大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・237『テムジン・1』

2024-07-31 11:25:30 | 小説4
・237

『テムジン・1』孫大人 




 北京秋天を思うと、それよりも壮絶な、いわば北京蒼天とでも言うべき壮絶な青空が見えてきたアル。

 北京の半分、奉天の四半分ほどしか水蒸気を感じさせない空は、まるで仰ぎ見る者を染めてしまいそうなほどに蒼いアル。

 緩い坂道を上っているので、このまま筋斗雲を進めていくと、そのまま空に上ってしまいそうな気持するアル。

「いっそ、空を飛ぶ? 短時間ならステルスレベルマックスにできるけど」

 気持ちを察した東鈴が気を効かすアル。

「このままがいいアル、飛んだら空に呑み込まれそうアル」

「惜しいわねぇ、小さな雲が一つだけ残ってる」

「惜しいか……かえって空の蒼さを荘厳(しょうごん)してる思うアルよ」

「荘厳ねえ……なんだか、そのまま解脱とかして新興宗教でも開きそうね」

 宗教開いて世界が救われるなら、それもアリ思うアルよ。

 しかし、この蒼天の下では間もなく満州戦争並みの戦闘が行われるアル。

 ここいらは昔からの変わらぬ遊牧やってるアル。今ごろは羊たちも避難させ、人間もゲルを畳んで避難準備の真っ最中思たアル。

 
 峠を越えると、蒼天のぼっち雲を映したように白いゲルが残ってるアル。ゲルの傍らにはポールが立っていてデザインされた狼の旗。

 
 テムジン!?


 児玉元帥以上に古い友人の名前思い出したアル!

「ちょ、なにすんのよ!」

 手を伸ばして筋斗雲の緊急停止を押したアル。

「テムジンは、こういうの嫌うアル。ここからは歩くアル」

「テムジン……知り合いなの? まだ一キロはありそうだけど?」

「ああ、老婆婆(ラオパアパア)の髪がまだ真っ黒だったころからの付き合いアル」

「あたしは?」

「ああ……ついて来てくれ。どのみち紹介しなくちゃならない、いっぺんに済ますいいアル」

「テムジンて本名? 古い鍛冶屋でなければモンゴルの古い英雄の名前だと思うんだけど」

「世襲名アル、父親死ぬとテムジンの名を受け継ぐアル」

「ちょっとぉ……すごい殺気なんだけどぉ」

「だいじょうぶ、ほんとうに殺そう思う、殺気ないアル」

「そう……言われてなきゃ、ソッコー首の骨へし折りに行ってるところよ」

「東鈴、物騒アル」

「え……向こうの方から近づいてきた」

「どうやら敵ではないと認識したアル」

 ゴヘーーイ!

 テムジーン!

 儂もテムジンも同時に駆けだして草原の真ん中で、ガシっとぶつかるようにしてハグし合った。

 同時に、どこでどう隠れていたのか、50騎余りの騎兵が湧いて出て、儂とテムジンを取り巻いたアル。

 東鈴も10騎ほどに取り巻かれている。そいつらはみんな弓に矢をつがえて東鈴に狙いを定めていたアルよ(^_^;)。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・236『西へ』

2024-07-25 11:55:39 | 小説4
・236

『西へ』孫大人 




「ん、なんで西に進むアルか?」


 山海関を出て奉天に戻る道を走るのかと思ったら、筋斗雲はそのまま西に向かって走っている。

「なに言ってんの、自分でも西が危ないって思ってるくせに」

「一度、奉天に戻ってからと思たアル」

「カルチェタランなら大丈夫、老婆婆と鈴麗が居る。あの二人の方が店と街に関しては悟兵よりも分かってる」

「そうアルな。とりあえず満洲里アル」

 満洲里とはハルピンの西方400キロ、モンゴルの東に位置する街で、モンゴルの街でありながら「満州」ではなく「満洲」とキチンと表記する由緒正しい街アル。たぶん、大昔は満州の勢力がこのあたりまであった名残りアル。

「了解」

「なんで、西が危ない思うアルか?」

「そりゃあ、さっきのミサイルはフェイント、あるいは観測気球。力技でぶつかりあったら、すぐに本格的なパルス兵器同士のぶつかり合いになるでしょ。本格的な世界大戦は両国とも避けたい、21世紀の大失敗も有ったことだし。両国ともモンゴルを挟んで通常兵器の密度が高いし、平原ばかりだし通常兵器でドンパチやるにはうってつけだし」

「フフフ……」

「なによ、気持ち悪い」

「東鈴、世界で最初の共産国はどこアルか?」

「え、ソ連でしょ、100年もたなかったけど」

「では、二番目はどこアルか?」

「モンゴル」

「なんでモンゴルアルか?」

「ソ連に隣接してるし、影響受けやすかったからでしょ」

「フフ……理解が浅いアル」

「なんかムカつく(^_^;)」

「モンゴルは中国から逃げたかったアル。歴史的にいじめられてばかりだったアルから、ソ連の親類になるのが手っ取り早かったアル」

「あ、でも、モンゴルの南半分は長いこと中国に入って自治区になってたでしょ。いま向かってる満洲里とかそうだし」

「逃げ遅れて中国に掴まったアル」

「そうなんだ……そうか、その記憶を刺激すれば、わりと簡単に自分の勢力圏に取り込めるとロシアは思うわけか」

「ちょっと高度をとって欲しいアル」

「え、飛んだら目立つよ」

「そこをうまくやって欲しいアルよ、飛んだ方が距離稼げるアルし」

「へいへい」

 東鈴は器用に高度10メートルほどを維持して飛んでくれるアル。

「少し落としてくれアル」

「気づいた?」

「ああ……これは……」

 木の間隠れに手入れの行き届いたAP機が見える。

「でも、あんな旧式機、役に立たないでしょ」

「いや、そうでもないアル」

 AP機とはアンチパルス波動機。つまり、パルス機関やパルス兵器を無効化する防衛兵器アル。

 モンゴルは豊かな国ではないので最新のAP機ないアル。漢明や先進国のパルス機器や兵器を無効化することは難しいアルが、それをピカピカに整備していることの意味は大きいアル。

 モンゴルはパルス機器は大嫌い! 使う奴も大嫌い!

