大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校演劇・中村勘三郎さん逝く

2012-12-05 08:30:31 | エッセー
中村勘三郎さん逝く


 中村勘三郎と言っても、知らない人が多いかもしれない。

 藤山寛美……もっと分からない。渥美清なら知っているだろうか、フウテンの寅さん『男は辛いよ』の寅さん。その渥美清より年下だけど、今までに、演劇会に与えた影響や、これから与えるであろう影響の期待される役者であった。勘三郎さんも、その一人である。

 わたしは、今も、若い頃も、お金がなかったので、ライブで勘三郎さんを観たのは何本もない、その中で『四谷怪談』が衝撃的だった。『四谷怪談』と言えば、その名の通り怪談なんだけど、勘三郎さんの小岩さんは、上演中に観客席から笑いがおこる。拍手が絶えない。夫伊右衛門が、赤ん坊の蚊帳を質に入れるともっていこうとする。それにしがみつき「どうか、これだけは……」このシーンは、並の役者が演れば、ただただ小岩さんが可愛そうで、夫伊右衛門が憎々しくみえるだけなのだけど、このシーンで笑いがおこる。
 必死で蚊帳にしがみつく小岩さんがいささか重く、夫伊右衛門さんが少し大変なのである。「こんな演出があるのか」と驚いた。戸板返しや仏壇返しは、怖いんだけど、その見事さに拍手が起こる。

 また、ある芝居では、花道を来た馬が花道から落ちるという事故があった。裏方さんやらが懸命に馬を舞台に戻すのを、勘三郎さんは、本当に馬が畦道から田んぼに落っこち、一生懸命這い上がろうとしているのを見守るお百姓さんになり、やっと上がってきた馬に「アオよ、大丈夫だったかい?」と、アドリブをカマした。
なにがあろうが、役として反応する、その集中力と役へのナリキリ(ムツカシイ言葉では、役の典型化という)が見事だった。you tubeで、勘三郎さんの下駄のタップダンスをみたときもタマゲタ。あらゆる可能性を舞台で試した人である。創造への意欲と工夫、歌舞伎に限らず、他のエンターテイメントへの関心も強く、いろんなことを試してこられた。

 勘三郎さんが高校演劇の関係者なら、「演れるような既成の本がありません」等とはいわなかっただろう。やりたいこと、試したいことが一杯あった人で、既成の脚本でも、若い人にも分かりやすいように手を加えただろう。じっさい『四谷怪談』がそうだった。

 また、後輩の躾にも厳しい人で、息子の勘九郎、七之助さんが小さい頃、楽屋で化粧前の鏡にピースをしておどけたところを見て、張り倒した。二人の息子は、まだ幼稚園か、やっと小学校に入ったばかり。それでも「楽屋をなんだと思ってやがるんだ!!」と厳しい。
 今の、高校演劇の諸君はどうだろう。わたしは年に30本近く高校生の舞台を観るが、技量はともかく、そこまで打ち込んでいる姿を、ほとんど見かけない。変に高揚しているか、型となったストイックさが目に付く。
 先日の、大阪府高校演劇連盟の本選の幕間交流で、告白マガイのこと(笑)をやった高校生がいた。わたしは「なにチャラけとんねん」という思いだったが、発言はひかえた。昔なら「そんなことはプライベートでやってくれ!」と言われるか、無視される。そんな空気は微塵もなく、会場は暖かい空気に満ちた。調子づいた高校生が、それに続いて、告白まがい。なにかが間違っている。
 この二人が告白した芝居は、昨年の出来に比べ数段出来が悪かった。この告白二人組は去年の舞台も観ている。だったら、なぜ、そこを突かない、指摘しない。幕間交流は合コンではない。
 わたしの感想通りこの学校は昨年のような評価は得られず、選外であった。連盟は、高校生以外の発言を認めず。チョウチン質問ばかり。無意識のうちに誉め殺しをやっている。顧問の先生の多くも、この幕間交流の合コン化を、物わかりよさげに、微笑んで観ていた。何かが逆立ちしている。

 勘三郎さんの、真摯さと、貪欲な工夫が、今は必要だと思う。一度you tubeで中村勘三郎を検索して、その片鱗にでも触れることをお勧めするとともに、名優中村勘三郎さんのご冥福を祈ります。

 平成24年12月5日  大橋むつお
 
コメント
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