ドアの向こう

日々のメモ書き 

blue、bleu、blue

2006-02-28 | 道すがら



 Sさん 私、黙って南仏に行きました。 
多くの画家を惹きつけたアルルやエクス・アン・プロバンスのツアーにひとり参加です。
 近ごろ模写をつづけ、巨匠の気持ちをたどっていたね。ぜひ、この明るい光を見たい、その場所に行こうと思いました。
 
 Bonjour アルルの眩しいひかり。ミストラルは風速25mでとても寒い。 チューブから出したてのコバルトを空にぬる。ヴィクトワール山は白っぽく、よじれた糸杉や黄色いミモザが誘う。
はじめて見るアーモンドの桜のような淡い花。影をだいた葡萄の木、熱くかわいた家。シュロは線で、松はパラソルのように…
 赤い土をアクセントにして、銀ねずのオリーブ畑がトーンをつないでいく。
ゴッホは、目に見えるようにではなく、こころに感じとったものを表現すると。つくづく、やわらかな心がいるね。

 ニースでは二日間フリーでした。
 旧市街を縦横に路地が走る。小さな店に鮮やかな色があふれている。明るい布きれ。柄には蝉。 香辛料やオリーブの山。 目が覚めるような野菜や果物。
 
 花市をみて城跡の展望台へ向かった。 情報は標識の ←panorama だけ。 心細さを感じながら、ひとり木陰の道をいく。 40分も。 
 広い墓地をぬけて…   誰もいないのね (実は離れたところにエレベーターがあった)

 丘の上から地中海をひとりじめした。 ああ… なんという色、世界中の青に藍も瑠璃も勿忘草も月草も浅葱も含んで、浸せば染まってしまいそう。

 Sさん 水面の網もように法則はある?  飽かずながむ夕暮れ、 空は薔薇色になる。
 詩人が「何かしらいい日」に見た夕やけも、こんなだろうか。 小石だらけの海岸線。 詩のような話し声  Bonsoir!  白くくずれる波。 散歩するひと。 
 寒風に震えながら、水彩を一枚だけ描きました。

 ブイヤーベースを味わい、 むかし私は、貴重なサフランをカレー粉で代用していた。
自由で夢のような旅を、190枚も写しました。   (2004記)
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木彫りの犬

2006-02-27 | 犬のブロンコ・ダン

 白洲正子「明恵上人」新潮社のなかに運慶作と伝えられる木彫の犬の写真があった。明恵ミョウエが愛した小犬を写したといわれ、上人の生活を偲ばせるものの一つである。
 高山寺といえば鳥獣戯画や奉書に包まれたタツノオトシゴなどうかぶ。上人のまわりは動物が多くクジャクや犬など夢にまで出てくる。芸術と宗教の深い関わりを思った。 

 わが愛するrugbyは、さいきん食欲がでない。 足も力なく踏ん張れない。床の上をスケーターのごとく滑っている。 トリノは金メダルに湧いたが、はやく暖かくなって元気になーれ。
 rugもしっぽの先がまがっている。小さいときは、この木彫のようにふっくら愛らしかった。 
 もちろん 今もたいせつな存在!



 
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春の雨

2006-02-16 | 自然や花など

 やわらかな雨が降っている。 人のこころにも、 若い緑にもやさしく降りかかる春の雨。 

    我が背子が衣はる雨ふるごとに野べの緑ぞいろまさりける    紀貫之

 ひと雨ごとにかわる季節、 うつろいをこまやかな眼でとらえたことば。 春の雨に注目した。 
  以下に、 「雨の名前」 高橋順子より引用する。

 木の芽雨 コノメアメ 春、木の芽どきに降る雨で、その成長を助ける雨。木の芽が柔らかくふくらむことを「木の芽張る」という。

    霞たち木の芽はる雨きのふまでふる野の若菜けさは摘みてん   藤原定家

 育花雨イクカウ。 梅若の涙雨… 謡曲「隅田川」の主人公梅若の忌日とされる陰暦3月15日に降る雨のこと。   春雨ハルサメ。 雪解雨ユキゲアメ。
甘雨カンウ、 膏雨コウウ …「膏」はうるおう意。慈雨 など呼ぶ。草木にやわらかく降りそそぐ、烟ケブるような春の雨。
 杏花雨キョウカウ…杏の花が咲く頃に。 草の雨、山野に萌える草たちにけむるように降りそそぐ。 紅の雨、つつじ、しゃくなげ、桃や杏などに時をかさねて降る雨。 
春雨シュンウ… 冬が明けて心身ともに弾むころ降る雨。 桜の頃には花時雨、 花の雨。 

