劇的狙いの殊更な演出を極力避けようという方針でもあるのか、おおむね淡々と質実に叙述が進んでいくのがまあ、長所でもある『不毛地帯』ですが、本編&ED後CM明けの“次回予告”は思いっきし狙ってますな。
13話でFORK千代田の合弁会社構想が失敗に終わり、爆弾抱えてた心臓が破裂して死にかけて以来、副社長職も事実上の休職となってめっきり登場場面が減った里井(岸部一徳さん)、しかし、スタッフも“コイツぜってー人気キャラになってる”との手ごたえがあるらしく、少ない登場場面、台詞がほとんどもれなく予告に採られています。
「ボクから壹岐くん(唐沢寿明さん)に乗り換えようというんじゃないだろうね?」と見透かされながら当面、廊下トンビに徹する角田(篠井英介さん)ともども、目が離せませんぞ。4日放送の次週予告、どうやら副社長を解かれ関連会社にでも飛ばされる雰囲気の里井の滂沱号泣場面を楽しみに(「髪のながーいかたとお約束があるんじゃありません?」と嫌味かます吉行和子さんのハルさんも併せ技で)、次回も見ようと思った視聴者は多いはず。少なくとも月河はその1人です。
ラッキード戦闘機篇での防衛庁長官官房室長から、劇中10年を経て今度は石油公社総裁としてカムバックした段田安則さんの、いますぐにでも特撮の敵組織幹部役に来てほしい、すがすがしいまでのブラックさも盛り上がりに拍車をかけました。いやぁ、これくらい安心して「ヤな野郎だなー!!」ときめつけつつ鑑賞できる人物像ってそうはいないですよ。いっそ壹岐をロッカーに閉じ込めて、ドア内側に貝塚の笑顔の写真貼っといてほしい(それは『世にも奇妙な物語』)。
自宅休養中の里井も、千里(小雪さん)との朝食にひととき安らぎに似たものをおぼえる場面の壹岐も、明るめグレー系のニットカーデを着ていましたね。昭和時代、サラリーマンのお父さんの休日はたいていあれだった。父の日のプレゼントの定番でもありました。
劇中は昭和45年で、もちろん封建身分社会の時代ではないのですが、まだ当時は服装が“年齢”と“社会的立場”で決まる傾向が、いまよりずっと強かったと思う。たとえば、休日のお父さんはカジュアルな(それでも結構衿の高い)シャツにニットカーデですが、お祖父ちゃんは冬でも、夏でもそれなりの素材の和服だった。お祖母ちゃんたちも、どこの家でも着物でした。幼稚園や小学生の孫のいるお祖父ちゃんが、高校生とデザイン変わらないジャージの上下着ているなんてことはなかった。
逆に、お祖母ちゃんではなくお母さんが、家で着物で割烹着だったりすると、普段はよくても級友が遊びに来るとなんだか気恥ずかしかった。“古い、遅れてる家”“年とってみすぼらしい母”みたいに見えそうな気がしたのです。
着るほうも着るものを自分の年齢で選ぶし、見るほうも着ているものを見てきっちり年頃が判断できた。“老けて見える”のが貧乏ったらしく哀れを誘うものである以上に、“若づくり”“若見え”はおかしなこと、陰で失笑されるみっともないことだった。
壹岐家でも、妻・佳子(和久井映見さん)はプライベートでも公的な席でも一貫して着物に、襟足シニヨン。結婚して太くんの母親となった直子(多部未華子さん)は14話で父のマンションを訪ねたときはブリックオレンジのかわいいコートを着ていましたが、ショールカラーや立ち衿の良家若妻ルックが増えました。
壹岐と里井が決裂する端緒になった8話のパーティーではスノッブな洋装だった里井の妻・勝枝(江波杏子さん)が、自宅内ではパステル調の明るめトーンながらコンサバなブラウスにニットで、意外とおとなしめなのにホッとするのと同じ頃、劇中でも「社長になれなくたっていいじゃない、命より大事なものなんかないのよ」と優しい妻ぶりを見せ登場初期のイメージから幅が出て来たり。
前半なんとなく、触媒役のような掻き回し役のような中途半端な存在だった紅子の天海祐希さんも、モガ風ボブに乗馬服だとさすがに元・宝塚トップスターさんの精彩があります。天海さんの身長体型や芸風からいっても、この紅子というキャラは、カスミを食って浮遊して生きている様な、年齢国籍不祥な演出、装備をとことんつらぬいたほうが魅力的。
逆に小雪さんの千里は、中途半端に生々しい造形だから苦しいのだな。ニューヨークのレストランで「父(=秋津中将。中村敦夫さん)はどうしても死ななければならなかったのでしょうか?」と問うた頃の千里にとっての壹岐は、“父親に代わって生き延び、父の思いを背負って自分に伝えに来てくれた人”であり、壹岐にとっての千里は“父親代わりに守ってあげなければならない存在”でしたが、戦争による苦難と悲嘆を越えての互いの幸せ、安らぎを願う思いが、結局は“ただの(故人に気兼ねしながらの)男女関係”に堕してしまっているドン詰まり感、失望感を、視聴者も共有せざるを得ないから、この2人の場面になると、観ていてどうも眉間にシワが寄ってくるわけです。
小雪さんの千里が、一本立ちの陶芸家として求道的に過ごす時間の描写が、彼女を人として共感できる人物に見せるためのフォローとして、もう少しあってもいいような気もする。
或いは、12話で、出家した兄・清輝に心の乱れを見抜かれ、「我利我執にとらわれ自他ともに縛する修羅の路に踏み込まず、共生の精神を」とさりげなく諭される場面の千里は、見ててじれったいはじれったいけれども、軍人の娘として“欲望し慣れていない”育ち方をしたのであろう女性が、中年期にさしかかって初めて知った煩悩を扱いかねる人間らしさが覗いて悪くなかった。
原作小説の壹岐正の人物像の中では、千里との接点交流は重要なパートなのかもしれませんが、脚本家さんが女性(橋部敦子さん)だけに、千里という女性の在り様にあまりシンパシーを持てないで書かれているのでしょうね。
時代が変わり、服装も変わり、女性観、女性の生き方観も変わった。しょうがないと言えば言えるけど、昭和よりはるかに昔で、実際見たこと経験したことのある人が現存誰もいない戦国時代や江戸時代、あるいはフランス革命時代、アメリカ南北戦争時代のお話でも、ちゃんと共感し得る女性像を描出している作品もありますからね。いま少し志を高く持たなくちゃ。
ところで4日の放送後、17日発売サウンドトラックCDの視聴者プレゼント告知がありましたな。本編ナレーションと同じ二又一成さんヴォイスで「…振るってご応募ください。」と言われると、いままでそんなに欲しいと思ってなかったけど、応募しないと歴史の流れに乗り遅れるぞみたいにぞわぞわして来るじゃありませんか。坂本龍一さんのメインテーマってのがそもそもどの曲なのか確かめたいし、年賀はがきも確か手頃な枚数余ってたし、出してみるかな。