想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

月に歌う

2008-07-16 00:38:10 | Weblog
     
     明けがた 雨が降っていたが
     陽が昇ると、空には夏雲の白 
     暑かった一日 光が静まり 日暮れが始まった
     縁の下に遊んでいた蟹が歩き出す
     水のある方へ




     裏の沢から 蛙の声はずぶとく低く
     いつのまにか増えた子カエルも 親も その係累も
     合唱隊の音量は増すばかりだ

     月明かりの下
     庭に集った虫は 朝には蛙の餌
     あるいは小鳥のヒナの食い扶持として御供

     沢から這い上がり 湿った庭先を縄張りに
     小さな体で行きつ戻りつし 一日居すわった蟹
     月明かりに促されて

     昔 あなたに会ったことがあるのだ
     蛙の合唱が歌う

     足下に躊躇する蟹を サンダルのつま先でそっと押し
     水の底にも 月光は射しているとささやく

     小さな歩幅の 横歩きで
        あなたに会ったことがあるのだ
     少し踊るように胴をふるわせる

     中天に昇る前には帰ろう

     月は一つ
     誰の手にも落ちないまま そこにある

     蛙の目に一つ
     蟹の背に一つ
     わたくしの深奥に 一つ
     欠けない月が今宵も映る 
     

     
     
     
     
    
コメント
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