「国境の長いトンネルを出ると雪国だった」。
川端康成の「雪国」の書き出しである。
この「国境」を、つい最近まで「こっきょう」と読んでいた。
ところが、月に1回都会へ一緒に出かける偏屈さん二人は「くにざかい」、と読む。
物識りの二人だから、間違いないんだろうが............。
確かに「こっきょう」では、イタリアからスイスに行くようだ。雪国湯沢では「くにざかい」かもしれない。
守男は70年近くも、間違えたまま暗くて長いトンネル内にいたわけだ。
やはり、朗読の習慣は頭と体に必要だわな。
ここで、脱線。
年末だから話の特集社1977年初版、和田誠著「倫敦巴里」からの仕入れで、出血大サービスします。
和田さんが当時から人気があった人の文体模写で、「雪国」を書いている。
その中から一部を転記する。ほんの一部だから、本はネットで買って下さい。ゼッタイ損はしない、文豪川端康成以上の最高傑作です。
■司馬遼太郎
島村を乗せた汽車がトンネルを出たのは七時四十分である。そこは雪国であった。
トンネルは群馬と新潟の県境にある。大正十一年から昭和六年にかけて作られた。
長さは九七〇二メートルである。
(夜の底が白くなった)
と、島村には感じられる。
信号所に汽車が止まった。
婦人が立ち上がって、窓を開けた。
島村は、途上、窓ガラスに映る婦人の横顔を観察している。
---美しい。
と、その時おもった。
婦人は窓にのり出して、
「駅長さあん」
(以下略)
■横溝正史
金田一耕助のすすめで、私がこれから記述しようとするこの恐ろしい物語は、昭和十
×年×月×日、国境の長いトンネルを汽車が通り抜けたところから始まった。
そこはもう雪国である。事件の舞台となったこの雪国には湯-温泉という名で知られる
湯治場があり、保養客を集めるのがこの辺りの村々のもっとも主ななりわいの道であっ
た。
信号所に汽車が止まったのは、夜の八時ごろのことだった。
夜の底が白くなった、と私は感じたのだけれど、今にして思えば、恐怖の前兆で髪の毛
が白くなったのではないかという気がする。それほど私は恐ろしい経験をしてきたのだ。
(以下略)
■宇能鴻一郎
トンネルを抜けたら雪国だったんです。国境のトンネルとっても長かった。
夜の底、まっ白みたい。そう思ってたら、信号所に汽車がとまったんです。
あたし、エロチックな気持になってしまった。
これは内緒なんだけど、トンネルを通るたんびに感じちゃうみたい。
トンネルがいけないんです。
トンネルに汽車が入ると、あたし、いけないことを連想しちゃうんです。
ああ、あたしにも逞しい汽車が入ってきて欲しい、なんて思ったりして.......。
(以下略)
■谷川俊太郎
トンネルでたら ゆきぐにだった
ゆきのなかには うさいがいてね
どろのなかには うなぎがいる
ジャックをのせて きしゃははしった
メリーをのせて きしゃはとまった
とまったところは しんごうしょ
メリーがまどを すとんとあけた
つめたいゆきが はいってきた
つめたいいきが でていった
(以下略)
●安倍晋三
ま、わたくしと致しましてはですね、
ロングトンネルを抜けると美しい国つまりスノーカントリーでございましたです。
シグナルコントロールコーナーで汽車は停まりましたです。はい。
中川官房長官に窓を開けさせさせましたが、開きませんのでございます。
再チャレンジさせて頂いて、しっかり下ろしたら開きましたでございます。
「ブッシュさあん」
と叫ばせて頂きました。
W・B・N(注)から顔を出したのは、雪焼け顔のライス国務長官でございました。
「あら、晋ちゃんね、ジョージは今イラクで........」(以下略)
(注)W・B・N=White Bottom of Night 夜の白い底の意
他に、つかこうへい先生、村上龍さん、浅井慎平ちゃん、みんな凄くうまいんです。
似顔絵もいいんだけど、あたし、疲れたから省略しちゃった。
もう、トンネル出なくちゃね。
●その後、NHK衛星放送の演歌番組で、アナウンサーが「くにざかい」と朗読していたのを聞いて、自分の間違いを確認しました。
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