 という意思表示にはなるアル。

 つまり、このモンゴルで事を起こそうとしたら、児玉元帥言うところの元亀天正の戦争をやるしかない。

 あの『北京秋天』の絵を思わせるマンチュリアの空の下で繰り広げられた満州戦争のことが思い起こされたアルよ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・235『漢明の声明発表』

2024-07-21 11:52:00 | 小説4
・235

『漢明の声明発表』孫大人 




 満州が一番元気だったのは三百年以上昔、中華全体を清朝が治めていたころころアル。

 1911年の辛亥革命で清朝が倒れて、女真人は満州に帰り、中華という大屋台を失ったアル。
 それからは満州の地で馬や羊を追って静かに暮らそうと、ご先祖たちは思ったアル。

 しかし、地下資源や工業資源の豊かな、そして、中華・ロシア・モンゴル・朝鮮半島への回廊である満州がそっと置いてもらえるはずはないアル。

 四半世紀前の満州戦争のあと、マンチュリアいう非同盟主義の独立国になったあるが、元々が諸民族の回廊、国家としての縛りはメチャクチャ緩いアル。
 ハンベに登録済みのパスポートさえあればEUみたいにお出入り自由アル。周りの国々はEUみたいないアルが、自由にすることで多少の問題はあっても平和アル思ってきた。

 しかし、そんなヌルイことでは、どうやら平和は保てないみたいアル。

 漢明とロシアがアヒルみたいに水の下の足で蹴り合いしているのは大昔からアル。めったに水面から上のどつきあいにはならないアルが、このところ、その兆候が見えてきたアル。漢明が志願兵を募ってきたのはリトマス試験紙アル。志願兵の応募の多寡でマンチュリアの漢明への傾斜具合を計ろうとしたアル。
 
 だから、この孫悟兵も筋斗雲を駆って様子を探っているアルよ。

 しかし、ロシアがフライングしてミサイル撃ってきたアル!

 ノンビリ様子見てる場合ないアルよぉ~!


「悟兵、漢明のスポークスマンが声明発表してるぞ」


 筋斗雲に戻るやいなや東鈴がフロントガラスをモニターモードにしたアル。

 スポークスマン見てビックリしたアル!

「いつものオッサンじゃないわね……」

『こんにちは。漢明国民のみなさん、並びに、これをご覧になっている世界のみなさん。今日は、驚きのお知らせと共に漢明政府の決心をお伝えいたします。 五分前にロシアは日本海に向けて戦略ミサイル10発を発射しました。しかし、発射後二分でミサイルは進路をマンチュリアの奉天に指向させ、さらに、その三十秒後には進路と侵入角を変更、北京に向かってきましたので、漢明軍は、これを脅威ととらえ迎撃ミサイルを発射。奉天上空で8発を破壊、残り2発はマンチュリアのミサイルが撃墜しました。漢明政府はただちに予防的に警備部隊を国境沿いに配置、マンチュリア国内にもマンチュリア政府の同意を得た上で、一個師団の防衛部隊を派遣いたします。けして本格的な戦争を始めようということではありませんので、当該地域のみなさんビックリしないでくださいね(^_^;)、え……あ、これってコメントも入るんですね( ゚Д゚)!』

 スポークスマンかわいい!  漢明がんばって!  ロシアが悪いぃ!  漢明加油!  まえの男のスポークスマンよりぜんぜんいい(^▽^)/  漢明困ってるんだよね、顔見たらわかるぅ!  応援します!  クラファンとかないんですか!  個人的にはスポークスマンさん応援します! 
名前なんていうんですか!?  そうだそうだ!  名前教えて!

『あ、えと、胡盛媛って言います(^〇^;)。スポークスマンなんて初めてなんですが、前任の司馬遠さんの名を汚さぬようにがんばります٩(,,•ω•,,)و 』

 ファイトかわいい!  けなげぇ!  応援する!  投げ銭したいぃ!  あ、できるかも!?  え、できる?  やってみよ!  おお、できた!

『あ、みなさん、これは国の声明でぇ……投げ銭とかは……』

 いいじゃん!  やろうやろう!  

『え、あ、いいんですか? なんか許可が出ましたぁ……でも、これって国家のチャンネルですから、投げ銭は漢明の国家に入ります』

 え、そうなのぉ?  ちょっとぉ  かまわねえ!  オレも!  わたしも!  盛媛ちゃんも個人のチャンネル開いてぇ!

『アハハ(^_^;)……ということで、また新しく政府の発表や見解が出ましたら、逐次お伝えいたしますので、とりあえずは、これで失礼いたします!』

 ゴチン!

 勢いよく頭を下げたので、思い切りマイクに頭をぶつける胡盛媛……いや、フーちゃん。

 劉宏大統領の差し金なんだろうが、この声明発表はミサイル百発分くらいには相当するアルよ。

「フフ、漢明もなかなか姑息な手段に出るじゃない……」

「あ、東鈴、ちょっと目が怖いアルよ……」

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・234『山海関の風』

2024-07-18 17:38:34 | 小説4
・234

『山海関の風』孫大人 




 秦皇島市 (チンファンダォ市 )の海岸に筋斗雲を停める。


 昨日立ち寄った虎山長城(丹東市)のさらに南西の地方都市アル。

 二百年ちょっと前までは、この秦皇島市の山海関が万里の長城の東端ということになっていたアル。
 大雑把に言うと中華と満州の境目アルが、時代によって境目は移動するので、はっきり境目とは言えないアル。言えないアルが、その昔、ここより東北を関東、南西を関内と言って大雑把に民族や文化の境目としたアル。

 中華が元気な時は、ずっと北の豆満江のあたり、マンチュリア全部を中華言うてたアル。その時は万里の長城の東端は虎山長城のさらに北にされてたアル。

 時代によっても、人によっても、その境目の認識は変化するアル。だから、国家の大乱となった時は見極めが肝心アル。

 この孫悟兵、そこを見極めて動くアル。そことは人の気アル。

 マンチュリアと国境近辺の人間がどっち向いて、何を望んでいるかを見極めて、身の処し方決めるアル。

 無理な動きは、たとえ短期的に成功しても長続きはしないアル。

 国家の興亡や縮小拡大の繰り返しは、この大陸では、いわば大陸の生理アル。運命と言ってもいいアル。

 生理や運命であるならば、その秋(とき)の犠牲を小さくするのが英雄の道アル。

 この孫悟兵、けして英雄の器ないアル。せいぜい冒険者か勇者のレベルアル。

 しかし、仮にも先祖伝来の大人の二つ名を名乗る身。先祖に恥じぬ選択するアル!

「さすがに騒めいてるね……」

 え(''◇'')?

 一瞬見透かされたか思ったアル。いまの想いは、ちょっと青臭いアル。

 東鈴は屋台やキッチンカーには目もくれないで海に張り出した長城の果てに歩いていくアル。

 ザザザ~~~ ザップ~~ン

「ここから西の果て嘉峪関までの6000キロ余りが万里の長城なのね」

「21196キロあるよ」

 ザ ザザザーーー

 ズゴォォォーーー

 波音に混じって、そうとは断じたくない飛翔音がするアル、方角は北の方アル!

 ズギューーーーン

 違う飛翔音が南の方からもするアル!

 南の飛翔音は頭上を飛び越えて、虎山長城(丹東市)のあたりも飛び越えて、奉天のあたりで北からの飛翔体とぶつかって火花が散ったアル。

 遅れて奉天からも飛翔体が上がっているのが見えたアルが、目標を喪失して次々に自爆するアル。

 事態は悟兵の想像を超えて動いているアル。

 北方の、おそらくはロシアのミサイルがマンチュリアを狙って傲然と飛来し、それを漢明の迎撃ミサイルが撃ち落としたアル。

 マンチュリアの迎撃ミサイルは結果が出た後に上空に達して虚しく自爆したアル。

 地上の人間たちは、この孫悟兵も含めてバカみたいに口を開けてミサイルたちの残した煙を見るだけアル。

 ビョォーーー

 前触れもなく北の風が吹いてきて、東鈴の長い髪を嬲っていく。数瞬白いうなじが露わになって、ちょっとドキッとしたアル。

 シュポン……と音がして、東鈴の髪は一瞬で引っ込んでショートになったアル!

