大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠35[虚無宇宙域 ダル・1]

2023-02-26 06:14:49 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

35[虚無宇宙域 ダル・1] 修一  

 

 


 アクアリンドのクリスタルは、クレアが送った情報をもとに三笠でレプリカをつくって交換した。

「組成や形態がいっしょだから、80年たたなければ偽物とは気づかないわ」


 クレアも、レプリカを作ったトシも自信満々だった。


 本物は、三笠の二つある機関の真ん中に置かれた。仮にも一つの星の運命を握っていたクリスタルだ、いまは眠っているような状態だが、数百年の記憶を取り戻し稼動し始めた時に巨大なエネルギーを放出する恐れがあった。三笠の中央に置かなければ、いざと言う時に、船のバランスを崩すおそれがあるという僧官長の意見に従ったものだ。


「微弱だけど、クリスタルから波動が出るようになった。なにか感じているみたいだよ」

 トシがインジケーターを指さした。

「さすが世界一の殊勲艦。与える影響も違うんだ!」

 ウレシコワが感心して言った。

 クチュン

 神棚でみかさんが小さくクシャミをしたようだ。

「で、なにか三笠の役に立ちそうなエネルギーとかは出てないの?」

「居候なんだから、なんかの役にたってもらわないとね」

 天音と樟葉は、夢が無いというか現実的だ(^_^;)。


「樟葉、これからの航路は?」

 艦長らしく航海長としての樟葉に聞く。

 樟葉も航海長の顔に戻って応えてくれる。

「5パーセク先が分岐になりそう。直進すれば、ダル宇宙域に突入するわ」

「避けるのか?」

 樟葉のニュアンスから、修一は先回りをして聞いた。

「ダル宇宙域の外周は、グリンヘルドと、シュトルハーヘンの艦隊が百万単位で待ち伏せている。切り抜けられないことはないけど、三笠も無事ではすまないわ」

「四十万の飽和攻撃で、シールドが耐えられなかったからな……」

 ダル宇宙域を突破するしかないという気持ちになってきた。

「待って艦長、ダル宇宙域は、恒星が二個あって、その恒星も惑星も公転していないわ。とてつもない負のエネルギーが満ちているような気がする」

「アナライズの結果か?」

「エネルギーそのものは感じないけど、全ての星が動いていないということは、動いていないだけの理由があるはずよ。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、哨戒艦すらここには出していない。状況から考えて未知の何かがある」

「しかし、ここを避けたら、敵の待ち伏せのど真ん中に突っ込んでしまう。確実な脅威に飛び込むよりは、未知の可能性に賭けてみたい。みんなはどうだ?」

 ……………………。

 艦橋のみんなに言葉は無かった。

「しかたがない。ミカさんに聞いてみよう」

 神棚のあるホールにいくと、ミカさんはセーラー服でニコニコ待っていた。

「その顔は、ミカさん、いい答えを持ってるんだね!?」

「ううん、みんなが前向きの気持ちだから嬉しいの。わたしがここにいるというのは、三笠に差し迫った危機がないということだから、みんなが話し合った結果でいいんじゃないかしら」

「ミカさま、お茶の用意ができましたニャ(^▽^)/」
 
 ミケメがワゴンを押してやってきた。他の三人のネコメイドたちも『猫ふんじゃった』をハミングしながらテーブルを整えたり、ティーカップを並べたり。

「気楽だなあ。それで今まで、どれだけの危機に出会ったか」

「でも、結果として三笠は無事でしょ? まだまだ試練はあるだろうけど、大丈夫。いまのあなたたちなら乗り越えられるわ」

「そうニャそうニャ」「みんなもお茶するといいニャ」「ダージリンニャ」「オレンジペコニャ」

「いいのよ、みんなで出した結論で進みなさい。100パーセント問題なしに進める道はないわ。でも、みんなに前に進む勇気が出てきたのなら、それで十分よ」

「そうだねミカさん。決めたんだ、迷わずに前に進むよ」

「そう、それがいいわ。ワープの準備が済んだら、ここにいらっしゃい。ちょっと寛いで、それからワープすればいいから」

「分かった。じゃあ、ブリッジに戻ってワープの準備だ。それから、お茶にして、一気に切り抜けるぞ!」

「「「ラジャ('◇')ゞ」」」


 寛いでいるようだったけど、ミカさんは、それとなくダル宇宙域突破を示唆してくれた。
 
 やんわりとだけど、俺の方針を後押ししてくれた。

「よし、ワープで一気に抜けるぞ。ダル宇宙域は1・5パーセクしかない。最大ワープで抜けるぞ!」

「じゃ20パーセクで」

 トシは、機関室へ向かおうとした。

「いや、100パーセクだ!」

「100パーセクもワープしたら……二三日動けなくなってしまうよ。その間に攻撃されたら、反撃することもバリアーを張ることもできなくなる」

「勘だよ。それだけワープして、やっとダル宇宙域を突破できるぐらいだと思う」

「でも」

「ものごとやってみなければ、前には進めん……だろ」

「う、うん」

「よし、では100パーセクのワープの準備をして、お茶会だ」

 了解!!

 みんなの声が揃って、三笠は能力の五倍を超えるワープの準備に入った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す]

2023-02-25 10:26:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す] クレア  

 

 

「この星では、全てのものの寿命が80年しかないのです」

 長い沈黙のあと、僧官長は覚悟を決めたように言った。


「どういう意味でしょう……」

「クレアさん、御神体のクリスタルに手を触れて、アナライズしてくださらんか」


 全て見通している僧官長は、クレアを偽名ではなく、本名で呼んだ。そしてクレアのアナライザーとしての役割も知った様子たった。


「……この星、80年以上の寿命を持っているのは、星本体と、僧官長さまだけです……なんということ……海の中には四つの大陸が沈んでいる」

「「え?」」

「待って、続きが……」

「やはり、続きは、わたしからお話しましょう。辛いことを先延ばしにしたり人任せにすることはアクアリンド人の悪い癖です」


 僧官長は後ろ手を組んで、クリスタルにも修一やわたしにも背を向けるようにして言った。


「この星は、地球に似た星で、かつて五つの大陸がありました。人口も50億と、穏やかな、星の容量に見合った数でした。しかし、地球がそうであったように、この星は大きな戦争や紛争を繰り返してきました……」

 アクアリンドの戦争や紛争の歴史がVR映像のようにフラッシュバックしていく。あらかじめ聞かされていなければ、頭も心もかき回されてしまいそうな凶暴さだ。

「ある日、ある戦争でICBMが撃たれました。落ちてくれば国の二つ三つが吹き飛んでしまうぐらいに強力な核ミサイルです。星を半周して大気圏に再突入しようとした時、突然流星が軌道を変えて、このミサイルに触れて、その弾みで核ミサイルは宇宙の彼方に弾き飛ばされたのです。流星は、衝突で速度を落として、大気圏で燃え尽きることなく、ここに落ちてきました。それでも巨大な隕石であることに変わりはなく、半径10キロが破壊され、大勢の犠牲者が出ました」

 ひょっとして……

「そうです、それが、このクリスタルなのです。クリスタルは囁きました『わたしを崇めれば、全てを水に流してやろう。そして、一からやり直しなさい。試しに、わたしの墜落で壊してしまった半径10キロを墜落前の状態に戻してみよう』、クリスタルが輝いたかと思うと……表現が難しいのですが、半ば実体化した水が流れて墜落の痕を洗い流していきました。そして、半径10キロは墜落前の状態に戻りました」

「そんなことが……」

 修一が漏らした言葉は怖れを含んでいる。正常な反応で安心した。

 僧官長の横顔は―― ここで間違った ――という表情だった。

「この星の指導者は、これに頼ってしまったのです。クリスタルに頼み、この星が真に平和になるまで水に流して欲しいと……」

「水に流すとは?」

「人の寿命は80になりました。あらゆるものを80年で更新するようにしました。その結果、大きな破綻や戦争が起こることは無くなりましたが、小さな不満や破綻は絶えることがありません。クリスタルは、この星の人間が満足していないと判断して、80年周期の更新をやめません。一時はクリスタルの破壊や星の外への移送を考えましたが、クリスタルは、この星の人間が触れることを許しません、このように……」

 僧官長が手を伸ばすと、あと30センチというところでスパークが走る。

「試しに、わたしの体を押してみてください」

「じゃあ、俺が」

 修一が押すが、30センチのところでスパークが走るばかりで僧官長とクリスタルの隙間は埋まらない。

「という次第です……流してしまったものは全て水になって海に流れ込み、四つの大陸は海に沈んでしまいました。まもなく、この星の人口は1億を割り、このままでは、最後に残されたアクア大陸も水没してしまうでしょう」


「それって……?」


「星が滅亡してしまうということ」

 思わず、無機質な言い方をしてしまった。

「そうです、クレアさんはお優しい。こういう話は情緒的に話してしまえば、嘆きしか残りませんからね。わたしは嘆くために、こんな話をしているわけじゃない。この星を元に戻したいのです。滅びに向かいつつある星なので、グリンヘルドもシュトルハーヘンも征服しようとは思いませんでした。この星を覆う水を減らせるかどうかは分かりませんが、残ったアクア大陸だけでも元の姿に戻したいのです」

 いつの間にか天窓が開き、潮騒が聞こえてくるようになっていた。地球同様に心が癒される波音ではあった。

「海の安らぎに頼り過ぎた姿が、このアクアリンドなんです」

 

 でも……


 そこまで言いかけて、あとは修一に任せた。

 言いにくいことをまわしたともとれるし、決意を伴う話になりそうなので、修一が話を付けるべきと譲ったともとれた。

 潮騒の音が大きくなってきた。なにやら大きな波が岩肌にぶつかるような音もし始めた。

「で、ぼくたちに、なにをしろと……」

「このクリスタルを、三笠で持ち出していただきたい」

「え……?」

「これは賭けです。グリンヘルドとシュトルハーヘンの戦いの中で、このクリスタルは、本来の存在意義を取り戻すと思うのです。80年の周期で、全てを更新し、水に流す愚かしさに気づいてくれるのではと思うのです。今のアクアのクリスタルは優しすぎます。その優しさが、この星を滅ぼすことに気づかせたいのです。それに、クリスタルには秘めた力があります。万一の時は、きっと、三笠のお役にもたちます……お願いできんだろうか」

