小説学校時代 17
昇降口は学校で一番人の出入りが多いところです。
登下校時のみならず、体育の授業でグラウンドシューズに履き替えたり、学校によっては生徒の個人ロッカーを兼ねていて、授業の度毎に教科書や資料を取りにきたり。一日で、のべ数千人が出入りします。
当然、砂ぼこりやゴミが溜まりやすく、学校で一番汚れるのが早い場所になります。
私学では、生徒に掃除させるだけでなく、専門の清掃係を雇っていて重点的にきれいにしているところもありますが、たいていの公立高校では行き届きません。
そこで、下足ロッカー、特に個人用ロッカーと兼ねている場合、いろんなものが溜まります。
三年生が卒業するときには、期限を切ってロッカーの中を空けておくように指導しますが、行き届きません。
期限を三日ほど過ぎたころに、三年生担当の教師でロッカーの大清掃をやります。
鉄条網を切るような大きなカッターで南京錠を破壊して、ロッカーの中の残留物を全て放り出します。
残留物のトップは教科書のたぐいです。
毎年「教科書は自分で処分するように」と事前指導するのですが、ほとんど効果はありません。
ほとんどまっさらで、開いた形跡のないものもあります。実にもったいない。
もったいないので、教師はハイエナになります。
英語の辞書や国語便覧、社会の地図帳などは数十冊から百冊ほど持っていきます。辞書も便覧も地図帳も書店で買えば安くてもニ三千円はします。役に立つから持って帰れと指導するのですが、今はネットで必要な情報が必要な時必要なだけ取り出せるのですから説得力がありません。
重量数百キロの教科書・資料を廃棄します。昭和生まれのオッサンは、どうももったいなくて仕方がありませんでした。
ご禁制の品が出てくるのも毎年の事です。
たいていはタバコやライターの喫煙具。
三月末日までは籍があるので、厳密には指導の対象なのですが、卒業式が終わっているので、よっぽど法に触れるブツでない限り、そのまま処分します。
男子のロッカーからはアダルトなものが出て来たりしますが、ま、微笑ましいものです。
汗臭いまんまの体操服。数か月以上入れっぱなしというものもあって、強烈な臭気を発していたりします。
男子のロッカーから女子の水着が出てきたことや、避妊具が出てくることもありますが、かまわずにゴミ袋にぶち込みます。
ロッカーの鍵、たいていは南京錠ですが、チャチナものなので比較的簡単に開きます。中には鍵をぶら下げておくだけで施錠していないものもあります。だから、入っていたからと言って名義人のものだとは限りません。
時に、手紙やメモが残っていることもあります。
生徒は、授業中でも平気で手紙のやり取りをやりますが(携帯やスマホが普及しても廃れません)人に読まれたくない場合ロッカーに入れることがあります。また、もらった手紙やメモは不用意にゴミ箱には入れられない(前述しましたが、ゴミの不法投棄の場合中身を改めることがあります)ので、生徒なりに粗略には扱えずロッカーに入れっぱなし。
こういうものも読まずに処分します。
年度末の多忙な時期でもあり、関わり合ってはいられないというのが現実ではあります。
片づけたロッカーはどうするかと言うと、翌々日くらいに業者に来てもらって、全て廃棄になります。スチール製の立派なロッカーなので、もったいないのですがスクラップです。わたしたちのころは、何世代にもわたって使いまわしました。それも木製の粗末なもので靴以外はモノを入れるスペースなどはありませんでした。
空いたスペースには、新入生のロッカーが設置されて四月からの新学年に備えます。