「しばらくショートでいくわ」

「ちょっとシュールアル(^_^;)」

「なに言ってるの、悟兵もさっさと戦闘態勢になりなさいな(ㆆ_ㆆ) 」

 
 三白眼のジト目で言うのは止めて欲しいアル……

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・233『丹東虎山長城のアイス』

2024-07-15 11:42:56 | 小説4
・233

『丹東虎山長城のアイス』孫大人 




 愛車筋斗雲をC仕様で南に向かってるアル。


 C仕様は四人乗りで、東鈴を乗せてちょうど。後部座席とトランクには多少の荷物。田舎のオッサンが似合わぬ愛人を連れての小旅行。適度に胡散臭くて目立たない。

 とりあえずは北京を目指しながら空気を読む。

 自慢じゃないがサバを読むのと空気を読むのは得意技アル。

 孫の家は、そうやって世の中を渡って来て、この孫悟兵の代に至っているアル。

「あれぇ、ちょっと東に寄ってない?」

 ナビに合わせてハンドルを握っていた東鈴が口を尖らせる。

 散歩に連れて行った犬が勝手に方向を変えたみたいな反応で可笑しい。

「筋斗雲の判断アル」

「筋斗雲はただの車でしょ、なんだか犬に引っ張られてるみたいで気分悪いんですけどぉ」

「この先は……丹東……ああ、虎山長城アルなあ」

「北京に行くんじゃないのぉ?」

「空気を読むアル」

「空気ねえ……」

 ちょっと不足そうだが、ナビもAIも無視することなく丹東に着いたアル。


「あら、立派な長城ねえ」

「いちおう万里の長城の東端ということになってるアル」

「え、わたしのデータベースじゃ万里の長城の東端は山海関だけど?」

「200年前に変えたんだ。目の前にあるのは、その時に作ったレプリカアル」

「そっか、ねえ、アイス売ってるよ。長城の上で食べようよ」

「いや、ちょっと街の様子を見てくる。食べたかったら東鈴一人で食べていてくれ」

「ええ、なにそれぇ」

「儂が戻るまで待ってるアルか?」

「それは別に食べる。お小遣いちょうだい」

「あ、すまん。チャージしてなかったアルな」

 ハンベを直結して、少し迷ってからチャージしてやる。

「え、こんなに?」

「ああ、この先どこで要るか分からんアルからな」

「……円とドルもあるわよ」

「ああ、状況によっては国を出るかもしれないアル」

「あ、いいわね(^▽^)!」

「それじゃあ、二時間ほどで戻って来るアル」

「うん、ごゆっくりねぇ」

 キッチンカーのアイス屋に走っていく東鈴を見届け、筋斗雲のトランクから折り畳みのパルスバイクを出す。さすがC仕様の筋斗雲でも、裏通りまでは入れないアルからな。

 市内の30カ所以上に志願兵募集のポスターが貼ってあり、西と東のリクルートセンターにはチラホラと若者の姿。

「志願するのかい?」

「え、ああ……どうしようかと思って」

 声をかけた青年は迷っている様子。

 しばらく見ていて8人の若者が足を止めたが、中に入っていったのは一人だけだった。

 そのあと、繁華街や公園、駅やらバス停などを周ってみたが、おおむね戦争なんて関係ないという空気が強い。

 他にも物流や景気の具合を見て周るが、漢族が半分に満たない街は漢明のことなどよそ事だという空気だったアル。

 長城に戻ると日が傾いてきたので、アイスはやめ、宿をとって少し早い晩飯にしたアルよ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・232『老婆婆の忠告、そして東鈴と南へ』

2024-07-12 11:20:06 | 小説4
・232

『老婆婆の忠告、そして東鈴と南へ』孫大人 




 作業の邪魔をしてはいけないので、そうそうに車に戻るアル。


 張村長が恵比須顔で見送ってくれる。

 車に乗って走り出しても笑顔……米粒みたいに小さくなっても笑顔アル。

「なにか隠してるアルなぁ」

「バンの中に別の看板隠してたよ」

「え、そうなのか?」

「うん、悟兵のことは、もう少し前から気づいていて隠してたみたい」

「なんの看板アルか?」

「漢明の志願兵募集の看板、こんなの……」

 車のフロントガラスに看板の内容が映し出される。

「アイヤー、見ても居ないのに分かるアルかぁ」

「村長は見てるからね、ちょっと頭を覗いて見た」

「なるほどぉ……」

 東鈴の能力にも驚いたアルが、看板の内容にも驚いたアル。

―― 志願兵募集 一年任期 一時金5000両 月給700両   二年任期 一時金8000両 月給750両   三年任期 一時金10000両 月給800両   希望者に漢明国籍付与、ほかにも各種特典   任務内容:主に後方輸送任務 ――

「漢明軍のホームページにアクセスしたら、今日付けで同じのが出てる。うち以外にも、旧漢明構成国、外国にもネットで流し始めてるし」

「ほう……」

 昔の軍隊とは違うアル。

 うちの老婆婆(小鈴)のように100%天然ボディーでなければ、いくらでもハードやソフトを入れ替えて、昔なら半年はかかった新兵訓練は三日で済ませられるアル。

「まあ、たいていは周辺諸国への脅しでしょうけどね。マンチュリアは不景気だからけっこう応募者いるでしょーね」

「ああ、おそらくは……東鈴」

「なにぃ?」

「株式市況と政府投資、運輸状況、発電状況、軍の移動、周辺諸国の反応データ出して欲しいアル」

「もう、運転中なんですけどねえ」

 プータレながらもデータを出してくれる。

 心配したような状況ではないが、ちょっときな臭いと頭の奥で言う者があるアル。



「老婆婆、しばらく旅に出るアル」


 
 家に戻るって宣言すると、こめかみに膏薬を貼った顔を向けてくる老婆婆。

「もう、少しは落ち着いてくださいましよ。仕事の指図は外に出ていても出来るんでしょうけど、東鈴みたいなこともあります。気が付いてからでは遅いんでございますよ」

「ああ、分かってるアル」

「それに、もう小爺(シャオイェ)も若くないんですから跡継ぎのこともお考えにならないと」

「まだ、やっと六十アル」

「やれやれ、お供は……」

「儂、一人でいいアル」

「そうはいきません、そうだ鈴麗をお連れないさいまし」

「なんで鈴麗?」

「あの子なら、いい赤ちゃんを産みますよ」

「ムグ……(-_-;)」

「大丈夫、鈴麗は機械化率は10%未満ですから問題ありません」

「鈴麗はそういう対象ないアル」

「そうでございますかぁ、この老婆婆、五十も若ければねえ……なんでしたらお試しに(ㆆωㆆ) 」

「か、勘弁して欲しいアル(;'∀')」

「冗談でございますよ、とにかく鈴麗をおつれなさいませ」

「いや、それほど言うなら東鈴にしとくよ!」

「年寄りの言うことはお聞きなさいまし!」

「ああ、もう時間ないから、行くアルヨ!」

 
 なんとか振り切って駐車場に向かい、歩きながらハンベで東鈴に指示を飛ばす。


「ちょっと遅かったアルな」

「老婆婆に掴まってたのよ」

「小鈴なにか言ってたアルか?」

「真面目な顔してこう言ってた『東鈴、あんた世界最高水準のロボットだろ、〇〇能力はないのかい?』って」

「なに考えてんだろうねえ、あの老婆婆は……」

「真剣なのよ、あんたの代で孫家をつぶしたくないって」

「親父の代からいるからなあ……」

「じゃあ、出すよ」

「おお」

 飛行モードにした車は高度をとって南を目指したアル。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
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  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・231『満要鎮PI史跡・2』