          ☆

 美しい雨のなまえ、 季節それぞれ風情もちがう。 雨の大きさ、強さ、色、匂い、時間。 情緒たっぷりですてきな呼び名には、 こまやかな眼差しがうかがえた。 このほかにも土地柄でついた名前などたくさんあった。

 少しの雨なら傘などいらない。 熱い心でぬれて歩こう。
 暗くなって街灯のもとで気づく。 セーターのうぶ毛のような一本一本に、 小さな小さな雨粒がひかっていた。 どきどきした。

 春の雨はせつない思い出までつれてくる。
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街のにおい

2006-02-11 | 道すがら



 浅葱色の空…  眼下のパッチワークがぼやけてパステル画に変わるころ、ベルト着用サインが消えました。香港、チェクラップコク国際空港まで約4時間半。 
 次男に会いにゆく三泊四日のひとり旅です。

 空港から東へ40分、住まいは九龍紅○カオルーン・ホンハムにあります。(ハムは石偏に勘の字、むずかしい) 2月21日、気温24℃、湿度72%、エレベーターの中で蒸した鶏の匂い。 これねえ、この街の匂いは。 ぐるりマンション、どこを向いても高層ビルの林。 おどる洗濯物。
 喧噪の中ひしめく人達、わからない広東語。 まるで、牛や豚や、香辛料と私を一緒くたにして、ミキサーにかけたように過ぎました。

 にぎやかな看板や広告、二階バス。 似て非なアジアの人々・欧米人、 ここは人種のるつぼです。 慣れてくるから不思議ね。 騒々しさや雑多な臭いが、今はなつかしい。
 歴史の跡、かさなる文化、バイタリティーあふれる眠らぬ場所。 湾の向こうに香港島が見えます。

 ヴィクトリア・ピークへトラムで行く。急勾配で、ビルは頭のうえへ倒れこむように迫ってくる。そのたび歓声が飛ぶ、笑みがこぼれる。 乗客たちは顔を見合わせ、ずっと前からの知り合いのようだ。

 終点から、 さらに山頂へと歩く。 街灯も人影もまばらで、用心棒がいてうれし。 やがて広がるひかりの海。 おびただしい宝石やビーズを留め、さざめき、きらめき流れ、フーガをかなでるよう。

 あの頃は…   漆黒の闇
 「ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく 照れる月夜の見れば悲しさ」 と詠う坂上郎女に、この輝きはどのように映るでしょうか。
 「その女瞬マバタキの数いと多く秋の灯火トモシビ見る心地すれ」 と吉井勇。

 こちらは、愉しく豪華なまばたきに溺れ、夜10時、30過ぎの子とあるく。
 「結婚はまだ? それを聞かなきゃ帰れないわよ」 「心配しないで」
 海老チリをまえに息子は饒舌。 外国で会うのもいいものね。いつもと違う顔を見て…

          -☆-

 『私は勢いよくカーテンを引き開けた。
 と、そこには、すぐ目の前に今にも崩れ落ちそうな高層アパートがそびえるように立っているではないか。 その建物もまたその隣の建物に接するように立ち、いやすべての建物がコンクリートの林の中で視界を失なうほど密集している』 深夜特急・沢木耕太郎より

 まるでそっくり、このとおりのシーンに幻惑する。 頭も体も熱かった旅。 隣りの窓がすぐそこに開いている。 部屋の様子もうかがえる。 人影はいったり来たり。 子は喧噪のただなかに、目をぎらぎらさせて生きていた。 

 『皆さま… 間もなく成田到着でございます…  空港は霙…  気温1℃でございます…』   
 お土産は 茉莉花茶をどうぞ        (2003記)