 三笠は、アクアリウムのクリスタルを預かることになった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠33[水の惑星アクアリンド・3]

2023-02-24 06:32:37 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

33[水の惑星アクアリンド・3] 修一  

 

 


 あくる日は視察と親善訪問でいっぱいのスケジュ-ルだった。

 アクアリンドのIT施設、生命科学研究所、老人介護施設、交通システム管理センター、軍の閲兵、そして、たまたま日が重なった三年に一度の高校総合文化祭の観覧と目白押しだった。

―― やっぱ、この星おかしい ――

 クレアの言葉が、直接頭に飛び込んできた。老人介護施設の訪問が終わろうとした時だった。

「この星の歓待ぶりは格別だね……」

 俺は、会話の流れとしては自然な一言を発した。

 次の瞬間、俺とクレアはデコイと入れ替わった。

 昨夜、クレアとバーチャル映像を監視カメラなどにかましながら決めた合言葉だった。クレアが用意した修一とクレアそっくりのデコイと瞬時に入れ替わっていた。瞬間各種のカメラに微弱なノイズが入るが、気が付く者はいないだろう。また気づいたとしても、ノイズを解析し、二人がやったことに気づくころには三笠は、この星を離れている。


「これはこれは珍しい。旅の修行僧のお方とは」

 アクアリンド大陸南端の密林の中に、それはあった。


 アクア神の唯一の神殿であるセントアクア聖殿である。僧官長のアリウスが両手を広げ、若い修行僧姿の修一とクレアを神殿に招き入れた。アリウスは、どうやら二人の正体と、訪れた目的を知っている様子である。

「夕べ、夢を見ましてな。北の方角から、若い修行僧二人が訪れると。これもアクア神の賜物でしょう」

「僧官長さまのお教えと、アクア神のお導きがいただきたく、大陸のあちらこちらを経めぐり、ようやくアクアの神殿にたどりつくことができました」

「いずこから来られた方であろうと、このアクア神のみ教えを拝する方は同志です。どうぞ聖殿に入られよ」

「我々のような修行浅い者が、聖殿などに入ってよろしいのですか?」

「聖殿でなければ、神の声は聞こえませんでな……」

 聖殿は神殿の奥にある八角形の台座で、その上にマリア像に似たアクア神の神像があった。

「入られよ」

「「失礼いたします」」


 僧官長にいざなわれ、俺たちは台座の中に入った。中央に八角形の大きなクリスタルが、様々な色に変わりながら輝いて、中央でゆっくりと旋回していた。

「これが、アクア神の御神体。上の神像は、人の目を欺く……と言ってはなんですが、分かりやすく人に見せるために作られた、祈りの象徴にすぎません。八十年に一度新しいものと交換いたします。本当の神のお姿はこのクリスタルです。地球のお方」

「やはり、ご存じだったんですね」

「この星で、八十年以上前の記憶を持っているのは、わたし一人です。わたしは、今年で二百八十歳になりますが、世間には八十歳で通しています。だれも怪しみません」

「それは……みんな八十年以上前の記憶がないからですね」

 クレアの言葉に僧官長は、かすかな笑みをたたえて沈黙してしまった。

 深遠な、すごみのある沈黙だった。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠32[水の惑星アクアリンド・2]

2023-02-22 07:45:57 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

32[水の惑星アクアリンド・2] 修一  

 

 


 暗黒星団ロンリネス以上の歓待だった。

 アクアリンドは、夕刻の入港を指定してきた。

 船の入港は朝が多く、異例といえたが俺たちは素直に従った。

 二十一発の礼砲を鳴らすと、それが合図であったように、港街であり首都であるアクアリウムの各所から一斉に花火が上がり、花火には無数の金属箔が仕込んであって、それが他の花火や夕陽を反射して、ディズニーランドのエレクトリカルパレードの何倍も眩く、この世のものとは思えない美しさだった。

 三笠のクルーは正装して上甲板に並び、登舷礼の姿勢のまま美しい歓迎を喜んだりビビったり。

「悪いけど、わたしは神棚にいるわね。この星の雰囲気、どうも肌に合わない」

 で、ミカさんを除く全員で上陸し、アクアリンドの大統領以下、この星の名士やセレブの歓迎を受けた。


「いやあ、よくお越しくださいました。実に八十年ぶりの来航者で、我々も感動しております」

 大統領の言葉から始まり、各界名士の挨拶が続いた。

 歓迎レセプションには、この星一番のアイドルグループのエブザイルや、AKR48(アクアリンド48)のパフォーマンスが繰り広げられた。

「正直、退屈な民族舞踊なんか見せられると思っていたけどニャ。良い感じニャ!」

 ネコメイドたちは、ほとんど素の猫に戻って地元猫たちと楽しくやっていたが。他のクルーたちは微妙な違和感を感じていた。

 たかが水の補給にきて、この歓待はなんだ? 違和感の元は、ここにあった。


 深夜になって、クレアが憂い顔で艦長室にやって来た。

 クレアは元々はボイジャー1号で、漂流していたのを三笠で保護して、ミカさんが人間らしい義体を与えたものだ。ヘラクレアの娘さんのイメージが反映されているようだけど、並み居る敵艦隊を一手に引き受け玉砕した壮烈な軍人それではない。聡明で、でも少し引っ込み思案な……うん、トシの従姉だと言われたら、そのまま頷いてしまいそうな感じ。


「ちょっと、いいかしら……」


 と言った時には、その夜の晩さん会の素晴らしさを語り合う二人のフェイクデータをダミーに流していた。だから「今夜のおもてなしは素晴らしかったわね」とアクアリンドの諜報機関には聞こえていたが、実際は「この星、おかしいわよ」になっている。深夜になったのは、このダミーデータを作っていたかららしい。


「具体的に言ってくれ」


「レセプションでも気づいたと思うんだけど、この星には伝統芸能や、伝統技能がないの。それに、この星のコンピューター全てにアクセスしてみたけど、八十年前以前の記録がどこにもないの」

「ロンリネスのときみたいにバーチャルってことはないのかい?」

「そう思って調べたけど、全て実体よ。人口は一億八千万。惑星としては少ない人口だけど、大陸としてはほどほどの人口。ジニ係数も二十以下で、地球のどの国よりも貧富の差が少ないの」

「歴史が分からないという点を除けば、よくできた星だな」

「それから、この星は、ほとんど無宗教。アクア神というのがあるけど、信者は数百人といったところで布教している様子もないの。大陸の南端に神殿があるほかは寺院とか教会とか呼べるものが無いし、サーチした限り僧侶や神官らしき人も居ない……穏やかに見えるけど、どこかおかしいわ、この星」

「明日、名所案内をしてくれる。そのときに、ちょっと気を付けてみよう」

「それから、この音を聞いてみて」

「あ、ちょ……」

 クレアは、俺のオデコに自分のオデコを近づけて、自分の聴覚とシンクロさせてきた。見かけに似合わず大胆だ(;'∀')

「五感の99%を聴覚に集中して聞こえてきたの……目をつぶって集中して、そうでなきゃ聞こえないくらいに微かだから」

「う、うん……」

 それは、微かにサラサラと水の流れる音だった。

「えと……クレアの体の中を流れる血流?」

「違います! わたしのは……」

「ちょ!」

 頭を挟んで胸に持っていきやがる。

 ドックンドックン

 ウ!?

 意外に強い乙女の血潮に、ちょっとたじろぐ。

 俺の反応に満足すると、再びオデコに戻される。

 見かけも振舞も、ほとんど普通なんだけど、まだ人間に成り切れていないんだ。ま、いいんだけどな。俺が指摘したら、逆に変になりそうな気がする。俺も器用なほうじゃないからな(^_^;)

「ちょっと、聞いてる?」

「あ、すまん」

 横須賀港で見かけた自衛隊の……世界一と言われる静粛性を誇る潜水艦、それが限界潜行深度でたてるキャビテーションノイズを聞いたような気がした。

 うかつに目を開けると、目の前にクレアのドアップ。

(灬╹X╹灬)

「ちょっと、なにやってんの二人で!?」

 樟葉が怖い顔をして立っている。

 三笠の外にはバリアを張ってくれたクレアだが、艦長室のドアには気が回っていなかったようだ(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠31[水の惑星アクアリンド・1]

2023-02-20 06:31:21 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

31[水の惑星アクアリンド・1] 修一  

 

 

「両舷10時と2時の方向に敵艦体!」「距離4パーセク!」

 Jアラートみたいな警報とともに当直のクレアとウレシコワが叫んだ。


「両舷共に10万隻、クルーザーとコルベットの混成艦隊、あと1パーセクで射程に入ります」

「敵艦隊、共にエネルギー充填中の模様。モニターに出します」


 クレアとウレシコワが的確に分析し、報告を上げてくる。モニターには、敵艦一隻ずつのエネルギー充填の様子がグラフに表され、まるで、シャワーのようなスピードでスクロールされている。

「全艦の充填には3分ほどだな。両舷前方にバリアー展開!」

 俺が命じたときに、砲術長の天音が遅れて駆け込んできた。

「ごめん! ミカさんバリアーお願い!」

 天音は、濡れた髪のまま、いきなり船霊のミカさんに頼んだ。

「天音、冷静に。ボタンぐらい留めてからきなさいよ(#`_´#)!」

 樟葉に怒られる。

 天音は、ざっと体を拭いたあとにいきなり戦闘服を着て、第一第二ボタンが外れたままだった。俺とトシの視線が自然に天音の胸元に向く。さすがに、0・2秒で、天音はボタンを留めた。

 が、その0・2秒が命とりになった!

