千早 零式勧請戦闘姫 2040
06『たこ焼きを食べながら』
「ねえ、なんでお寺さんになんかにお嫁に行くの?」
トレーのタコ焼きに爪楊枝をブッ刺しながら千早が聞く。
爪楊枝は真ん中の二個に刺す。境界線をハッキリさせるための姉妹のルールだ。それぞれ真ん中から手元に向かって食べて行けば、数に間違いがなく、無用のいさかいをしなくて済むのだ。
「う~ん……大阪はタコ焼きの本場だしね」
「ああ……でも、相手はお寺さんだよ」
「八幡さまと阿弥陀さまは同じものなんだよ」
「え?」
「むかしむかし、仏教が入ってくる前に仏さまは神さまの姿で日本人の前に姿を現された。大日如来が天照大御神、阿弥陀如来が八幡神とかね」
「ああ、神仏シュウゴウってやつ?」
中学で習った知識で対抗、意味はよく分かっていないが、四文字熟語で対抗する千早。
「紙に書いてみな」
「う、うん」
広告の裏に書いた字は『神仏集合』だ。姉は黙って『神仏習合』に書き換えて話しを続ける。
「神宮寺て言って、神社とお寺がいっしょだったり、神前読経とか言って、神さまにお経唱えたりしたんだ。明治の神仏分離令で別々になったんだけど、すぐに撤回されたし、日本人はみんな納得してるしね」
「そうなの?」
「そうだよぉ、お寺の檀家と神社の氏子足したら総人口の倍近いんだからね。両方かねて納得なんだよ」
「ふ~~ん」
「なにい、千早ぁ、お姉ちゃんが居なくなって寂しいとかあ~(`∀´)」
「ナイナイ(#`Д´#)!」
「股従姉の薬子さん憶えてる?」
「クスコ?」
「ほら、美中八幡の」
「ああ、お祖父ちゃんの実家」
祖父の介麻呂は美中八幡からの養子で、薬子は股従姉になるのだが、年が離れていることもあって、千早は記憶があいまいだ。
「薬子さんもお寺さんにお嫁に行ってるんだよ」
「え、そうなの?」
「うん、高校生の時にお邪魔したんだけど、薬子さんもお寺もいい感じでさ。ま、いい出物と思ったわけさ」
「ふーーん」
姉が簡単に言う時は往々にして――それ以上は聞くな――なので、千早は話題を変えた。
「ねえ、知ってる、うちの八幡さまってカミムスビノカミだって」
「うん、知ってるよ。境内の祠が、そもそもうちの神社の始まりで、その御祭神は神産巣日神でしょ」
「いや、それが……」
「神さまと仏さまがいっしょだったりするんだから、神さまがいっしょだっておかしくないでしょ」
「え、ああ……」
「さあて、お書入れが溜まってたんだ、やっつけてしまうか……」
「お札なら授与所にいっぱいあるよ」
「夏祭りの分よ」
「え、もう夏祭りぃ?」
「千早の字じゃ授与品にできないでしょ」
「ウ……」
「貞治とか見習って、少しは習字も稽古しときなさいよぉ。それに、そろそろ新学期でしょ、フラフラしてちゃだめだぞぉ」
「フラフラなんかしてないもん!」
それには応えずに、颯爽と社務所のバックヤードに向かう挿。
なんだか、一本とられたようで面白くなく、ドサっと座りなおすと自分の分のタコ焼きが三つ残っていた。
☆・主な登場人物
八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし) 千早の姉
八乙女介麻呂 千早の祖父
神産巣日神 カミムスビノカミ
来栖貞治(くるすじょーじ) 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里 日本で最年少の九尾市市長
天野太郎 明里の兄