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日向が好き

2006-02-10 | 犬のブロンコ・ダン
 
 Hi ! ブロンコ・ダンです。 しばらくでした。  雪が降っても元気だった。 そのあと、すこし足がふらついて。 なのに散歩は、あら不思議、 シャンとしちゃうのです。
 この間ハンフリー・ボガードが出てた。 我があこがれ、師匠!  どことなく鼻や、雰囲気似てるでしょう  うぬぼれだけかな… 
 「君の瞳に乾杯!」 なんて、母さんすっかり バーグマンになりきってた。 こっちは錯覚! 
 とんだ間違い

 土曜に子供たちがきてあそんだ。 いつもお風呂場までついてくる。 足を洗ってもらうのをクスクス笑いながら見ている。 床に腹這いになってまで、どこがおもしろいの?って思ってた。
 でも、こんどは知らんぷりで、急にお姉さんだった。 こっちも犬のお巡りさんは、とっくに卒業、
おとなの魅力に磨きをかけて鼻だってピツカ、ピカよ。 おたがい成長したってわけね。

 みんな帰った後にスケッチが残ってて、よく見ると
巨大な鯨の横にちいさくrugもいるじゃない!! 水までもらって、うれしいので写真はこれにした。       きょうもきょうとて日向ぼこ     by rugby 

           ☆

   喧嘩の処置かんがへてひとり日向ぼこ    彷徨子        
   地獄耳たて老いらくの日向ぼこ         麦南        
   雑音に耳遊ばせて日向ぼこ           しづの女         
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温室の花

2006-02-06 | 自然や花など


 きょうはとても寒い 最高でも4℃  庭の霜柱も、野鳥のプールも溶けなかった。 公園に向かうと噴水だけが気炎を吐いて。 晩秋、うぬぼれ屋をうつした池も、底に落ち葉を沈め さむざむと凍っていた。
 春は名のみ、せめて心にぬくもりを

  室咲ムロザ きの花のいとしく美しく   久保田万太郎
  カタコトとスチームが来る室の花    富安 風生

 室の花は冬の季語。  春は行きつもどりつ 足踏みしながらやってくる。
 この寒さは 冴返サエカヘる ・ しみ返る ・ 寒もどり
  季語の好きなものだけ並べ、 初春ショシュンを愛でよう。 春を初、中、晩に分けて初めの春。 
 初春ハツハルというと 新年である。   二月  俗に 二 ン月(ニンガツ)とも言う。

   枯枝に初春ショシュンの雨の玉円マドか  高浜 虚子   

 水晶玉のような雨のしずくが美しい   

まどかさんの手紙…もある。

  

   二月の雲象カタチかへざる寂しさよ  橋本多佳子  

 いま多佳子の随筆集を読んでいる。                           

 春きざす ・ 薄氷ウスライ(春さき、うすうすと張る氷)・ 下萌シタモエ ・ クロッカス ・ 松雪草

  二もとの梅に遅速を愛すかな      与謝蕪村
   ぎんねずに朱ヶのさばしるねこやなぎ  飯田蛇笏  

 ここの小さいケは原文のママ。 ヶは蛙がつけたフリガナではない。 ほんのり赤みがさしている様子は分かるが、どう読もう。  
 朱け= あけ(朱・緋)  赤い色。 特に朱・緋ヒ・紅。また、赤く染められたもの。緋袍アケゴロモの略
 あけのさばしる… なんと、うつくしき日本のことのは 感動する。

    わきたつや海の微風の花ミモザ    小池文子
    麦を踏む子のかなしみを父は知らず  加藤楸邨

 ミモザをたっぷり活けて 大きな絵にしよう。 小さな花のつぶやきを  さまざまの黄色で盛り上げたい
   撮影  川口市 グリーンセンター   2003.1.6  

 

 

 

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琴の音

2006-02-04 | こころ模様
 二月四日 立春 6時起床 rugbyと外に出る。 辺りは暗い。ものみな眠っているようだ。 
気温マイナス2℃ やがて街は ほの明かりして 
 6時38分  日の出   …光りの一矢   弦を鳴らす