「敵、全艦光子砲発射。着弾まで15秒!」

「ミカさん、バリアー!」

「大丈夫、間に合うわ」

 ミカさんは冷静に言った。

「カウンター砲撃セット!」

 カウンター砲撃とは、三笠の隠し技で、敵の攻撃エネルギーを瞬時に三笠のエネルギー変換し、着弾と同時に、そのエネルギーの衝撃を和らげて、攻撃力に変えるという優れ技である。カタログスペック通りにいけば、三笠は無事で、敵は鏡に反射した光を受けるように、自分の攻撃のお返しを受けるはずだった。

「着弾まで2秒。対衝撃閃光防御!」

 クルーは、ゴーグルを下ろし、身を縮め持ち場の機器に掴まった。

 

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

 ウワアアアアアアアア!!

 震度7ぐらいの衝撃がきた!

 天音が急場に留めたボタンが、みんな弾け飛んだ。瞬間胸が露わになった天音だったが、余裕ぶって見ている余裕はなかった。

 三笠はシールドで受け止めたエネルギーの大半を攻撃力に変換。カウンター砲撃を行った。主砲、舷側砲から、毎秒100発の斉射で光子砲が放たれた。

 しかし、両舷で100万発を超える敵弾のエネルギーは変換しきれず。舷側をつたって、シールドの無い艦の後方に着弾し、いくらかの被害が出てしまった。


「敵、6万隻を撃破。シールドを張りながら撤退していきます」

「各部、被害報告!」

「推進機、機関共に異常無し!」

「主砲、舷側砲異常なし!」

「右舷ガンルームに被弾。隔壁閉鎖」

「……後部水タンクに被弾。残水10」
 
「天音、シャワー済ましといてよかったね。飲料用に一週間もつかどうかだよ……」

 樟葉が優しくフォローするが、責任感と癇癪の強い天音は唇を噛んでいる。

「ここらへんで、水を補給できる星はないかしら?」

 ウレシコワが、真っ直ぐにレイマ姫に声を掛けた。

「右舷の2パーセクさアクアリンドがあるじゃ……」

「「「「アクアリンド……」」」」

「んだ……覚悟が必要じゃ」

 アクアリンドは、表面の90%が水という星であったが、グリンヘルドもシュトルハーヘンも手を付けないだけの理由があったのだ……。


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠30[グリンヘルドの遭難船・3]

2023-02-19 09:34:34 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

30[グリンヘルドの遭難船・3] クレア  

 

 

 エネルギーを注いであげると、エルマは話を続けた。


「……グリンヘルドの人口は200億を超えて久しいのです」

 その一言は衝撃的だった。グリンヘルドもシュトルハーヘンも地球型の惑星で、大きさも大陸の面積も地球とほぼ変わらないことが分かっている。

 ……とすれば、惑星としてのキャパは80億ほどが限界で、惑星全体として手を打たなければならないのは容易に想像がつく。

「そこまで文明が発達しているのに、どうして人口の抑制を考えなかったんだ」

 修一艦長は当たり前な質問をした。

 わたしがボイジャーとして宇宙に出たころの地球は、まだ60憶ほど。現在は80億を目前に、人口の抑制を考え始め、その成果も出始めている。

「その文明の発達が災いなんです。増えた人口は他の惑星に移住させればいい。なまじ文明が進んでいるので、古くから、そう考えられてきました」

「それで、地球に目を付けたんですか」

 樟葉が冷静に聞いた。

「ええ、皮肉ですが、地球の『宇宙戦艦ヤマト』がヒントになってしまいました」


「ヤマトが?」


「あれを受信して、地球の存在を知ると同時に、グリンヘルドとシュトルハーヘンの連合軍なら、デスラーのようなミスはしないと確信しました。上手い具合に地球人はエコ利権から、地球温暖化を信じ、数十年後に迫った寒冷化に目が向いていません。放っておいても地球の人類は100年ももちません。ところが、わがグリンヘルドもシュトルハーヘンも、もはや人口爆発に耐えられないところまできてしまいました。だから前倒しで地球人類の滅亡に乗り出したんです。もう地球には数千人の工作員を送っています。地球温暖化を信じさせるために。わたしの役割は、地球移送のための航路を開くことでした」

「あの……エルマさんは、なんで、そんな機密事項を、あたしたちに教えてくれるんですか」

 樟葉は冷静だ、エルマの話の核心をついてきた。

「わたしたちの考え方は間違っていると思うようになってきたのです。温暖化を妄信している地球も救いがたい馬鹿ですが、他の惑星の人類を滅ぼして移住しようとするのは、もっと馬鹿です、間違っています。わたしたちは、科学的に思考を共有できるところまで文明が発達しています。でも、その思考共有は惑星間戦争の戦闘時の軍人にしか許されません。そして、知ったんです。テキサスとの戦闘で……」

 エルマの目が深い悲しみ色に変わった。

「いったい何を?」

「弟は、工作員として地球に送り込まれていました。温暖化のことだけに関わっていればいいはずなのに、あの子は関係のない戦争に参加して命を落としました。その情報が戦闘中の思考共有で伝わってきました。それまで、軍は弟の名でメールを送ってきていました。わたしが怪しまないために。その後暗黒星団の監視に回され、生命維持装置がもたなくなり、救難信号を発し続けましたが、グリンヘルドは無視しました」

「そこまで、グリンヘルドは無慈悲なのか……」

「グリンヘルドは、一本の大きな木なんです……そしてわたしは枯れかけた一枚の葉っぱ。枯れた葉は、そのまま散っていくのが定めです。木は、枯れ落ちていく葉っぱに愛情など持ちません。グリンヘルドの摂理です」

「そんなこと……」

「来るわ」

 不器用なわたしは、残ったもう一隻のロボット船に目を向けた。

「さような……」

 プシュ

 エルマがお別れの言葉を言い切る前に、ロボット船は一条のビームになってエルマの体を蒸発させた。直後、ロボット船は消えてなくなり、エルマの痕跡はシートに残った人型の窪み。それも、三人が驚いている数秒間で戻ってしまった。

「なんてことだ……」

 修一が呟いて、樟葉とトシは言葉も無かった。

 わたしには分かった。あのロボット船は、最後の力を振り絞ってエルマを弔ってやったんだ。

 きれいなままで残ったエルマをきれいなままで逝かせてやるために。

 わたしもボイジャーとして、ずっと宇宙を漂っていたから、機能を停止して……いわば死んだまま宇宙を漂うのは怖かったもの。

 でも、三人には話してやらない。時間をかけて、少しずつ分かっていけばいい。

 わたしは、記録と分析は得意だけども、お話するのは苦手だしね。

 

「監視船への照準完了」

「出力は50で」

「あんな船一隻なら10で十分だぞ」

 砲術長の天音が異を唱える。

「跡形も残したくないんだ」

「分かった、出力50……設定完了」


「テーッ!」

 

 三笠の光子砲は、エルマの船を完全に消滅させた。

 言わなくても、修一には通じるものがあったのかもしれない。

 


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠29[グリンヘルドの遭難船・2]

2023-02-18 08:34:35 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

29[グリンヘルドの遭難船・2] 樟葉  

 

 


 遭難船の女性クルーは衰弱死寸前だった。

 と言って、見たは目は健康な女性がうたた寝をしているようで、とてもそうは見えない。

―― 残った生命エネルギーを、外形の維持にだけ使っていたようです ――

 スキャンした彼女のデータを送るとクレアから答えがトシといっしょに返ってきた。

「なんで、トシが来てるんだよ?」

「クレアさんの意見で、三笠から携帯エネルギーコアを持ってきました。これを船の生命維持装置に取り付けて、この女の人を助けたらってことで。オレ、一応三笠のメカニックだから」

「でも、グリンヘルドの船の中なんて、初めてでしょ。トシにできるの?」

「フィフスの力で……うん、なんとかなりそう」

 トシは目をつぶって、調査船のメインCPとコンタクトをとり、船体の構造概念を知った。

「トシ、ツールも何にも無しで、CPとコンタクトできたのかよ!?」

 俺も樟葉も驚いた。

「ナンノ・ヨーダの訓練はダテじゃないみたいだよ。それぞれが持っていた能力を何十倍にもインフレーションにしてくれたみたい。とりあえず作業に入るよ」

 トシは、自分のバイクを修理するような手馴れた様子でエネルギーコアを船の生命維持装置に取り付け、グリンヘルド人に適合するように変換した。

 やがて、ただ一人の女性クルーは昼寝から目覚めたように、小さなあくび一つして覚醒した。

「おお、大したもんだな!」

「それもそうだけど、この人のリジェネ能力がすごいんだよ」

「まずは挨拶よ。えと、こんにちは、救難信号を受けてやってきました……」

「三笠のみなさんですね。助けていただいてありがとうございました。わたし、グリンヘルド調査船隊の司令のエルマ少佐です。もっとも、この船隊の人間は、わたし一人ですけど。あとの二隻はロボット船。あの二隻が救難信号を……あの二隻は、もう回復しないところまで、エネルギーを使い果たしたようです」

「ボクが直しましょうか?」

「もう無理です。アナライズしてもらえば分かりますけど、あの二隻は、もうガランドーです。すべての装置と機能をエネルギーに変換して、わたしの船を助けてくれたようです……ほら」

 片方のロボット艦は、最後の力を振り絞るようにブルっと震えると、陽に晒された氷細工のように霧消してしまった。もう一隻も昼間の月のように頼りなくなってきた。

「なんで、ここから外が見えてるんだ?」

「シールドが組成を維持できなくなって……質量比……1/100……負担の軽いアクリルみたいなのに変換したんだ」

 アナライズしながらトシが感動する。

 三笠から照射されるサーチビームが照明に変換され、船内は懐かし色に染まっていく。

 コチ コチ コチ……

「なんの音?」

「この船も崩壊が始まってるんです、せめてもの雰囲気……あなたがたのイメージに合わせて変換……合っているかしら……」

 ああ……!