2024-07-08 12:01:05 | 小説4
・231

『満要鎮PI史跡・2』孫大人 




「あたしはPIなんか絶対しないからね」

「え、突然アルネ?」

「JQもJR西もPIされて、中身は児玉元帥やら劉宏大統領なわけでしょ。それって、単なるスペアボディーじゃん。ロボットは人間の道具じゃないとか言ってるけど、嘘っぱちじゃん」

「おお……( ゚Д゚)」

「悟兵のソウルが入ってきてさ、アルアル語喋ってるなんてゲロが出るし」

「アハハハ、そんな予定は無いアルヨ」

「え、だったらなんで電源入れたりしたのよ?」

「え、騒鈴が言ったアルヨ『ねえ、主電源入れてくださらないかしら』って」

「え、そうだった!?」

「そうアルヨ、ほんの三時間ほど前のことアルヨ」

「ナイナイ、ぜったい無い!」

「バックログ見てみるいいよ」

「無いもん、無いから見ないし」

 なんか子どもを相手にしてるみたいアル。でも面白いから深入りしないアル(^_^;)。どう言い返してやるか考えていると、ピックアップトラックがバンを引き連れて入ってきたアル。

「ん……なんだろ?」

 東鈴と二人、近所に越してきた引っ越しトラックに気を奪われる子供のようにシゲシゲと見る。バンの方からも作業員風やらスーツ姿やらジャンパー姿が下りてきてテキパキと作業に入る。

「あ、似てる……」

 東鈴が呟く通り、下ろしてきた物体は児玉元帥のPI記念碑に似ていた。

 ジャンパー姿が儂に気付いて笑顔でやってくる。

「やあ、孫大人じゃありませんか!?」

「え、あ、ああ……」

 思い出した、このジャンパーは満要鎮の村長の張ナントカだ。

「いやあ、PI記念碑はうちの観光資源なんですがね、昔のように人が集まりませんでしてねえ。まあ、大連の203高地やら万里の長城ほどには人気がありませんからね。こんど劉宏大統領の記念碑も合わせて、PI資料館なんかも併設しようと思いましてねえ(^▽^)。漢明の銀行からも資金を借りましてね、やっとここまでこぎつけたんです」

 なるほど、アイデア村長の村おこしと言ったところアル。

 記念碑のプレートには『瀋陽PI記念館』と表記されている。

 行政区的には満要鎮なのだが、政府は民間施設の表記にはうるさくない。

 千葉にあっても東京ディズニーランドと呼ぶしね。

 大勢の観光客を呼び込もうとしたら、何でもありでいいアルよ。

 記念碑は新品でピカピカ。日本人ならひいてしまうかもしれないが、ここらあたりはピカピカが好まれるアル。

 
☆彡この章の主な登場人物
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  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・230『満要鎮PI史跡・1』

2024-07-04 11:36:22 | 小説4
・230

『満要鎮PI史跡・1』孫大人 




 奉天南西15キロの満要鎮を目指している。


 唐黍も満足に穫れない瘦せた土地だが、先の満州戦争で児玉元帥が史上初のPIをやったことで名所になった。

 PIとはPerfect Instsll(パーフェクトインストール)の意味で、人の魂そのものをロボットに移植する技術だ。
 知識や行動様式をコピーしたソックリロボットはコピーした人間の行動や思考をトレースすることしかできない。従って、他のコンピューターによって、その思考や行動は予測されてしまう。

 司令官級の軍人や国家の意思決定に関わる最上級の政治家はコピーロボットでは務まらない。完全に読まれてしまうからだ。

 それに、ソウルや魂と呼ばれるものをインストールすること自体に大方の人間は違和感を持っている。

 ソウルを移植し続ければ、人間は永遠に生き続けることができる……ということになる。その気持ち悪さに人間は耐えられない。
 長期の宇宙旅行では、食料供給をレプリケーターに頼っている。レプリケーターは、どんな有機物でも分子にまで分解し、それを再構築して食品や飲料水を造る。つまり、自分たちの排泄物や死体からでも作れるわけで、その気持ち悪さを嫌って、惑星航路船などは、かなりの船内スペースをリアルの食糧庫に充てている。
 将来、パルステクノロジーが進化して恒星間航行が可能になった時はレプリケーターに頼らざるを得なくなるはずなのに、そのことに思いをいたす人間は少ない。

 児玉元帥をPIしたJQは、先年寿命が来て朝霞谷で眠っている。あくまで軍人児玉元帥としてなのだが、元がカルチェタランの舞姫。最近では『朝霞谷の眠れる森の美女』とか呼ばれている。いまのボディーは……おっと、我が親友児玉元帥の最大の秘密。たとえ、ポンコツ道路を移動中の回想としても控えておこう。

「悟兵、そろそろ着くよ」

「え……ああ、東鈴の運転がうまいんでつい居眠ってしまったアル」

「フフ、よく言うよ、脳波は起きてる時と変わらなかったわよ」

「え、モニタリングしてたアルか!?」

「してないわよ、しなくてもダダモレ」

「油断ならないアル、プラグインしたアルか(;'∀')?」

 慌てて首の後ろを探る。

「しないわよ。そんなことしなくても分かるくらいにあちこちの筋肉ピクピクしてたし」

「え、筋肉ピクピクアルか(;'∀')?」

「ほら、こんな感じ」

 フロントガラスに筋電図が現われたアル! グラフのこぎりの歯みたいアル!

