――おヽ厭だ。 ――なぜ厭なの。
そら、あの眼の光ってること……
おや冷スマして、石の下へ潜ってく。
さよなら ――あの蟾蜍は僕だ。
トリスタン・コルビエール 「黄色な恋」より 蟾蜍ヒキガエル
迦陵頻伽カリョウビンガ
〔梵 Kalavi ka 好声鳥・妙音鳥などと意訳する〕
(1)想像上の鳥。雪山セツセンまたは極楽にいて、美しい声で鳴くという。上半身は美女、下半身は鳥の姿をしている。その美声を仏の声の形容とする。迦陵頻。びんが。
宝相華金銅透彫幡頭(ほうそうげ こんどうすかしぼり ばんとう)の 画像に見える。
(銅鍛造、透彫 平安時代・12世紀 岩手・中尊寺所蔵)
(2)美しい芸妓。また、美声の芸妓。
-☆-
蝦蟇も 蛙も 一蓮托生。