 いっぺんにイメージが湧き上がった。

 これは、小学校の音楽で聴いた『おじいさんの時計』のイメージだ。

 悲しくって、でも暖かくって―― でも いまは もう 動かない おじいさんの時計 ――のところでは、樟葉は目に一杯涙を浮かべていたっけ。

「グリンヘルドは救援にこられなかったの?」

 指の背中で目を拭って、樟葉が聞く。

「わたしは、数億個の細胞の一つみたいなものだから、救難する労力を惜しんだみたいです……」

「つまり、切り捨てられた?」

「全体の機能維持のためにはね……それがグリンヘルド。さっそくだけど、お伝えしたいことがあります」

「もう少し、休んでからでも」

 トシがパラメーターを見ながら言った。

「見かけほど、わたしの機能は万全じゃないのです。いつ停止してもおかしくない。地球人の感覚で言えば、わたしは120歳くらいの生命力しかありません。時間を無駄にしたくないのです」

 三笠の三人は、エルマの意志を尊重した。

「……地球の人類は、あと百年ほどしか持ちません。地球の寒冷化は進んでいるのに、温暖化への対策しかしていません」

「ああ、温暖化は今や世界のエコ利権になっているからな」

「だから、あたしたちが、ピレウスに寒冷化防止装置を取りにいくところ」

「グリンヘルドもシュトルハーヘンも、寒冷化で人類の力が衰えて、抵抗力が無くなったところに植民するつもりなんです」

「だいたい、そんなところだろうと、オレたちも思ってる」

「グリンヘルドの実態を、三笠のみなさんに知っていただきたいのです」


 そう言うと、エルマの姿がバグったように、若い姿と老婆の姿にカットバックした。


「すみません、エネルギーコアを、もう少しだけ充填していただけないかしら。わたしの命は間もなく切れます。今の姿のまま逝きたいんです」

「なんなら、三笠の動力から直接エネルギーが充填できるようにしようか? 接舷すれば直接送れる」

「艦長、エルマさんの体は、もうそんな大量のエネルギーを受け付けられないところまで来てるよ」

「トシさんの言う通りです。あと少しお話しが出来ればいいんです」

「それなら、三笠のCPに情報を送ってもらった方が。少しでもエルマさんが助かる努力がしたいわ!」

 樟葉らしい前向きな意見だ。

「いいえ、情報はただの記号です。直に話すこと……人の言葉で伝えることが重要なんです……」

「トシ、急いで携帯のエネルギーコアを!」


「大丈夫、あたしが持ってきました」


 クレアが、携帯エネルギーコアを持って、調査船のブリッジに現れた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長 ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠28[グリンヘルドの遭難船・1]

2023-02-16 07:43:54 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

28[グリンヘルドの遭難船・1] 樟葉  

 

 


 ―― 国境の長いトンネルを過ぎると、雪国だった。宇宙の底が白くなった ――


 変なフレーズを口づさんで苦笑してしまった。


「なんだ?」


 艦長席の修一が目だけ向けて聞いてきた。

「ううん、こんな穏やかな宙域に出て、思わず出た感想。でも川端康成の借り物なんで、笑っちゃった」


「雪国か……おれ読んだことないよ」

「わたしは……」「ボクは……」「わっきゃ……」


 星団を抜けてホッとしたのか、わたしの独り言に応えてくれるんだけど、ほとんど同じ。

 元ボイジャーのクレアは、タイトルだけは知っていた。ボイジャーとして打ち上げられたときに、世界文学の中で、ただ一つ入っていた日本小説が、この『雪国』だったんだって。

「素敵な書き出しですね。雪国の前に『そこは』なんて、余計な言葉を入れてないところがいいですね」

「うん、模試で出た問題が、その『そこは』の有り無しの二択だった。たいていの人は『そこは』って無駄な言葉を付けて覚えてる。文章にぜい肉が付いちゃうし、直ぐ後に『夜の底』で同じ音が出てくるからありえない」

「すごいなあ、文学への愛を感じるぞ」

 天音が素直に感心した。

「修一よりはね。あたしんちブルジョアじゃないから、奨学金で進学すんだ。ある程度の成績でなきゃ奨学金取れないからね」

「オレんちも似たり寄ったりだけど、勉強はしてねえ」

「修一は、それでいい。あんまり先のことを心配してると、人生小さくまとまってしまうからな……」

「なんだか、妙に優しいんだな、樟葉」

「この宙域のせいかな……ピーススペースって、まんまだけど、ほんとに穏やかなとこだな、レイマ」

「ピレウスが付げだのよ。暗黒星団の者はめったに星団の外には出でいがね。出だっきゃ秘密の暗黒星雲でなぐなってまるはんでね。こぃがらの宙域は、みんなピレウス付げだ名前だよ……まだ、グリンヘルドもシュトルハーヘンも大人すくてあったごろのね」

 しばらく穏やかな沈黙が続いた。


 そう……暗黒星団を抜けると、ピースペ-スだったのさ。


 ウレシコワが自分で作ったサモワールで、お茶を配っているときに思わず呟いてしまった。

 その時、コスモレーダーに微かな反応。

「前方0・5パーセクに三隻のクルーザー……エネルギー反応微弱。遭難船の可能性大」

「ぼくも、捉えた。グリンヘルドの哨戒艦の様子」

 トシが、穏やかにつづけた。ナンノ・ヨーダの訓練の賜物か、みんな、普段の任務もテキパキこなせて、艦内生活も穏やかになってきた。

「レーダーを映像に切り替え、拡大」

「ラジャー」

 修一の指示で1000倍の映像にする。

 おお……

 グリンヘルドの三隻は立体としては全く無駄のない球体をしていた。

 なんだか作りかけの雪だるまが放置されているようにも見えた。

 解析すると、意外にも新鋭艦。二隻はロボット艦で、残り一隻に生命反応がある。

―― 危害は加えない。遭難しているのなら救助に向かう。乗船してよろしいか ――

 そう通信を送ると「救助を要請する」と穏やかな女性の声で返ってきた。


 グリンヘルドのクルーザーには、修一とわたしだけで乗り込む。ロボット艦への警戒も緩められないからだ。


 全き球体のどこに入り口があるのか戸惑ったけど、近づくと一点が仄かに光り、近づくと、円形に口が開いた。

 二重の隔壁を通ると、ホログラムの艦内案内図が点滅してブリッジへのルートを示してくれる。

 そして……。

 金魚鉢のようなブリッジに入るとシートをほとんど水平にして、女性のクルーは眠っているように見えた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠27[フィフスのクレージードリル(訓練)]

2023-02-15 06:27:13 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

27[フィフスのクレージードリル(訓練)]  

 

 


 最初は、単なるジャンケンだった。

 ロボットが相手だったが、スキルを人間程度に設定してあったので、まあ、十回勝負で六勝四敗というところだった。


「さあ、これが出発点だ」


 と、言われても、先が読めない。

「こんなので訓練になるのか?」

 天音が口を尖らせる。

 天音は父が職業自衛官だったので、横須賀の親類に引き取られるまで、父の転勤に付き合って何度も引っ越している。ゆく先々で頼れる者は自分一人「揉まれているうちに度胸も付いて勘も良くなった」と言っているが、俺は、持って生まれたものだと思う。


 ケンカや勝負ごとに勝った時に「天音の強さは生まれつきだもんな」と言って張り倒されたことがある。

「強いなんて言うなっ!」

 褒めたのに、なんでキレるんだ?


 後で樟葉が話してくれた。


「天音はね、自分が弱くて大人しい子だったら、お父さんはPKOなんかに行って死ぬことは無かったと思ってる」

「あ……」

「いくら自衛隊でも父子家庭の下士官を引っ張っていくことはしないよ。でもね、大変なPKO任務に志願して行ったお父さんは天音の誇りでもあるんだよ」

 高校生になって『二律背反』という言葉を習った。俺の『二律背反』は天音の顔をしている。

 そんなことを思い出したら、ミカさんの頬がポッと赤くなった。みかさんは、今の思い出をエネルギーに変換したんだ。三笠は俺たちの思い出をエネルギーにしている。

 そんなミカさんの足元に四匹の猫がすり寄って来る……こいつら、三笠のネコメイドたちだ(^_^;)。こいつらはミカさんからエネルギー貰ってんのか?

 ミャーー(^▽^)

「今のは人間と同じ設定だったので、君たちの実力がそのまま出ておる。今度はロボットのスキルをマックスに上げる。ロボットは、君たちの表情や息遣いからちょっとした変化まで解析してジャンケンをする。君たちは、そのロボットの解析を読んで対応してもらう」

 

 今度は完敗だった。

 

 ガルルルル

 天音が唸ってる。ほんとはただの勝負好きなのかもな(^_^;)

 振り向くと、ミカさんまで負けている。船霊のみかさんが勝てないのなら、仕方がないと俺たちは思った。

「はああ……だめじゃのう。これが戦闘なら、全滅じゃ」

 ナンノ・ヨーダは四等身の頭を振ってため息をついた。

「だって、ミカさんだって勝てないんだよ(>0<)」

 トシがプータレる。

「船霊は、クルーの能力に合わせて成長する。船霊とはそういうもんだ」

「テヘペロ(๑´ڡ`๑)」

 ミカさんはテヘペロで誤魔化す。ウレシコワは船を下りた船霊だったので、湯気を立てながらも寂しい顔をしている。クレアは、元々前世期のボイジャーだったので、CPの能力が追いついてこない様子だった。

「負けても仕方がないと思っとるじゃろ、しょせんジャンケンは運しだいじゃと。その負けても仕方がないでは、グリンヘルドにもシュトルハーヘンにも勝てん。今度はやり方を変える。参加するロボットを百万にまで増やす。そして、君たちを含め全員に百円を持ってもらう。二人一組で始め、勝った方が勝った者同士でまた一対一の勝負。簡単な計算じゃが、最後の勝者は一億円を手にすることになる。それでは、勝負じゃ!」

 ザワ

 百万のロボットが転送されると圧を感じる。ネコメイドたちは、どこかに消えてしまった。

「オーーーーシ!」

 天音は両の手の平を交差させて組んで覗き込むっちゅう伝統的準備姿勢!

 すると、ロボットの半分以上が真似をするが、関節のリミッターを超えてしまうのか、こんぐらがって取れなくなってしまう。

「おまえたちは、真似せんでいい!」

 ヨーダのこめかみがピクピク震える。

 真似しなかったロボットたちが直してやって、仕切り直し。


 最初はグー、ジャンケン、ポン!!