「うう……ん……これ、10倍にしてないアルか?」

「とんでもない、20倍よ」

「20倍……ほとんど平常値アルよ」

「孫企業集団の總經理(ヅォン ヂィン リィー)でしょ、どこで情報読まれてるか分からないから気を付けるアルね」

「お、おうアル」

「さ、着いた。車、駐車場にまわすから先に行っといて」

「おう」


 久々に来た満要鎮の記念碑は緑青が噴いていたが、近づいて現れたホログラムは生々しい。


 胸のアーマーを撃ち抜かれた元帥にJQが覆いかぶさるようにして様態をチェックしている。

「お、俺のソウルを……ダウンロードしろ」
「ソウルをダウンロードしたら、死んでしまう」
「このままでも、俺は……十分と持たない、や、やってくれ!」
「分かった」

 JQは両手で元帥のこめかみを挟む。微弱な電流が流れて、元帥の脳みその保全を図ろうとする。

「ロボット法なんて無視しろ……か、かかれ」
「死んでも知らないから……」

 十秒ほどでPIし終わると、立ち上がってJQは児玉元帥として宣言する。

「ここからは、わたしが指揮をとる」
 
 副官のヨイチは児玉司令の死亡を確認して命令を復唱する。

「『ここからは、わたしが指揮をとる』全部隊に伝達いたします」


 このPI宣言で終わるはずが、続きがあった。


 JQがジェネレーターを放電させて、元帥の遺骸を焼いて灰になるところまでをリアルに再現している。

 ちょっと趣味が悪いと思ったアル。



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・229『騒東鈴』

2024-06-30 11:57:12 | 小説4
・229

『騒東鈴』孫大人 




 ブ~~~~~~ン


 主電源を入れると、蚊の鳴くような起動音がしてJR東の目玉がクルクル回る。目を閉じているので目蓋がグリグリするだけなんだが、これを目蓋が開いた状態でやられると、ちょっとシュールだろう。

 ウィーーーーン

 カプセルが開くと、スチームアイロンの残り湯を捨てた程度の蒸気が漏れる。JRの生体組織を守るために還流していた蒸気が解放される音だ。

 キューーコロコロコロ……

 続いて、育ち盛りの子どもがお腹を減らした時のような音がする。休眠していた内臓が働きだしたんだ。Jシリーズのロボットの生体組織は人間同様の食物摂取で維持されている。モスボールが解かれると、その生体組織が急速に働きを取り戻す。

「老けましたね、マスター」

「ああ、かれこれ三十年ぶりだからな。きみは相変わらずだ」

「生体組織の加齢処理をしますか?」

「いいや、これでいいアルヨ」

「おお、懐かしい……マスターのアルアル言葉。緊張した時とか、なにか誤魔化したいときにアルアル語になるんですよね」

「うるさいアルヨ、直すアル。なんで、いま、起動したアルか?」

「なにかプログラムされていたっぽいのですが、分かりません」

「ええと……とりあえず、なにか身につけようか」

 タッチパネルを押してカプセルの下に格納されている衣装ラックを出してやる。

「え……ああ、こういう時は恥ずかしがらなきゃいけないんですよね……あ、ハ、ズ、カ、シ、イ」

「なんか、おざなりアル」

「まだ情緒表現のデータベースが起動しきれていないので……」

「よっこいしょ……」

 人間らしい掛け声をかけてカプセルから出てくるJR東。

 プ~~~~~~

「あ、思わず排気してしまった」

「早く、服着るアルヨ(''◇'')!」

「ハイ、アルヨ('◇')ゞ」

「おちょくるなぁ! アルヨ(^_^;)!」


 カジュアルなジーンズとブルゾンを着たJR東を真カルチェタランに連れていき飯を食わせる。


「總經理(ヅォン ヂィン リィー)、この子を店で働かせるんでございますか?」

 支配人が耳もとで囁く。JR東の雰囲気は、高級店と言われる真カルチェタランにはそぐわない。

「え、あ、鈴麗の妹、行儀見習いで俺の秘書……アル」

「秘書ですか!?」

「あ……まあ、当分は仕事も見習いアル。今日は飯食いに来ただけアル」

「承知いたしました。ご注文は?」

「ええとね……これとあれと、それと、あれもこれも……」

 満漢全席かというくらいのオーダーをするJR東。

「JR東、おまえ、そんなキャラだったあるか? それとも、まだデータベースが起動しきれてないアルか?」

「ああ、なんか、これで固着してしまったかな(^_^;)、まあ、スペック的には問題ないから、ムシャムシャ」

「しかし、なんで今、起動したアルかぁ?」

「さあ……それより、ムシャムシャ、名前つけてよ、いちいちJR東じゃ言いにくいっしょ。わたしもヤダし、ハムハム……」

「グヌヌ、居続ける気マンマンアルなあ」

「こうやって目覚めたってことは意味があるんだろうからさ、ムシャムシャ……」

「グヌヌ……じゃあ、宋東鈴アル!」

「いいねえ、字で書くとどうかなぁ……ソウトンリン……」

 騒東鈴

 ハンベをモニターにして出てきた文字は「ソウ」の字が違うが、印象としてはピッタリアル。

「ねえ、203地点に行きたい」

 水餃子の最後の一個をかっさらうようにして口に放り込み、青島ビールで飲み下すと、指を立てて宣言する。

「203地点……」

「うん、あの203地点」

 203地点……それは、奉天包囲戦のさ中、児玉元帥がまさかの敵弾をくらって、肉体的に戦死した地点。人類史上初めてPIが成された記念の地だったアル。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・228『孫大人の倉庫』

2024-06-24 11:06:01 | 小説4
・228

『孫大人の倉庫』孫大人 




「やっぱり、ここじゃダメだったんですよ、小爺(シャオイェ)」

「ああ、もう言わんで欲しいアルヨ老婆婆(ラオポゥポゥ)」

「 昔からですよ、小爺はいつも大事なものを仕舞っては忘れてしまって『どこにいったんだ!?』と大騒ぎするんですからね」

「隠したのは確かだけど、忘れたわけじゃないアルヨ。分かってるだろ老婆婆?」

「ほんとうに大事なものなら、この小鈴にお頼みなさい。もう閉めますよぉ小爺」

「おまえはもう帰っていいよ、俺は、もうしばらく見ていくアルヨ」

「そうですか、じゃあ、晩ご飯までには帰ってくるんですよ小爺」

「ああ、お前も気を付けるアルヨ、老婆婆」

「はい、じゃあ、鍵お願いしますよ小爺」

 老婆婆は皺くちゃの小さな手で俺のでかい手を包むようにして鍵を渡し、念入りに二回揺すって階段を上って行く。

「家まで見届けておくれ鈴麗(リンレイ)」

「お一人になりますが……總經理(ヅォン ヂィン リィー)?」

「ああ、もう少しここにいるよ」

「では、直近の警衛を一人まわしておきます」

 有能な秘書は、護衛の手配を一瞬で済ますと、孫家でただ一人生身の老婆婆の見送りに行った。

 さて、一人になって見ると、このカルチェタランは広い。

 隣接するビルの地下も買い取って、延べ輿床面積は400平米を超える。

 グランマがここを畳むと聞いて、即金で買ったのは、ついこないだという気がするが、もう四半世紀以上も昔のことだ。
 
 満州戦争で奉天が灰燼に帰すのは目に見えていた。

 できることなら、北大街全部を保全して守りたかったが、このカルチェタランを含む奉天物産公司ビルと隣のビルを買い取って保全するのが精いっぱいだった。

 戦後、一ブロック先に別のビルを建てて真カルチェタランとして営業、それ以来ここはモスボール状態で法的にはただの倉庫だ。戦後、登記するのに役人に見せたとき「これは高級風俗店ですよ、孫大人」と言われたが「カルチェタランは文化財アルヨ」と、日漢双方の学者の鑑定書を見せて事なきを得た。
 じっさい、真カルチェタランは、季節ごとにここから持ち出した備品で模様替えをやっている。

