露が… ゆっくりと落ちる。
葬儀の体験は幾たびか、 それでも 湯灌(ユカン)の儀に立ちあうのははじめてだった。 身震いするような静けさと、 気高い尊いじかんが止まったままだ。
通夜に先立ち 近親者だけがみつめた。
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義母は祭壇のまえで タオルを掛けて白い花のように横たわっている。
まず 男性が入念に爪を切り、 身内のようなやさしさで手足を洗い、 流した。
女性はていねいに泡立て洗髪を施し、タオルの下でからだを浄め、 母はとても気持ちよさそうに見える。
男性がタオルを幕のように揚げ、 女性が体を拭く。 着物を合わせる。 連携はみごとで、 細やかなしごとを感謝のきもちでじっとみつめた。 顔と手足のほかは、 肌をまったく見せない。 気配りは、 ひととしての尊厳をまもり、 あくまでも丁寧だった。
家族はどれだけ安堵したか、 神聖なおくりを、 固唾を呑んで見まもった。
いっさいが美しい。 心のこもったプロの技はあたたかく、 厳かに手際よく進んでいる。 やがて 母は若やいで皮膚の色も冴えつやつやと光ってきた。
そっと 触れてみる。
シーンと 冷たかった。
仄かなピンクに染まる母は、 まるで生きているようだ。
生前のような薄化粧をして 装束を整える。
よかったね、 お母さん… よく生きて… 安らかな末期をむかえ
素晴らしい旅立ちをかなえた ことと、 口々に感動していた。
居合わせた 中学や高校の子も見守った。
人の一生は 胸を打つことばかりだ。
あえて 記録しておこう。 陰でアガパンサスが咲いている、 母が好きな花だ。