          -☆-

  「日本長き琴のごと 
   出づる日の一指のもとに
   いまをののく」     ポール・クローデル    詩人・劇作家・外交官 

 百扇帖の歌を2004年のいまごろ 芳賀 徹著 「ひびきあう詩心 俳句とフランスの詩人たち」で知った。
 『まことに壮麗、かつ清爽ともいうべき日本列島の映像ではなかろうか。太平洋上に弧をえがいて浮かぶ日本列島、それがいま東の水平線から射しのぼる朝日の最初の光線に打たれて、まるで長く横たわる琴のようにいっせいにおののきするどい美しい音を発して鳴った、という。一万数千メートルの高空から夜明けの列島を見はるかしたかのような美しい詩的ヴィジョンである』 
 
 その後、日の出のとき、飛行機に乗ったとき この歌を想った。
 一の糸が奏で、おごそかに響くのを感じた。

 姉は彫刻家ポール・クローデル ロダンの弟子
 大正一〇年晩秋~昭和二年二月まで駐日フランス大使だったポール・クローデルは、昭和一八年日本が敗戦濃厚になった時、パリでこう言った。
 
「日本人は貧しい。しかし、高貴である。世界の民族でただ一つ、どうしても残ってほしいと思う民族をあげるとしたら、日本人だ」 
  
 古典を読むとき つくづく日本人で良かったなと思う。 こまやかな心で日々を愛でていこう。

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吾妹子先生

2006-02-02 | こころ模様
 いただいた版画(犬を連れたマダム)を見て思わず 「胸別ムナワけの 広き我妹ワギモ 腰細コシボソの すがる娘子ヲトメの…」万葉集巻九・1738 を思った蛙。

 一方、Mさんは、もしかしてこれは平賀元義というひとのうた? 我妹と言うところが引っかかって、と思い出し遡ってみたのです。 日本人で良かった、子規の文章を読んで心が揺さぶられた と。

 遠く外国にあって20年近くなるのに、百人一首を忘れず、日本の文化を大切にしている彼女が読み返していたのは  正岡子規の 「墨汁一滴」 である。
 子規が新聞「日本」に約半年の間連載した随筆。
そのうち13日分を費やして平賀元義だけを熱く讃えている。 

 『…我々の歌を作る手本として学ぶべきは何の集ぞ、と問はん時、そは『万葉集』なり、と躊躇なく答へん者は平賀元義一人なるべし。万葉以後一千年の久しき間に万葉の真価を認めて万葉を模倣し万葉調の歌を世に残したる者実に備前の歌人平賀元義一人のみ。
     -中略-
 … 彼は卓然タクゼンとして 世俗の外に立ち 独り喜んで万葉調の歌を作り 少しも他を顧カエリミざりしは けだし心に大オオイに信ずる所なくんば あらざるなり。2.14
 元義の歌には 妹イモまたは吾妹子ワギモコの語を用ゐる極めて多し。
故に 吾妹子先生の諢名アダナを負へりとぞ。 1901.2.19 』  
   『 妹イモと二人暁アカトキ露に立濡れて向ムカつ峰上オノエの月を看ミるかも
  妹が家の向ムカイの山はま木の葉の若葉すゞしくおひいでにけり
  鴨山カモヤマの滝津白浪シラナミさにつらふをとめと二人見れど飽かぬかも
  久方の天アマつ金山カナヤマ加佐米山カサメヤマ雪ふりつめり妹は見つるや
                                         
 元義吾妹子ワギモコの歌
 
  遊于下原
 石上イソノカミふりにし妹が園の梅見れどもあかず妹が園の梅
  正月晦日
 皆人の得がてにすちふ君を得て吾ワガ率寝イヌる夜は人な来キタりそ
  自下原至篠沖村路上
 吾妹子ワギモコを山北ソトモに置きて吾ワガくれば浜風寒し山南カゲトモの海 』
 

  平賀元義の名も我妹子先生も知らなかった。 またMさんのてがみから、お福わけを頂いた。
 バッグと我妹子 うれしきことが二つになった。  これはカジュアルであなたに似合うと思って…  
 ことしの第一号…    なんとうれしい!  
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