2階席1列、舞台上手はオーケストラに手がとどく。 俯瞰できる申しぶんない場所。 指揮者や演奏家の表情、息づかいなど心の動きまでわかるようだ。今、どの楽器がこの音で、と、まさに臨場感をもってながめることができた。 見ると聴く、ふたつの喜びにわいた。 現代音楽は分かりにくい、 絵画だってと思ったが…
指揮 岩城宏之 演奏 新日本フィルハーモニー交響楽団 合唱 東京混声合唱団
① 武満徹:「風の馬」より
混声合唱 チベットの遊牧民族が移動すべき次の土地を決めるために占う。高原の広い空間に一条の縄を張り、民族衣装の切れ端が結ばれる。 やがて風が吹く。 澄んだ冷たい空気の中ではたはたと音をたてる、とりどりの色。その布のたなびく方へ移り進んで行く。「風の馬」とはその布が結ばれた縄を言う。 武満徹、唯一の合唱曲である。 とにかく広い草原と、さわやかな風を感じた。牧歌的な風景がうかぶ。
② クセナキス:誓い
トレモロや音程のない叫び、フ、ふ、と吐く息、吸う無声音など。天上の声か。 ラスコーの壁画は、こんな音楽で生まれたかしら、などと重なる。
現代音楽は難解? いいえ、 深くて遠いせかいの音楽だ、と つくづく考える。
③ 三枝成彰:六声のためのマドリガル (後述) 彼のファン、 トークも聴けた。
④ 中田喜直:夏の思い出/雪の降る街を
緊張していた耳がほっとしている。 訓練された合唱は 楽器にも勝る
⑤ 一柳 慧(とし):インタースペース ピアニストとしても活躍中。世界的作曲家。 FMでなんども聴いた。
⑥ 権代敦彦:84000×0=0 オーケストラのための作品88
阿弥陀如来のはたらき(0)により風が84000の煩悩の炎を吹き消す。 =0、そこは浄土、そこは無限。
作曲のおふたりも紹介された。 現代音楽も よく聴けばたのしい。 受け手の姿勢いかんだとわかる。絵画においても。
絵画は 有名なラスコーの壁画(仏)やアルタミラの壁画(西)など1万5千年前から辿ることができる。 それはもう気が遠くなるほど、はるか昔のことだ。 それに比べると音楽の歴史は
クラシックにおいては、かのビバルディでさえ1678 ~1741、「四季」を作ったころ、日本では徳川吉宗が将軍となり、尾形光琳が亡くなっている。
江戸時代なら、 つい今し方のことになってしまう。
きょうの三枝成彰作曲 「六声のためのマドリガル」 を聴きながら、 しきりにそのことを思った。 現代音楽の中にいにしえをみる。 6人の歌い手は 壁ぎわ出入口まえに、 闇のなか額に灯りを着け現れる。 対角に配置され、伴奏のない歌というより、声を発する。 それが会話するようにあちらこちらから響く。 歌声は追いかけ、もつれ、ほぐれつつ、やがて混じり合う、音のスペクトル。 やがて歌いながら客席中央に集まると、 声と声はぶつかりあい、対決する。 今まで聞いたことのない不思議な音楽となり、ホールにとどめく。 たのしき試み。 三枝成彰27歳のとき創られた。
現代音楽から、石器時代や古事記が見える。 銅鑼や太鼓、弦楽と 叫ぶようなコーラスが遠く近くひびきあう。 神々の宴を想像したり、 明日香のうたびと達の影もよぎる。 現代音楽とは、なんとあらたしく神聖、火炎土器を目の当たりにする感覚。 九博のもようを見たばかりのせいかもしれない。
普段使わない感覚や細胞も目覚める心地。 女4人、年賀状の話からおせちへ。 果ては介護に行き着いた。 夜風に吹かれながら テラスで食事。 それぞれ何かを負って。
⑦ ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 op.67「運命」
現代音楽と運命 すてきな取り合わせ。
おもしろく、心にのこる いいコンサートだった。