「心」 装幀原画 夏目漱石 1914年
結局のところ特別展だけで、 4時間もかかったことになる。 惹きつけられ丁寧に見たのだ。 10時入場、 6章のデスマスクに逢い 漢詩など読んで、風呂敷にある漱石のデザインにほれぼれ見とれ、 出口の標識のところが午後2時。
常設はまったく見ず。 お腹もすいた。
とても面白かった。 心踊りして まとまらないメモ。
中身、 漱石の文学は他の方にお任せして。 こちらは 装幀の力にうなってしまった。 表紙は布張り。 芸術として、 愛しい宝箱のような函を穴の空くほど見つめた。 色もデザインも実によかった。 牡丹 ひなげし クレマチス?
橋口五葉のそれも。 漱石自身による装画、 装幀も。
題字のセンスなど。 思いがけない発想の、 全てが魅了した。
入り口で肉声を聴く。 小柄な漱石、 約159㎝ 53㎏。 身近に お姿も想像できる。 未着用の着物、 袴。 長襦袢はパッチワーク風の柄。 これほどモダンな配色を見たことがない、 得も言われぬ趣に感歎する。
基調はあかね色、 代赭色や鳶色が配され、 線書きの植物ともつかず、 幾何学的な模様などはめ込まれていた。 一瞬、 これほど朱いものを男性が? と思ったが、 鉄無地の羽織、 濃藍の着物に… どきっとするような襲ねの対比は、 なにより自分が楽しいのだ。 裾捌きに粋がただよう。 その心意気、 たまらなく好き。 絵を描いた漱石の美学だ。 ハンサムな文豪に、 さぞかし似合ったことだろう。
装幀へのこだわりは、 植物を育てるのに似ている。 自分で蒔いて、挿し、 植えて。 削ったり、 ほどいたり、 厳しく見つめ、 花のすべてを知って、 開花させた。 あがる意匠は、 感性が噴出する好もしい出来。 古めかしさも新鮮で、 まぶしいくらいに素敵だった。
詳しくは 「文豪 ・ 夏目漱石 ―そのこころとまなざし― 」
漱石が出題する試験問題、 講義記録など。 几帳面な漱石と門下生の木曜会のこと。 漱石先生の温かいまなざし、 「僕のお父さんになってください」 と訴える学生の手紙 及び返信。
寺田寅彦にとっても、
漱石は 教師であり 父であり 母であり、神であり、 恋人のような存在だったような気がする
(漱石先生の手紙 出久根達郎)
心のやり場がないときに先生を訪ねる。 先生と向き合っただけで慰められる。 先生はいつも、どんな場合にも 決して思いやったようなことや、おためごかしなどは少しも言われない方である。 別に慰めるようなことを言われるでもないが充分にその思いやりを受けることが出来るような気がする。 そうして、 先生の前へ出ると不思議に自分は本当に善い人になった心持ちになる。 少なくとも先生の前に居る間は善い人になっているのである。 (「夏目先生」 寺田寅彦 抜粋)
共感できる。
・中国最古の刻石 石鼓文のこと 故宮博物館 「心」 馴染みの朱と緑青
・ 「入社の辞」
変わり者の余を変わり者になるような境遇においてくれた朝日新聞の人に 変わり者として出来得る限りをつくすのがうれしき義務である
記事より抜粋。 暗がりで新聞コピーがよく見えなかったので誤りがありましたらごめんなさい。
・ホトトギスの表紙 毎号変わる題字のデザイン
・獺祭書屋主人 子規にすすめられ絵を描きはじめた
図録(ガイドブック)は 書店、 朝日新聞販売所にもあります。
チラシ 拡大 おみやげ メモ用紙など
追記: 「心」表紙意匠について (題字 「心」… 周の宣王の時代の古体漢字・大篆書による木版。 背景 「石鼓文」の拓本より復刻、石版刷り)