 百万と八人の声がダススターに轟いた。

 無邪気な欲と言うのは恐ろしいもので、数回繰り返しているうちに三笠組の八人が残るようになり、最後の勝者は俺一人になった。

「これで良い。無邪気な欲が勝利に繋がる。これが実戦なら、三笠の大勝利じゃ!」


 が、これで終わりではなかった。


 次に、レフトセーバーの使い方の訓練であった。レフトとは心臓が左側にあることからついた名前だ。
 人間は最後に心臓を守ろうとする。人と並ぶとき左側に人に立たれると、なんとなく落ち着かないことや、喫茶店、映画館のシートが左側から埋まっていくことなどにも現れているんだそうだ。樟葉は単に著作権の問題かと思ったが、ミカさんと目が合うと、ミカさんは、ただニッコリ笑みを返してきただけだ。


「よいか、やみくもにセ-バーを振り回しても勝てやせん。心の中にプレステのコントローラーを思い浮かべよ。そのコントローラーで操作するようにやれば、勝利は疑い無し。励め!」

「でも、なんでプレステのコントローラー? うちXボックスなんだけど」

「プレステはフォーまできておる。フィフスは、それを超えるものじゃからじゃ!」

「プレステは5(ファイブ)まで出てるんだけど」

 自分は持っていないくせに、トシが苦情を言う。

「ファイブは半導体不足で品薄じゃ!」

 ヨーダも負けてはいない(^_^;)

 ダジャレとこじつけみたいだったが、やってみると、なるほど上達が早かった。

 他にも、様々な訓練(ドリル)が課された。中には、ここで書けないような内容も含まれているが、それではつまらないので、その一端を紹介しよう。

 セックスアタックへの耐性訓練と言うのがある。バーチャルではあるが、絶世のイケメンと美少女の誘惑に勝つ訓練だ。三笠のクルーは、みんな高校生という多感な年ごろ、ウレシコワやクレアも入れ物としての体は少女だ。反応は人間と変わらない。

 詳述は省くが、この訓練がもっとも大変だった。三笠組は年頃であるということとラノベのキャラであるということで、この種の誘惑には弱かった。レイマ姫は過去に訓練を受けていた様子だった。で、この訓練が一番つらいことを知っていた様子であるが、この訓練のときだけ標準語になることが可笑しかった。

 かくして、ひと月にわたる訓練が終わり、各自のHPとMPが発表された。ゲームで言えば、初回最後のボス戦の時のような数値だった。

「これからは、実戦が訓練であると思って頑張りたまえ!」

 ナンノ・ヨーダは、そう締めくくった。クルーたちは、まるでチュートリアルを終えたばかりのゲーマーのように新鮮な闘志に燃えていた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠26[ダススターとヨーダ]

2023-02-14 09:23:07 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

26[ダススターとヨーダ]  

 

 

 一言で言って、クレーターの中は一見ガランドーだった。

 モニターで拡大すると、ガランドーの中には神経細胞のシナプスのようなものがあって、それぞれがニューロンのような突起を張り出している。突起の先にはゴミのようなものが付いているが、よく分からない。

 なんだ、あのシナプスとニューロンは?

「シナプスはベース(基地)、ニューロンは港の埠頭のようなものよ」

 クレアが冷静に解析してくれる

 ガチーーン

 誘導ビームは――しっかり掴まえたぞ――という感じの牽引ビームに切り替わって、速度は落ちたがレールに載っているような確かさで引っ張られていく。

 三笠は、アルファ星のど真ん中にある巨大シナプスのニューロンの一つに接岸した。

「おお、これは……」

「ニューロンの突起のように見えてたのは、全て戦闘艦や戦闘機だよ……!」

 ニューロンの埠頭を歩きながらトシが、感激の声を上げた。

「いったいどれだけの数なんだ……」

 演習で、レイマが言っていた数字がハッタリでないことがよく分かった。

 いつも、俺の喜怒哀楽に茶々を入れる天音も、それを程よくいなしてくれる樟葉も黙ったままだ。

 クレアは観察と演算のし過ぎで頭に放熱の陽炎が立っている。

 ウレシコワは数歩先の地面だけを見て歩いている。ソ連、ウクライナ、中国と流浪の半生だったので、余計なものは見ないという習慣がついているのかもしれない。

 これだけのベースと戦闘艦艇を持っていても、星として観察するとスカスカ。リアルの星の密度の凄さには及ばない。その星々を数光年、数十光年、数百光年の隔たりをもって、無限に抱えている宇宙というのは、泣きたくなるほどに広大なんだ。

 この旅が終わったら、俺は宗教の一つや二つは起こせるかもかもしれない。

 戦後、真珠湾攻撃体の飛行隊長だった淵田中佐は、戦後キリスト教の伝道者になったし、アポロ計画で月に行った宇宙飛行士の中にも宣教者になった者がいるという。


 埠頭の向こうに人が現れた。


 人型のロボットを二台連れている。ロボットは中学生ぐらいの背丈だが、人間の方は、それよりも低い、いや小さい。

「アルファ星にようこそ。姫には申し訳ありませんが、念のためダススターに寄ってもらいました。お許しを」

「やっぱり、わの考えだげでは頼りねようだね」

「畏れながら、10万機の飽和攻撃のシュミレーションで、船が大破、艦長戦死の結果では、暗黒星団からお出しするわけにはまいりません」

「ハー、やっぱり、あれやるんだが?」

「ベー卿も同意です、殿下」

 レイマ姫は、思い切り嫌な顔(⁎ꈍ﹃ก⁎)をした。

「このアルファ星は、通称ダススターと呼ばれておりましてな。暗黒星雲の中にあるベースの一つです。あなたがたには姫といっしょにフィフスの訓練を受けてもらいます。おお、わたしとしたことが自己紹介を忘れておりましたな」

「この爺っちゃは、暗黒星団一のジョーダンマスターだす。ジョーダンでしゃべっても冗談の通ずるふとでねはんで、そのづもりで」

 レイマが前フリをした。

「わたしは、地球で言えば大統領補佐官兼特殊部隊の指揮官と教官を兼ねたことをやっとります。名前はナンノ・ヨーダ。ナンノが苗字で、ヨーダが名前です」

「で……ナンノ先生、我々が受ける、そのフィフスの訓練とは、どういうものなんだろうか?」

 天音が恐る恐る聞いた。恐る恐るでもタメ口だけどな。ウレシコワは黙ってついてくる。大昔のソ連を擬人化したような沈黙だ。クレアは五感のスイッチを切ったのか、頭に陽炎をたてることもなく、外交的笑顔になり、トシは早くも疲れが出たのか背中が丸い。

 ミカさんは分身を同伴させてくれた。日本の神さまは便利で、分祀という形で、いくらでも分身がきいた。ミカさんは年季の入ったアルカイックスマイルだ。

 埠頭を過ぎると、管制塔のような建物の中に入った。

「このダススターには、君たちが考えているより一桁多い艦艇と作戦機がいる。きたるべきグリンヘルドとシュトルハーヘンとの戦いに備えてのことです」

「この暗黒星団は、グリンヘルドもシュトルハーヘンも敬遠してるんじゃないですか?」

「今の段階ではのう。しかし、将来は分からん。げんにこうして三笠の諸君が、ここにいる。君たちが来られるということは、敵がいつ来てもおかしくない……ですなレイマ姫」

「……んだの、ヨーダ」

 それから、三笠のクルーたちはフィフスの訓練に入った。なんでフィフスというのか不思議だったが、答えは簡単だった。

「フォース(4th)の上をいくものだからです」

「ああ、5th(五番目)」

 簡単に言えば第六感を磨き、その5thにふさわしい魔術を身につけることらしい。

 五番目で第六感……それなら、6th(シクスス)とか言えばいいのに。

―― ヨーダのジョーク ――と、レイマが囁く。

「第六感というのは、閃くもので、人の意思ではコントロールができません。意志によって、自由に操れるのがフィフスなのです。コントロールできる第六感、故に、その手前のフィフスというわけですな」

 えーーほんとかなあ(^_^;) なるほどぉ むむむ  反応はさまざま。

 で、その最初は、ナンノ・ヨーダが連れていた二台のロボットとジャンケンすることから始まった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠25[暗黒星団とど根性レイマ姫]

2023-02-13 07:24:40 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

25[暗黒星団とど根性レイマ姫]  

 

 


「ただ今の戦闘ぉ、三笠大破ぁ、航行不能ぉ。艦長と砲術長戦死だ~す( ´ ▽ ` )」

 可愛い顔で、レイマ姫は宣告した。


「今の設定ありえねーよ! 両舷から10万機の飽和攻撃なんて、攻撃側も味方の弾くらって、二割がたの損失は出てるっての! なあ、クレア!?」

 子どもみたいに拳を上げるトシ。

「あ、えと、10万機の戦闘機を、一度に管制して攻撃する能力は、わたしの知っている限り、ありえません」

「そりゃ、クレアさんは、元ボイジャーでぇ、相当の宇宙情報持ってらげども、全ででねわ。わんど暗黒星団観測すた限りは、グリンヘルドもシュトルハーヘンも、こぃぐらいの戦闘は普通にこなすだ」

「でも、同士討ちの二割に、三笠が撃破した分を入れれば6万機の喪失よ。部隊としては壊滅。次の作戦に差し支えるわ」

「そうだ。仮にあたしたちを撃破したとしても、他の国の艦隊がいるぞ。それに対する準備も……」

 樟葉も天音も自分の立場から反論する。

「でもさ、考えてみたら、そのありえないことでソ連は壊滅したんだよ。レーガンの際限もない軍備拡張に、ソ連はかなわなかった」

 ウレシコワはソ連時代の感覚でレイマの肩を持つ。

「なんど、日本人の末裔だべな。第二次大戦で、負げるど分がってながら、神風やったんだべな。あれ、アメリカは想定外であったって、恐れてながらも尊敬すてらってダースのお祖父ぢゃんも褒めぢゃーよ」

「あ、でも、俺たちは寒冷化防止装置を取りに行くんだから……」

「分がってらわ艦長。死んでまったっきゃなんにもなねものね。い、わーがしゃべりでのは、それぐらいの前向ぎな敢闘精神で取り組まねばぁ、腕は上がねっていうごどなのよ。見でけ、この数字!」

 レイマがクリックすると、モニターに数字が現れた。

 損失:485  損傷:2707  戦死搭乗員:3044

「え! いつの結果だったっけ!?」

 知らない数字らしく、クレアは真剣な顔でモニターを見上げる。

「こぃは、大東亜戦争で米軍が被ったB29の被害よ」

 喪失と損傷を合わせると3000機を超える。

「3192だ」

 天音が正確な数字を言う。さすが砲術長。

 もう一度クリックすると、2505という数字が出てきた。

 ?

