ホオズキが実ると思いだす。
汗疹の顔とハギの花、 お線香の匂い。 お団子、麦茶。
母の新盆にあわせ、弟は幼子に見せたいからと神奈川で準備するようだ。
「こういうことは やっぱり、伝えなきゃいけないね」 「文化だよ…」
ますます電話の声が弾んでくる。 ふたりとも、 遠いあのころを懐かしんだ。
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祖父の号令で、小学生だった私たちは 年に一度、すすけた仏具をぴかぴかに磨いた。 香炉、 花立て、 蝋燭立て、 りん、 ご飯を盛る器、 お茶用も金属なので輝きが戻った。 仏壇のまえに精霊棚ができあがるのも楽しみだった。
棚のうえに真菰を敷いて四隅に笹竹を立てる。上のほうを藁で仕切って結界とする。 神聖な場所が生まれた。 藁の間に、ホオズキや花を飾ると、赤いランタンのようにきれいだった。
いつもやさしい祖父があらたまって、厳しい顔で指図していたのも特別な日。 こどもは従姉妹とお祭り気分。 そのひとつひとつに深い意味があることも知らず、知ろうともせず、真夏の暑さばかり気にしていた。
なんて、もったいないことをした、 と思う。 あたらさん! だ。
まだ明るいうちにお風呂に入ると、 浴衣を着せられた。 天花粉の白い首で走りまわる。 神妙に提灯を持って、近くの墓地へ仏様を迎えに行ったね。
①キュウリや茄子に「おがら」の足をつけて供える。 おがらは麻の皮を剥いだもの。 これは先祖の霊が「きゅうりの馬」に乗って一刻も早くこの世に帰り、「なすの牛」に乗ってゆっくりあの世に戻って行くようにとの願いを込めた
② お皿に蓮の葉を敷いて、その上にナスを賽の目に切ってのせる。これを「水の子」という。 ナスの種が百八つの煩悩にたとえられているらしい。
③ 別の皿に蓮の葉を敷いて水を入れ、みそ萩の花束に含ませ、 ②の「水の子」茄子にかける。 これを灑水シャスイといって、 煩悩を鎮めるためだった と知った。
昔から続けてきたことを次の世代につなぐ。 全てに意味があることを伝えたい。 今になって祖父の想いも分かってくる。 現在も、精霊棚は守られているのだろうか。 ふるさとでは、伯父の代からだんだん消えていった。
晩には近所のひとが ご先祖に逢いに来て。 お茶菓子を出して 夜更けまで。 三々五々、お参りが絶えなかったね。 私たちも、 おかしを目当てに、 遅くまで起きていたね。 いつも しんがりはあそこのおじさんで… 決まってたね…
こんな話が尽きない年頃だ。
清少納言ではないが、 できるだけ大きいのを選んで種をもみほぐす。 追い羽根のようになった赤い外殻を引くと、根ごと、 まるまる中味が取り出せた。 よく洗って口に含んで鳴らした。 ギュウ、ギュッ… 鬼灯の音、 ほろ苦い味がする。
精霊棚の説明は こちらを 引用した