税込2000円という高価な本を買ったのは、本の腰巻の惹句、
連載中より 異例の好評の声高く 待ち遠しがられた 粋な好エッセイ
に釣られたこと、横尾忠則さん流の派手な似顔絵に摩訶不思議な迫力があること、源氏登場人物に対する寂聴評が辛辣だが愛情があり、これも多分、と思ったためだ。
.....で、非常に面白く、一気に読んでしまった。
内容は寂聴さんが逢ったことがある芸術家21人(主に作家)についてのあれこれだ。
寂聴さんが文学を志したのは、遠望した島崎藤村の男前に痺れたからだそうで、あとはそれぞれ仕事上縁のあった人たちである。
例えば、
・寂聴をエロ作家と決め付けた平野謙が開高健の一夜の情事にうろたえる話。
・美食家で多情な谷崎潤一郎の口あんぐりな醜聞と普通じゃない性愛。
・佐藤春夫大人の名作「秋刀魚の歌」は谷崎潤一郎夫人への激しい想い。
・岡本太郎の有能な秘書、養女、愛人、妻、母の敏子さんの底抜けな献身。
・抱擁した三島由紀夫を怒らせ肉体改造を決意させた三輪明宏のキツイ一言。
・寂聴出家に臨む乱暴者今東光の繊細にして露骨、真面目な気配り。
・あの人とは寝た寝ないと公言する宇野千代の奔放な男性遍歴とご機嫌な晩年。
・偏屈で所有欲が強い川端康成が岡本太郎を引き立て続けたわけ。
・平林たい子の大姐御振りや、円地文子の川端康成への対抗心等々。
全てが寂聴さんが実際に見聞したり、家族やごく親しい人から得た信頼性の高い「へぇー」な話ばかりだ。
偉大な芸術家は世間の常識から大きく外れた変人奇人らしい。
寂聴さんはその「へぇー」をバラしているけれど、観音さまのような慈愛と、煌く才能と大きな業績に対する敬意が溢れているので、読後感は爽快である。
また寂聴さん自身の頓馬な駆け落ち失敗など、アッケラカンと過去を明かし公平で、寂聴さんがまた好きになった。
面白いのは、寂聴さんは「面食い」であることだ。対象者の容貌をウンヌンする記述が多く、「奇縁まんだら」というより「イケメンまんだら」であるな。
また、「随筆」ということになっているが、夫々の終わり方が実に鮮やか。まるで上質な短編小説のような仕上がりになっていて見事だ。
続編が待ち遠しい。
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