 ここの番人は老婆婆の小鈴に任せた。

 小鈴は父の代からの使用人で、若いころは孫家の家政を取り仕切り、俺が生まれてからは乳母を兼ねてくれていた。だから、小鈴が管理する物件は世間からも身内からも、孫悟兵のガラクタ番だと思われていた。

 小鈴が番をしてくれているうちはJRは無事だった。

 しかし、戦後二年目に小鈴が体を壊して、それ以来番頭たちの勧めもあって、ここの管理と警備はAIとロボットに任せるようになった。

 そして、まんまとJRを盗まれてしまった。

 気づいたのは劉宏大統領がPI(パーフェクトインストール)をして西之島を訪れた時だ。大統領はプールの事故で心停止した時に秘書の王春華にPIした。そのことは知っていたが、それがJRであるとは知らなかった。奉天に立ち寄る度に倉庫のことは確認していたからな。

 未練たらしいのだが、もう一度バックヤードに入ってみる。

 Aブロックには季節ごとの什器が保管され、奥のBブロックにはカルチェタランで踊り子をやっていたロボットたちがモスボールされている。

 そのモスボールの中央に佇立しているのがJR。

 JRは二体ある、JR西とJR東。

 なんだか昔の日本の鉄道のようだが、造った敷島教授のラボが西と東にあったことに由来しているかららしい。俺が付けるならJR悟とJR兵だ。

 盗まれたのは西の方だ。

 巧妙な盗まれ方をしたので、つい最近まで気づかなかった。

 なんせ、ボディーはオリジナルのままでコアだけが汎用品と入れ換えられている。コア以外はオリジナルだから電源を切ったモスボールの状態では区別がつかない。

 JR東は演舞集団北大街を作った時に解凍したんだが、演舞集団を休止するときに再びモスボールした。

 そのモスボールしたJR東の口が動いた。

「ねえ、主電源入れてくださらないかしら」

 ちょっとビックリしたアル。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・227『緊急ちゃぶ台会議』

2024-06-16 18:11:37 | 小説4
・227

『緊急ちゃぶ台会議』メグミ 




 サイズにも寄るだろうけど、ちゃぶ台の定員は四人だと思う。

 むろん円形だから三人でも二人でもおかしくは無い。ちょっと詰め合えば五人くらいで卓を囲むこともできる。円形だから上座も下座もないしね。

 その気になれば、いくらでも大きなちゃぶ台は作れる。じっさい国際会議などでは、直径5メートルのちゃぶ台(円卓)が使われることもある。直径5メートルもあれば二十人ぐらいは楽に座ることができる。

 三十年も前に漢明で国際会議が開かれた時には直径8メートルの円卓が使われた。卓の高さも40センチに抑えられ、当時の大統領は「中華式のちゃぶ台です」と互恵・平等の発露だと自慢していたが、8メートルもあってはちゃぶ台とは言えない。

 お岩さんは言う。

「茶碗を差し出せば直接受け取ってお替わりを渡せる大きさ」

 シゲ爺は言う。

「ちゃぶ台返しもできねえのはちゃぶ台じゃねえ」

 
 そのちゃぶ台を二つ並べ、島のくせ者たちが寛いでいる。
  

 ついさっきまでは、ちゃぶ台をもう三つ並べ、この三倍の人数で非公式の緊急会議を開いていたんだ。

殿下:「いや、大事にならなくてよかった……最初にあの映像を見た時には、どうしようかと思ったけど」

サブ:「抜かりはないつもりだったけど、こんなに早くコピーされて、正直ビビっちまったけどな」

ハナ:「ウンコもらしそうな顔してたもんな」

サブ:「うっせえ!」

マヌエリト:「朱元尚大佐、生きて返したの後悔した」

お岩さん:「もう、ナイフは仕舞っとくれよ、村長(^_^;)」

及川市長:「しかし、あの写真から劣化版とはいえ概念的に同一のものを作ってしまうとはビックリでした」

 実は、漢明がうちのそれにソックリな選鉱機を作ったと漢明技術研究所が動画を発表したんだ。

 こないだやってきた朱元尚大佐が秘密に写真を撮っていて、そこから概念設計をやり、ソックリなものを作った。

 スペック的にも、うちの90%の能力を持っていて、漢明が採掘するパルス鉱は20%増しの力を発揮すると言われた。特に、パルスギについては、その選鉱途中の状態から精錬法まで類推できると思われた。

シゲ爺:「なあに、なぞっただけでは何もできん」

 現役の技師だったころに選鉱機の概念設計をやったシゲ爺が、映像のあちこちを指摘し、その性能が島のそれに匹敵しないことを指摘。

シゲ爺:「それに、ここじゃ、選鉱速度が早いように見えとるが、早回しにしとおる。脇に写っとるパルスガの振動が理論値の二割増し、あり得ん。それと……」

 ヨレた神主姿からは思いもつかない明晰さで、他にも三点の矛盾を説明してくれて、ほとんどフェイクと言っていいしろものだということを説明してくれた。

ハナ:「なんか、見かけはメグの方がえらいように見えてるけどなあ。ポンコツでも、うちの神主は大したものだったんだなあ」

シゲ爺:「誰がポンコツじゃ」

メグ:「いや、ほんとにシゲ爺はすごいよ」

 じっさい、そう思う。わたしは十年以上前に失った自分本来の姿を未だに取りもどせてはいないんだからな。

お岩さん:「さあ、一安心できたんなら一杯やろうか、夜は長いんだからね。ハナ、取りあえず熱燗十本」

ハナ:「ヘイヘイ~……え?」

お岩さん:「どうしたぁ?」

 ハナが開けたままの障子の向こうに人影。

ハナ:「どうした、フーちゃん?」

 明かりを落としたフロアーに立っているのはフーちゃんだ。フーちゃんらしからぬ沈黙に、座敷のみんなが身を乗り出す。

フーちゃん:「転属を命ぜられました……」

 ええ!?