「終戦までに製造されだったB29の数だよ」

「え、間違ってないか、撃墜撃破が生産機数よりも多いぞ」

「撃破されだのは修理すて、まだ使ったはんでね」

「それでも、3044人の戦死はけっこうな数字よね……」

 樟葉は、機体の被害よりも戦死者の数を気にして眉を顰める。

「なんどの先人は、困難な戦況の中で、こんきの成果上げであったのよ」

「で、でも、日本は負けちまったんだろ。そんなこと自慢にならねえよ」

 トシが口を尖らせる。

「そうがなあ、ニ十一世紀の今日までのスパンで考えだっきゃね。大東亜戦争って野球さ例えだっきゃ、せいぜい二回の裏。いまの繁栄やら世界がらの尊敬考えだっきゃ十分勝ってらど思うわよ」

 あ、なんか意表を突かれた感じがしたぞ。

「でも、何百光年も離れた暗黒星団が、そこまで地球の事を気にかけてるって、なんか……不思議」

「そう? だって、観察すてあったはんでごそ、こうやって出会えだ時さ、いっぱいお話がでぎるでね。ウクライナだって、自分の戦争さ必死の時さ、世界の穀物状況や日本の北方領土のごど気にかげでらでね(^▽^)」

「あ……」

 レイマは、ちゃんとウレシコワの、ウレシコワ自身でも揺れているアイデンテティーを踏まえて話しをくれている。こいつは、ただのギャップ萌えのお姫様ではないかもしれない。

「あはは、みんな熱心さ聞いでけるはんで、つい生意気しゃべってまったぁ(*ノωノ)。話戻すわね。ま、最初のエクササイズはグリンヘルドの攻撃だげで瞬殺さぃであったはんで、進歩ってば進歩じゃね。もう一回クレアさんとスミュレーションすなおすてけでみるはんで。天音砲術長もよろすくだ」

「お、おう、任しとけ!」


―― 可愛い顔して、あの子、わりとやるもんだねと…… ――


 俺の頭には、祖父ちゃんが歌っていた懐メロのイントロが、リフレインした。

「あ……!」

「どうかした、レイマ姫」

 トシが、急に立ちあがったレイマ姫に声を掛ける。CICに走りかけていた天音も、思わず振り返った。

「申す訳ね、わんつか寄り道すてもらえねだびょんか」

 こめかみを押えて、めちゃくちゃ可愛い顔でお願いするレイマは反則だ!

「じつはぁ……(-_-;)」


 レイマ姫は、暗黒星団の防衛軍があるアルファ星からサイコ通信が入ってきたと言って目を伏せた。


「艦長、申すわげねが、アルファ星さ寄ってもらえねだびょんか」

 納得はしたものの、あの厳しい演習が始まるのかとゲンナリしていたクルーたちは、レイマ姫の予定変更を歓迎した。


「見たところ、大きさも環境も月と変わりません。地表はクレーターが多くて、人工構造物は感知できません」

 クレアの観察だった。

「あの星のどこに、秘密基地があるんだ?」

「近づげば、分がるわ(ಠ_ಠ )」

 レイマ姫は、快活そうに、でも目は真剣……というより、厄介なことになるなという色をしていた。


「え……え、そんな!?」


 クレアが驚きの声を上げた。

「分がった?」

「容積のわりに質量が小さい、小さすぎです。たった今感知しました。たった今まで月と同じ数値だったのに……」

 三笠のアナライザーCPUは、あいかわらず月と変わらないデータを表示していた。

「10万キロさ近づぐど、クレアさんみだいな優秀なアナライザーには、分がってまるんだぁ。アルファ星は人工の星だびょん」

 デススターか!?


 周回軌道に乗ると、極に近いクレーターが開くのが分かった。

「「「「おお!」」」」

「構造物は、全て星の内部にあるのか……」

 俺たちは驚きの声を上げた。

 三笠は誘導ビームに従ってクレーターの中に入って行った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠24[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・2・レイマ姫]

2023-02-11 07:28:09 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

24[暗黒星雲 暗黒卿ダースべだ・1・レイマ姫]  

 

 

 東北弁とダースベーダー風の衣装は、とっても似つかわしくない。

「まえだおぢが目指すてらピレウス北極どするど、この三笠は、やっと福島あだりだ。というごどだげでもねんだが、言葉はやっぱ訛ってまる、ガースー」


 その間にもダースは、特有の籠ったような声で、荒い息遣いだ。


「訛ってても、貫録あるねぇ。下手に取り巻き連れてかっこつけてないとこなんか、シブいよ!」

 こういうことに関しては、トシは独特の感性で反応する。

「それはだな……ゲホンゲホン、ゼーゼー……」

「大丈夫、ダースさん?」

「なんでもね、歳なんだ。聞ぎぐるすくてすまね、ガースー」

 みかさんの質問に、ダースは年寄りくさく応えた。


「で、御用はなんなのかしら(`Д´)?」


 お誕生会に水を差されたウレシコワは、いささかカドがある。

「折り入って頼みがあるんだ。そえで、みんな集まってらどごろがいど思ってな、ガースー」

「断りもなく現れて、お願いって言われてもねえ」

 天音も、そっぽを向いた。

「まあ、聞くだけ聞いてみようや」

 俺は間に入った。年寄りイジメ的なのは嫌だからな。


「すまね艦長。この暗黒星団は宇宙の大田舎なんだ。ガースー、なんの因果か、星雲の外がらは中の様子は分がね。なんだが、とでづもね暗黒帝国があるみだいに思わぃでら。要は宇宙開闢以来、電波も光も外がらは通さね。ガースー、そえで、宇宙のみんなはおっかねものど思って、寄り付ぎもすね。グリンヘルドやシュトルハーヘンでさえも見向ぎもすね。おめんどが名付げだロンリネスなんて、星どすては一等地なんだぞ、ガースー」


「ひょっとして、暗黒星団の宣伝してこいとか?」

「いや、図々すいお願いなんだが、ガースー、ピレウスまで、一人同乗させではもらえねびょんか?」

「あ、帝国の皇帝とかならお断りだぜ! せっかく和気藹々とやってるとこに、えらそーなオッサンなんてごめんだからな」

「皇帝どがはいねじゃ。このダース、暗黒星雲の代表だ、ガースー」

「でも、そういうナリしてると、皇帝がいるように思うわ」

「そう思っでもらえるみでぐ、こったナリすてらんだ。なんか、もっと偉ぇ存在がいるみでぐ思うびょん、ガースー」

「……ああ」「なるほどね」

 クルーたちは、変に納得した。

「そえで、お願いどいうのは……ガースー……」

「わーがらしゃべるじゃ!」

 もう一人現れた。純白のローブが良く似合う、見るからに王女だった。

「あ、姫……」

「秘密ばらすてはまいねだ!(ダメです!)」

「最後の秘密は……ガースー」

「しゃべったも同然でねの」

「あのう……ひょっとしてお孫さんですか?」

 樟葉が、遠慮なく核心をついた。

「ほら、分がってまったでねの!」

「すまね。実は、このレイマ姫ピレウスさ連れでいっで欲すいのだ。ガースー、この三笠の遠征は一大叙事詩なるびょん。きっど宇宙のレガスーになるびょん。それに、うぢの王女さまが一緒であったどいうごどになるど、暗黒星団の名前も挙がる。ガースー、姑息な手段ど笑わぃるがもすれねがな。それえも、オラだぢは、王女さ、レイマ姫にかげでみるすかねのだ、ガースー」

「あの、レイア姫じゃないんですか?」

「うんにゃ、レイマ姫だ。著作権の問題だす」

「もう、違います。暗黒星雲の言葉で『希望』って意味があるんだ。ずっちゃ、卑下のすすぎだ」

 

 といういきさつで三笠のクルーが増えた。主だったポストは埋まっているので、レイマは主計長ということになった。

 だが、この見かけは宇宙一可愛く、喋らせると完全に東北弁のレイマ姫は、とんでもない力の持ち主だった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠23[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・1・ウレシコワの誕生日]

2023-02-10 09:27:08 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

23[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・1・ウレシコワの誕生日]      

 


 今日はヴァリヤーグ、つまりウレシコワの誕生日だ。

 数奇な運命をたどったヴァリヤーグは、ソ連の航空母艦として作られたが、建造費の不足から工事がストップ。その後ソ連の崩壊からウクライナの所管になるが、ウクライナは彼女を空母として完成させる気持ちも費用も無かった。


 持て余したウクライナ政府は、スクラップにするのももったいないので、売りに出すことにした。

 しかし建造途中の新古品空母として売り出したもので価格が高く。また、空母としては時代遅れであったっため買い手が付かず、中国海軍の息のかかったペーパーカンパニーがスクラップとして格安で購入。最初はカジノとして使われる予定だったが、中国は、これを本格的な空母として修復したが、エンジンが商船用のディーゼルしか間に合わず、空母としては必須要件の30ノットの発艦速度が20ノットしか出せず。艦載機は武装した重量では発艦ができないというお粗末さだった。


 世界は、彼女のことを「空母の実物大模型」と揶揄した。


 当の中国も、これをもって主力空母にするつもりは無い。「遼寧」と改名し、いかついガタイで東南アジアの国々に睨みをきかせ、空母としてのノウハウを手に入れるだけで充分であった。現に彼女のデータをもとに設計がしなおされ、山東と福建が建造された。

