大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・57『専務の頼みとSEN4・8』

2020-10-08 06:28:09 | 小説6

・57
『専務の頼みとSEN4・8    


 

 専務の頼みは二つだった。

 一つは、投げ銭の中から必要経費を除いた分の使い道だ。
「半分は将来に備えて貯金。あとの半分は福祉事業に寄付してもらいたい」というもので、全員文句なし。

 もう一つは「明日の日曜も頼む」というものだった。

 正直嬉しかった。が、土曜一日のことと思っていたので、走り切ったマラソンをもう一度という感じだ。

 安祐美は元来が幽霊なので、実体化の持続がむつかしく、ボーカルを交代することを条件にせざるを得なかった。
「なんで、幽霊なのにマッサージしなきゃいけないのよさ!」
 そう文句をいいながら、控室で安祐美の体をマッサージした。
「実体化って、とてもくたびれるの。例えて言えば、イルカが二日続けて陸上にいるようなものなの。無理してんのよ」
「安祐美マッサージしてると、なんだか……眠くなってくるね」
「あ、そういう時は交代して。このマッサージって、あんたたちの生気を少しいただいてるってことだから」
「えー! そいじゃ、あたし早く歳とっちゃうとか!?」
「ないない。ただぐったりして眠くなる。やりすぎると起きれなくなるから」
 で、由紀、みなみ、奈菜と交代しながら本番直前まで続けた。

「みなさーん、こんにちは! SEN4・8です! 今日も、こんなステージで初公演二日目が行えるなんて思ってもみませんでした!」

 MCまで引き受けたポナは、MCの喋り方まで安祐美に似ているので、自分でもびっくりした。どうもマッサージで、安祐美の癖まで移ってしまったようだ。
 昨日のステージは多くの人が動画サイトに投稿してくれたので、評判を呼び、今日は立ち見が出るほどの盛況ぶりだ。
 蟹江が、恥ずかしげも無く『SEN4・8 ポナ命!』と横断幕を張っているのは恥ずかしかった。
 前列には、みんなの家族が陣取っている。

 これでマスコミが取材にでも来てくれれば言うことないんだけど……と思ったけど、世の中、そこまでは甘くない。東京には、この程度の面白いことは、毎日掃いて捨てるほど起きている。

 今日は前半から客のノリがよく、ポナは、ついMCにも力が入りすぎた。ボーカルも、こんなにキツイとは思わなかった。

 コスも汗みずく。終わったらすぐにクリーニングだと思った。で、クリーニング代って必要経費になるのかなあ……などと冷静に考えている自分がいるから不思議だ。

 観客のコールは「エス!イー!エヌ! フォーティーーーーーエイト!」というのが多く、これで定着するんだと思った。

 アンコール込みで昨日より多い九曲を歌い終えてお開きになった。
「君たち、握手会だよ、握手会!」
 控室に戻ろうとしたら、専務に言われた。もう観客はAKBのノリである。
「ありがとうございます!」
「はい、元気です!」
「今度もよろしく!」
「ブログやりますんで、よろしく!」
「すみません冷え性なもんで(笑)」
 最後のは幽霊の安祐美。
 1/4程の観客が、ポナとの握手を求めた。やっぱ、MCとボーカルをやったことが大きい。

「新子、がんばってね!」

 新子と呼ぶ人も何人かいたが、一人の女性だけニュアンスが違った。思わず気を入れて見たが、もう後姿だった。
「おい、ポナ!」
 ムッとして振り返るとチイニイが手を出して突っ立っている。
「もう、みなみのとこに行くべきでしょ!」
「もう、行った。がんばってぇポナ!!」
 チイニイがオネエっぽく言うので、怒りながらもおかしくてならない。

 さっきの女の人、何だろう……頭から離れないポナだった。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母


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