     
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・226『朱元尚大佐・4』

2024-06-11 09:39:28 | 小説4
・226

『朱元尚大佐・4』メグミ 




 フーちゃん(胡盛媛中尉)の父、胡盛徳大佐に止めを刺したのはわたしだ(147『待ち伏せ』)。

 待ち伏せのプランを考え、崖を爆破したのはハナ、部隊の指揮を執ったのはお岩さんだ。島の交戦記録にも、そう記載されている。
 フーちゃんには、彼女が連絡所の隊員としてやってきたときに、お岩さんを含め三人で打ち明けた。

「あ、いえ、あれは戦闘行為ですから(^_^;)」

 両手をワイーパーみたいに振って屈託のないことを示してくれた。

 それどころか、有志で作った慰霊碑があると聞くと、数秒絶句し、ポロポロと涙を流しながら「ありがとうございます」と頭を下げた。

 それからは、お岩食堂の常連になって、もうほとんど島の住人のようになっている。

 氷室神社の近くに設置された連絡所は漢明軍の末端施設だが、駐在員も温厚な者ばかりで、軍服を着ているけど武装はしていない。

 劉宏大統領の陰謀……と言ってしまえば身もふたもないことなんだけど、深慮遠謀。漢明と日本が将来どのような関係になっても、最もストレスと犠牲が少なくて済むように布石を打っている。

 平和には友好的な態度が基本――庇を貸りて母屋を取る――ためにね。

 戦うにしても相手と友好的なチャンネルを残しておくのがセオリー。

 始めた戦争はいつか止めなければならない、有利な条件で矛を収める土台は人間関係だからね。

 そのどちらにしても西之島は受け止められる。直に接する相手が人の心をしていれば、人の心で受け止める。たとえ、それが朱元尚大佐のように外交的ポーズであってもね。

 フーちゃんは軍人にしておくにはもったいないほどに優しい子だ。いつか除隊することがあるなら、そのまま本当に島の住人になってくれたらと思う。ココちゃん(須磨宮心子内親王)が抜けてガラッパチになった島の空気を柔らかくしてくれると思う。できたら、うちのラボの助手に……


 と思ったら、朱元尚のクソッタレが先を越そうとしている。


 選鉱機のアクシデントのあと、朱元尚は花束を抱えて、胡盛徳大佐の慰霊碑に向かっている。こちらは、わたし(メグミ)と巫女服のハナ、それに食堂のお岩さん。

「ほう、崖の上なんですか」

 慰霊碑のある崖を見上げる朱元尚。

「はい、戦死したのは崖の下なんですけど、落石が絶えないし、日陰なので、見晴らしのいい崖の上に設置していただいています。あちらの階段から上がれます」

「そうか、島の方々の心づくしなんだね」

「上は五人も並べないし、まずはお二人で」

 お岩さんが提案し、漢明の二人は花束を持って階段を上がる。

 朱元尚大佐が花束を、フーちゃんが水桶と中華式の長い線香を持っている。

 潮騒とウミネコの鳴き声、わたしたち三人は崖の下で手を合わせる。

 中華式なら、線香をあげながら祭文を唱えるはずなんだけど、波の音とウミネコにかき消されて聞こえない。
 しかし、空気の流れで線香の煙はその匂いと共に降りてくる。
 和式の線香とちがって、どこか横浜あたりの中華街を偲ばせる陽気な匂いだ。

 そうだ、これからは中華式に換えようかと思った。

 やがて、お参りが終わって、降りてきた二人と交代で崖を上る。

「日本式のもあげとくかぁ?」

 ハナが、持ってきた線香を持て余して提案する。巫女服で線香をあげるのは微妙にミスマッチなんだけど、西之島は明治以前の日本のように神仏習合だ。

 三人手を合わせていると、崖の下から声が上がってくる。

 気流の関係で、煙は下におりてくるが声は逆に上って来る。たぶん、岩に反射するからだろう、トンネルの中の音が外に漏れるのと同じ理屈だ。

『……かつての部下として、宿願のお参りも済ますことができた。今度は、わたしが大佐の恩に報いる時だ。どうだね、こんな敵の小島で燻っていないで、本土の部隊に復帰してみては』

『は、はい……それは……』

『実は、今度、現役に復帰して中央軍の配置になりそうなんだ』

『それは、おめでとうございます(^_^;)』

『早手回しにカミさんは新調の軍服をよこしてきた』

『あ、それが、いまお召しの……』

『こんなものは、どうでもいい、ただのラッピングに過ぎない。それよりも、必要なのは人材だ。復帰すれば、たぶん少将、悪くても准将。有能な副官が必要だ。お父上の恩に報いることにもなる、どうかね、わたしといっしょに本土に戻ってみては』

『は、はあ……』

『君にも立場とメンツがあるだろう、今すぐにという話ではない。考えておいてくれ』

『は、はい……』

『ま、特別のことだからね、連絡所の同僚にも島の人間にも内密にね』

『はい……(-_-;)』


「「「あいつぅ……」」」


 三人の声が揃った。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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銀河太平記・225『朱元尚大佐・3』

2024-06-05 15:08:16 | 小説4
・225

『朱元尚大佐・3』朱元尚 




 フォルムだけだが選鉱機の概要が分かった。

 フォルムが分かれば、内部の動力や制御機器の大きさや配置の見当がつく。まったくのゼロよりはスペックの推測がしやすく、コピーを作る手間と時間の二割ぐらいは省けるだろう。

 母国に送るパルス鉱石などはどうでもいい、都合よく台風が接近してきたので、それをネタに西之島の先端技術を盗むのが目的なんだからな。

 選鉱機そのものもパルス関連の周辺技術に過ぎないが、こういうことの積み重ねが出世の糸口になる。いつまでも、ホトケノザにいるつもりはない。予備役の身分とはいえ資源開発公司の管理職の端くれになったんだ、目指すは公司の社長かCEO……いや、それも手段だ。俺の欲は日本海溝よりも深く、志は泰山よりも大きく須弥山よりも高いのだからな。

「大佐、お怪我はありませんでしたか?」

 胡中尉といっしょに地上に引き上げられた時、氷室社長は坑口まで来ていて、心から心配そうに訊ねてくれる。
 社交辞令に過ぎないのだろうが、こういう機敏さは敵ながら見事だ。

「いや、お騒がせしました。中尉が注意してくれた時に踏みとどまればよかったのですが、新しいものにはつい前のめりになってしまって、もうしわけありません」

「医務室で少し休まれませんか、あちこち打っておられるようですし、一応の検査もなさった方が……」

「大丈夫、ハンベの簡易検査で異常ありません」

 ハンベの仮想インタフェイスを拡大して見せると、眉を寄せながらも笑顔を見せる氷室社長。

「なるほど(^_^;)」

「それに、胡盛徳大佐の慰霊碑にはお参りしたいですから」

「そうですか、では、こちらからも人を付けましょう。ええと……」

「わたしが行きます、社長」

「ああ、メグミさん」

 坑口に集まっている関係者の中から、ドクターともメカニックともつかない女性が手を上げる。

「彼女はラボのチーフですが、戦時中は緊急にドクターもやっていましたので適任です。じゃあ、よろしくお願いします、戻られましたら歓迎会というほどではありませんが、昼食会をやりますので、食堂の方へお越しください」

「そうでしたね、一時間で戻れるだろうか中尉?」

「間に合うとは思いますが、90分ということで、お岩さん、いいかしら?」

「ああ、9秒後でも90分後でも間に合わせてあげるよ。でもまあ、ご馳走を前に待たしとくと暴動が起きかねないから、連絡してもらうと嬉しいかな」

「はい、承知しました。では、参りましょうか、大佐」

「ああ、頼む」

 選鉱機の概要も確認し、島の様子もある程度は掴めた、あとはオマケだ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
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  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
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  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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銀河太平記・224『朱元尚大佐・2』