 妹二人は、中国の最新鋭空母としてやる気満々だったが、カジノになるつもりだった彼女は気持ちが乗らず、無理なワープで故障したのを機に船霊のウレシコワは三笠にやってきたのだ。

 しかし不調のウレシコワはロンリネスでは上陸もできず、三笠の居候になった気分であった。そんな彼女を慰めるために、ロンリネスを発ってから三日目に、クルーのみんなでお誕生会を開いた。

 

「お誕生日、おめでとう!」

 

 船霊のミカさんも神棚から出てきて、俺が乾杯の音頭をとってお誕生会が始まった。

「ありがとう、みんな。あたし、今日が自分の進水式の日だってこと忘れてた」

 泣き笑いの顔で、ヴァリヤーグの船霊ウレシコワは乾杯に応えた。

「1988年11月25日。君は立派に生まれたんだ」

「でも、船を離れちゃって、今は三笠の居候……」

「気にすることないわよ。あたしだって元はボイジャー1号だったけど、今はクレアとして三笠のクルーよ」

「そうよ、今を元気に生きていく気持ちがあれば十分よ!」

「ありがとう。ミカさんもみんなも懐が深くて、とても嬉しい」

「もう120年も船霊やってるからねぇ……わたしも、いろいろあったわ。原因不明の爆発で二度沈んじゃったし、記念艦になったあと、終戦直後にはダンスホールにされたり水族館にされたり。でも、いろいろあることが船霊にとっては勲章のようなものよ」

「そうだよ。オレたちのブンケンも解散直前だったし」

「部室だって、三笠に来る前に軽音にとられちゃったし」

「メンバーも、みんなワケ有だし」

「ミカさん、ひょっとして、宿無しばっか集めてるんじゃない?」

 樟葉が鋭い質問をして、みんなの視線がミカさんに集まった。

「理由は簡単よ」

 みんなの視線が、みかさんに集まった。

「元の乗組員は、本人はおろか、孫だって生きていないでしょ……」

「まあ、120歳だもんねぇ……」

 トシが気の毒そうに目を向ける。

「人に言われるとムカつくかも……」

「こら、謝れトシ」

「ご、ごめん(;'∀')」

「アハハ、冗談冗談(´∀`)。海自のOBや自衛艦の船霊さんたちにも声かけたんだけどね、わたしって天照大神でしょ。みんな敬遠するのよね」

「アマテラス時代のミカさん、見てみたいっす(^▽^)!」

 トシが授業のように手を挙げる。

「いや、いまさらお見せするような姿じゃないわよ(n*´ω`*n)」

「アマテラスの画像ならいっぱいあるぞ」

 懐からスマホを取り出す天音。

「スマホ出しても検索できないでしょ」

「保存したのがあるんだ……ほれ」

「「「「「「おお!」」」」」」

「な、なんか神々しい……」

 ウレシコワが感動する。

 天照大神の画像は大昔のから現代のアニメのまであるんだけど、どれも雲の上に乗っていたり、後光を放っていたり、たくさん神さまを従えていたりして神々しい。

「あの……この甲冑姿で怖い顔をなさっているのは?」
 
 ウレシコワは、言葉まで改めて質問する。

「ああ……弟のスサノオが高天原にやってきた時にね、スサノオって、めちゃくちゃ不良だったから……」

「あ、知ってます知ってます!」

「はい、樟葉くん!」

 樟葉が嬉しそうに手を挙げるのを指名してやる。

「天岩戸とかに籠ったりしたんですよね! それで『アマテラスは凄い! かっこいい! 畏れ多い!』ってことになって、最後は、スサノオの爪とか髭とか抜いて追放するんですよね!」

「そうだそうだ、これが、その時の画像だぞ!」

「「「「「「どれどれ(._.)」」」」」」

「おお、テリブル!」「姫騎士!」「女大魔神!」

「ああ、もう恥ずかしいからやめてえええええ(;`O´)o!」

「いやあ、ごめんごめん(^_^;)」

「でも、いまのミカさんは、なんでJK風なんすか?」

 少しだけ空気をもどして聞いてみる。

「あなたたちのせいですよ!」

「俺たちの?」「あたしたちの?」

「あなたたちブンケンの人たちは、小さいころから三笠で遊んでいたでしょ」

「え?」「あ」「ああ」「そういえば」

「小中学生は無料だし!」「高校生でも300円だし!」「お弁当も食べられたし!」

「でも、ミカさんなんて知らなかったよ」

「わたしは知ってたぞ」

「わたしも」

「トシは?」

「アハハ……」

「男子はバチあたりだぞ!」

「ウフフ、神さまっていうのはね、そうやって、みんなが集まって楽しくしてくれたらエネルギーが溜まるものなのよ」

「それで、JK風になっちゃった?」

「まあ、慣れると、とっても具合がいいしね、もう元には戻れないかも(^_^;)……あら、お二人はどうかなさった?」

 気が付くと、クレアもウレシコワも黙ってしまった。

「ウ……なんかいいよね、この雰囲気」

「うん、わたしなんか、太陽系出てからひとりぼっちだったし」

「三笠に出会えてよかった……」

「うんうん」

 ちょっとシンミリしてきた。

「なにしてるニャ!」「めでたい誕生日ニャ!」「楽しくやるニャ!」「乾杯するニャ!」

 ネコメイドたちに元気づけられ、グラスを持ち直したところで、そいつがメインモニターに現れた。


 ジャジャジャジャーーーーン


 黒い鎧兜に黒マント、どこかで見たことがある。


「お楽すみのどごろ申す訳ね。わっきゃ暗黒星雲、暗黒帝国のダースべだ!」

「ダースベーダー!?」

「いんにゃ、ダース……べだ」

 

 暗黒帝国との関わりが始まった……。

 


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠22[暗黒星団 惑星ろんりねす・2]

2023-02-09 08:51:03 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

22[暗黒星団 惑星ろんりねす・2]   

 

 

 予想はしていたがスカイツリーは無かった。

 公衆電話がやたらに多く、当然歩きスマホをしている人もいない。ただ、今はほとんど見かけなくなった歩きたばこはそこここに。
 よく見ると、自販機の飲み物が110円。車のデザインとかは良く分からないけど、シートベルトも無いし、なんとなく古臭い感じがした。

「ファッション古い……」

 天音が後部座席で呟いた。

 俺もトシもファッションには疎かったが、渋谷や原宿を通ってもガングロ茶髪にルーズソックスとか腰パンとかは、さすがに古く感じる。日本によく似た外国に来た感じだった。


「いやあ、よく来られましたね。東京を代表して歓迎しますよ」


 鈴木という知事さんだそうで、この人のことはよくわからない。

―― 石原さんの二代前の都知事 ――

 クレアが、三笠のCPに照会してくれたようで、レシーバーにクレアの声がした。

 俺たちには、石原さんより前の知事は、ほとんど歴史上の人物だ。鈴木さんは、見かけはとっつきにくい重役タイプだったが、進んでいろんな話をしてくれた。

 東京に、もう一度オリンピックを誘致したいことを強調していた。24年後に実現しますよ……と言ってみたかったが、なにか過去に干渉するようではばかられた。

 都庁で昼食をごちそうになり、展望台から下界の新宿を見ていた樟葉が耳もとで囁いた。

「街を行く人たち、なんだか変……」

「なにが……」

「5分間隔ぐらいで、同じパターンが……ほら、あの修学旅行の一団、さっきも通ったんだけどね……ほら、あの子またこけた」

「そうなの?」

―― みんな、この星はバーチャルだよ! ――

 クレアが、興奮して言ってきた。

―― 昨日から、この星の主だったことメモリーにしてるんだけどね、人工的なことは信号から人の動きまで、昨日といっしょ。よくできたバーチャルの3DCGみたいなもんだよ…… ――

「ほんとだ、いま飛んでったジェエット機、10分前と機体番号までいっしょだ」

 俺は大胆な行動に出た。

 給仕にきてくれた女の人のスカートを派手にまくってみた!

 なんと、太ももから上は、荒いポリゴンのようにカクカクしていて、真っ黒だった。別に黒いカクカクパンツを穿いているわけじゃない。太ももから上が存在しないのだ。

 そして、その女の人は、何事もなく、そのまま用事を済ますと行ってしまった。

「普通、叫ぶとかするよな……」

 三笠のクルーの疑問は決定的になった。

 そして、あたりの風景が急速にあやふやになり、数秒後には消えてしまった。

 星は荒涼として、荒れた大地が広がっているばかりだった。驚きとやっぱりという気持ちが一度にやってきた。

 三笠のクルーの前に、白いワンピースの少女が現れた。


「ごめんなさい。やっぱり分かってしまったようね」

 

 セミロングの髪を緩い風になぶらせながら詫びる少女。

―― この子はバーチャルじゃないわ ――

「そう、でも人間というわけでもないの」

 え?