2024-05-30 14:51:40 | 小説4
・224

『朱元尚大佐・2』朱元尚 




 西之島の選鉱機は部外秘の技術だ。


 なかば断られると思って見学を申し入れたら快く許諾の返事をもらって、正直――言ってみるもんだ――とほくそ笑んだ。

「選鉱機は、坑内の深いところにある選鉱基部と中間の移送パイプ、そして、ここにある取り出し槽に分かれます。取り出し槽には輸送コンテナが直結できるようになっていて、ここでコンテナをいっぱいにして船に積み込みます」

 サブという技師……いや作業員か、がていねいに説明してくれる。

 いったん受け入れると決めてしまうと、下心アリアリのわたしへの説明にも手を抜かない、いや、手を抜けないのだろうな。愛すべき国民性ではある。

「お預かりしたパルス鉱は、こちらの逆走パイプから選鉱基部に落とし込んで選鉱することになります」

「ご丁寧な説明痛み入る。この下の選鉱機はどんな具合になっているんだろう」

「あ、それは部外秘ですので、お見せできません。申し訳ありません」

 さすがに断るな。

「覗いてみる分には構わないだろうか?」

「はい、覗いて見るくらいなら。足もとが悪いのでお気をつけください」

「うむ」

「大佐、軍服が汚れます」

 胡盛媛中尉が手すりとわたしの間にタブレットを持ったままの手を差し入れる。

「いや、すまん」

「上海縫製公司のオーダーメイドですね、とびきりの高級品です」

「ハハ、父上のように実力が伴わないんで『見た目だけでもキチンとしなさい』って、カミさんがやかましくてね」

 見え透いた諧謔だが、中尉も島の者も頬を緩める。

 よし、これなら……こっそりと手すりの掛け金を外す。

 ウワアアーーーーー!

 キャーーー!

 大佐あ!

 中尉を巻き込んだまま、竪坑を落下する。

 寸前に作業員の手が伸びてくるが、虚しく空を掴んでいる。

 落下しながらも、下の選鉱機本体にしっかり視点を合わせる。わたしの義眼は昔風に言えば8Kの解像力がある。暗視補正も付いているので、真の暗闇でなければ鮮明な画像が撮れる。

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 古典的なシャッター音などするはずも無いのだが、そんなエフェクトを入れてみたくなるほどにきちんと撮れている。

 ズチャ!

 中尉自らがクッションになり衝撃を和らげてくれる!

 おかげで、点検口から写そうと思った画像は二枚しか撮れなかった。

「いや、すまん中尉、大丈夫かね?」

「はい、大丈夫です、お怪我はありませんか大佐?」

「アハハ、家内にはちょっと叱られそうだがね」

――大佐! いまラッタルを下ろします! ご無事なら上って来てくださいーい! 無理なら別の坑口から救援に向かいまーす!――

 島の人間も中尉も優秀だ……そうそう付け入るスキは無さそうだが、それはそれでやり方はあると思った。

 
☆彡この章の主な登場人物
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  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
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  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
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  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
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銀河太平記・223『朱元尚大佐・1』

2024-05-25 11:38:27 | 小説4
・223

『朱元尚大佐・1』朱元尚 




 パルス鉱という燃料鉱石はプレートが隣り合う別のプレートの下に沈み込んだところで生成される。

 この太平洋地域においては西之島が最大最高の産出地だ。

 我が政府は十余年前、洛陽号事件をきっかけに西之島への干渉を試みて失敗した。
 
 我が国は日本海溝を挟んで隣り合うホトケノザに海上基地を作って、パルス鉱と西之島への興味を失っていないことを消極的に示した。

 PIした劉宏大統領は、協調路線、遠い将来に親善を深めたうえで再度の攻略を考えているのだろう。ホットウォーに寄らない方法、あるいは日本人にそうとは気づかせない方法で。しかし、そんな悠長なことはやっていられない。

 
「無理なお願いをしましたが、快く受け入れていただき感謝に耐えません」

「困った時はお互いさまです朱大佐、いや退役されて所長でしたね。パルスコンベアを使いますので、少々時間はかかりますが、鉱石への衝撃はほぼゼロです」

「ありがとうございます、これで、品質を落とさずに移送ができます」

「では、さっそく取り掛かりましょう。サブ、準備はいいかい?」

「OK、社長!」

 ほう、日ごろは殿下と呼ばれているはずだが、外部の人間には呼び方を変えているようだ。

「前よし、後ろよし、移送開始!」

 ウィーーン

 若い技師が合図すると、コンベアが動き出し、坑内の選鉱機まで運ばれる。コンベアは鉱石に刺激を与えないように作られていて、回転ずしのように慎重に流されていく。

「選鉱機もすごいと聞いていましたが、コンベアもすごいですねえ」

「ボランティアのアイデアです」

「ほう、ボランティア」

「ボランティア兵の多くが事変後も残ってくれまして。まあ、本国に帰っても景気がもう一つという人も多くて。うちは平時でも人手不足ですから働いてもらってます。あ、このコンベアは南アフリカの人のアイデアです。国では、ダイアモンド原石の切り出しの仕事をやってらしたようです」

「ほほう、多士済々というわけですなあ」

 視線を移すと、あちこちに、元ボランティア兵らしいのが働いている。

 潜在的な兵力、戦闘力は落ちていないようだ。

「遅くなりました!」

 ドキッとした。

 ふいに後ろから声を掛けられたせいだが、声の響きがかつての上官に似ている。

「きみは……」

「はい、西之島連絡所、広報担当の胡盛媛中尉であります」

「あ、そうか、ご苦労です。よろしくお願いする」

「ハ!」

 案内役兼世話係りは連絡所の要員があたると聞いていた。

 本来は小規模とはいえ駐留軍なのだが、非武装の連絡所にしている。これも大統領の意向なのだが、興味深い、こちらもよく観察させてもらうとしよう。

「では、フーちゃ……胡中尉、あとはよろしくお願いします。朱大佐、後ほどまたお目にかかります」

「こちらこそ、急な申し入れにもかかわらず、便宜を図っていただきありがとうございました」

「あ、昼食は、そこのお岩食堂で。乗組員さんの分も用意してありますので、ご遠慮なく」

「あ、それはそれは、船の烹炊に連絡を……」

「船の方には連絡しておきました」

「「さすがぁ」」

 期せずして氷室社長と声が揃う。

 この和やかさと効率の良さ、あまり友好の演技をせずに済みそうだ。

 氷室社長を見送って一つの提案をする。

「島には、胡盛徳大佐の碑があると聞きいている。あとで訪れてみたいと思うんだが」

「……承知しました」

 さすがに屈託がある。

「あ、いえ、時間を計算していたものですから。ありがとうございます。父も喜ぶと思います。花の手配をしておきます、少々お待ちを……」

 キチっと敬礼をしたかと思うと、神社の方に駆けだし小柄な巫女と一言二言。

 アハハハ(^▽^)

 巫女が、ここに居ても聞こえる元気な笑い声を立てると、ペコリと頭を下げて戻って来る。

「では、ご案内いたします」

「ああ、頼む」

 いろいろやり甲斐のある島だと認識を改めた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
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  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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