「あ、わたしもクレアさんの声聞こえてるから」

 レシーバーもして無いのにクレアの声が聞こえてる。

 不思議に警戒心はおこらなかった。かわいい子だし、なんだか申し訳なさそうな顔してるし。

「あなたは……」

「こうちゃん」

 ちょっと微笑ましい。自分の名前にちゃん付けだ。

「おねえちゃんがいるんだけど、今はくたびれて寝てるから、わたしひとりでお礼を言いに来たの。
わざわざ立ち寄ってくれてありがとう。そして、十分なおもてなしもできなくてごめんなさい」

「そ、そんなことないよ(;'∀')」

 トシがワタワタと手を振る。

 ほんの一瞬だけど、こうちゃんの表情が、いや、顔が変わったような気がした。

―― この星に唯一の生命反応。さっきまであったのは、全てバーチャルよ。あ、裏側にも微弱な生命反応があるわ ――

「それはおねえちゃんです。わたしとおねえちゃんは、この星の星霊なんです。自分で言うのもなんだけど、できのいい星で、がんばれば地球のように生命が生まれていたわ」

 そうだろ、水と大気と適当な気温がある。荒れた半球はともかく、生命どころか人類文明が存在していても不思議じゃない。

「おねえちゃんと二人、いつも地球を見ていて『あんなふうになれたらいいね』と思って……でも、時々大災害とか大戦争とか起こるのを見て、それは、とても怖くって……それで、時どき地球の真似っこして遊んでいたんです……」

 なんだか、臆病な高校生みたいで、ちょっと親近感だ。

「でも、わたしたちが想うほど、地球の人たちはわたしたちには関心が無くて、ずっと見ていてくれたのは中国の天文学者の人だけです」

 ああ、安告正のことだな。

「あ、ああ、ごめんなさい。なんか愚痴っぽくなっちゃって(^_^;)。とにかく、立ち寄ってくれてありがとうございます! また、お帰りの時でも、よかったらお立ち寄りください(≧∇≦)!」

 ポン

 いっしゅん真っ赤な顔になったかと思うと、可愛い煙を残して消えてしまった。

 

 三笠に戻ると、クレアがネコメイドたちを助手にして、せわしなく星の解析をやっていた。


「99.999999%地球と同じ……」

「違いを解析……」 

 ミケメがエンターキーを押そうとしたら、ミカさんが現れた。

「止しましょう、あんなに恥ずかしがり屋さんなんだから」

「ああ、それがいいと思う」

 俺が声を掛けると、みんなビックリしたように振り返った。どこまで熱中してるんだ(^_^;)

「あら、お帰りなさい」「「「「お帰りなさいませ!」」」」

「わたしたち、お夕飯の用意をいたします!」

 ピュー

 ネコメイドたちは逃げるように行ってしまう。

「さっき、お礼を言ってた時、こうちゃんの顔が一瞬だけ妹の顔になったような気がした」

「そうか……」「そうなんだ……」「…………」
 
 天音と樟葉がしみじみし、ウレシコワは黙って微笑んだ。

「あ、星の表側からメール!」

 クレアがメインモニターを切り替えると、お袋が高校生の頃に書いていたような丸文字が現れた。

―― ありがとうございました、今度はお目にかかれればと思います。あん(こうちゃんの姉)――

 名前の由来に思い当たり、みんなでクスクス笑って三笠は発進した。


 みかさんは、星に『ろんりねす』と名付けてやった。

 


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠21[暗黒星団 惑星ろんりねす・1]

2023-02-08 08:47:47 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

21[暗黒星団 惑星ろんりねす・1]   

 

 


 暗黒星団とは、真っ黒、あるいは真っ暗な星団と言う意味ではない。

 前世紀末に発見されて以来、地球や地球の周回軌道にある電波望遠鏡で観察はされている。

 発見者は中国の安告正(アンコウチャン)。しかし、これといった発見や生命反応のある星が確認されたことが無い。安告正は真面目で清廉な学者であったので、観察に予断を交えることもなく、親が名付けた名前の通り、学会の中では正しきを告げる人で、学者としては不遇のうちに亡くなった。

 告正の死後、注目する学者も減って、面白みのない星団との評価が定着し、研究や観察を続けても宇宙物理学者としての名声が上がったり将来が明るくなる見通しが無いということで、いつしか発見者の安告正をもじって『暗黒星団』と呼ばれるようになった。

 逆に言うと、通り一遍の調査しかなされたことが無く『実際に行ってみれば、なにが飛び出してくるか分からない星団』と、SFやアニメの分野で想像力を逞しくする者もいたが、なんでも逆説やどんでん返しでしかストーリーを組み立てられない貧困クリエーターの戯言と揶揄された。

 まあ、宇宙戦艦ヤマトやガンダムでしか宇宙に飛び出せないリアルでは仕方のないことだがな。


「他の国の船は、この星団を迂回しています」

 アナライザーのクレアが、航跡の残像を検知して、そう言った。

「ここを通らなきゃ、他の船に追いつけないからな」

 みんなの覚悟を促すように腕を組む。皆は、無言をもって賛同の意を示してくれる。

 ピピピ

 受信のシグナルが鳴って、モニターにメッセージが浮かぶ。

 な、なんだこれは!?

 惑星ロンリネスから微弱ながら「歓迎」の信号が送られてきたのだ。

 ロンリネスの存在については、そのスケールと軌道は知れていたが、それ以外は影絵を見るように分からなかった。

 つまりはシルエットしか分からなくて、どうせ暗黒星団。生命反応はおろか、大気さえ無いだろうと決めつけていた不毛の惑星だ。

 星団の周囲には、いくつか宇宙船の航跡残滓が見られたが、全て、勢い余ってかすめた程度のもので、星団内部に入り込んだものは無かった。

 間もなく三笠は暗黒星団に突入。入り込むとレーダーもソナーも感度を取り戻し、クレアがせわしくアナライズし始める。

 調べてみると、自転速度は遅く、仮に地球方向から星団に突入しても荒涼とした月面のような半球しか見えていなかったことが分かった。

 世の中には、近づいてみなければ分からないことがある、ということを実感した。

「こんな面を隠していたのか!?」

「見えていなかった半分は地球型です」

「そんなことがあり得るのか?」

 ドリフターズかなにかのコントに、体の前はちゃんと服を着ているのに、後姿は丸裸というのがあった。惑星全体でコントをやっているのか、めっぽう恥ずかしがり屋の惑星なのか。

「地球の1/3程の生命反応があります。寄ってみます?」

 クレアが背中で尋ねる。

「儀礼的に一日だけ立ち寄るか」

「地球に似すぎているのが気になる……」

 ウレシコワ一人が慎重だったが、他のメンバーは、平均的日本人らしいというか、しょせん高校生というか、流れのままに招待を受けることにした。

 地球ソックリの半球は七割の海と三割の陸地でできていて、ちょうど恒星からの光を斜めに受けているせいか、ほんのり恥じらっているようにも見える。

 東西に大陸というか、月面めいた裏側の端っこが見えていて、中央の海には、地球のどこかにありそうな島々が浮かんでいる。

 その中の一つが、関東地方だけをデフォルメした日本列島のような形をしていて、東京湾を思わせるところから電波が発せられている。

 ピピピ ピピ ピピピピ

 寄港地はヨコスカを指定された。着水して近づくと、それは見れば見るほど横須賀に似ていた。

「懐かしいね、島のあそこだけが横須賀にそっくり」

「他の地域は?」

 樟葉が、当然のように聞いた。

「日本のような街が、あちこちに……ただ……」

 クレアの濁した言葉に全員が注目した。

「サーチの結果が出るのに、0・05秒タイムラグがあります」

「原因は?」

「弱いバリアーか……この星の磁場の影響か……三笠からでは確認できないわ」

「ま、とにかく存在するんだから寄るだけ寄ろう。天音、礼砲の用意だ!」

「了解」

 三笠は、21発の礼砲を撃ちながら、ヨコスカに入港した。

 港は横須賀にそっくりだった。港を出入りする船、アメリカ第七艦隊に自衛隊の横須賀基地。三笠公園にある三笠までそっくりだ。

 桟橋には、自衛隊とアメリカ海軍の音楽隊が軍艦マーチとアンカーアウェイの演奏で出迎えてくれた。

 市長、自衛隊、第七艦隊の挨拶を受けたあと、留守番にクレアを残して、全員が、横須賀ホテルに向かった。

「横須賀の街にそっくりなんですけど、ひょっとして、僕たちと同じ人間がいたりするんでしょうか?」

「さあ、どうでしょう。広い意味では地球とパラレルな世界ですが、なにもかもというわけではないと……まあ、ご自分の目で確かめてください」

 出迎えの市長は、にこやかな顔で応えた。

 望み薄だと思った。市長もミスヨコスカも自分たちの世界とは違う人物だったしな。

「ロシアの人は来ないんですか?」

 ウレシコワが淡い期待を込めて聞いた。

「あなたはロシアの方ですか?」

「今はウクライナになっていますが」

「それはそれは、さっそくロシア領事館にお知らせしておきます」

「お聞きになるならウクライナ大使館です」

「え、ああ……」

 市長が助役に耳打ちすると「早急に用意します」と返事するのが聞こえた。

 耳に掛けた骨伝導イヤホンから『ウクライナ大使館が出現しました』とクレアから連絡が入った。

 昼食会のあと、リムジンで、ヨコスカの街を見て回った。

「桜木町駅が昔のままよ……」

 樟葉が呟いた。

「まるで、『コクリコ坂』の時代だな」

 さすがにオリンピックのポスターなどは無かったが、あきらかに20年以上昔の横浜・横須賀の姿だった。

「あたし、自分ち見てくる!」

 天音がたまらなくなってリムジンを降りた。もし20年前のヨコスカなら中東で亡くなったお父さんが生きているだろうからな。


 学校の横を通ってもらった。古い校舎などはそのままで、十分自分たちの学校と言えたが、違和感を感じ、そのまま素通りした。

 ドブ板横丁は、昔の賑やかさがそのままで、アメセコの店などが繁盛していた。

「お父さんがいた……」

 ホテルに帰ると、天音が目を赤くして、ラウンジのソファーに掛けていた。

「会えたのか!?」

 意外だった。日本列島の形もいい加減だったしクリミア大使館も大慌てで用意したみたいだし、そこまでそっくりだとは思わなかったからだ。

「20年前のお父さんとお母さん。あたし知らないふりして道なんか聞いちゃった。娘だなんて言えないもんね……だって、あたしが生まれる前の時代っぽかったもの」

 樟葉も、ブンケンらしく、夕方までトシと二人でヨコスカの街を見て回った。

「ブンケンに残ってた資料そのままの横須賀だったわ」

「多分、20年遅れの地球と同じパラレルワールドじゃないっすかね!?」

 トシも喜んだ。

 三笠に残したクレアに交代しようかと連絡した。

「20年前なら、もう、あたしは打ち上げられていた。だからいいわよ」

 と答えが返ってきた。

 市長の提案で、あくる日はトウキョウに行ってみることになった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
  •  樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
  •  天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
  •  トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
  •  ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
  •  メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
  •  テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
  •  クレア         ボイジャーが擬人化したもの 
  •  ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする