ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第93話《さつき今日この頃・1》さつき 
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アッと思ったら、手のスマホが無くなっていた。
目の前電柱一本分先を走っているカットソーとジーンズの女の子が犯人だということに理解が及ぶのに数秒かかった。
「スマホドロボー(*>д<) !」
叫ぶのに、さらに二秒かかった。
犯人はとっくに、豪徳寺の高架を抜けて右に曲がって姿が見えなくなっていた。これは、もう駄目だろうという諦めが湧いてきた。
え!?
と、思ったら、高架の右側から犯人が左側に駆け抜けていった。
「ド、ド、ドロボー(*>▢<)!!」
あたしは改めて叫んで追いかけた。
なんといっても豪徳寺は地元だ、姿さえ見えていたら、路地裏の奥まで追いかけられる。
と思って走っていると、自転車に乗った北側署の香取巡査が自転車で追いかけていた。
と、思ったら、高架の右側から犯人が左側に駆け抜けていった。
「ド、ド、ドロボー(*>▢<)!!」
あたしは改めて叫んで追いかけた。
なんといっても豪徳寺は地元だ、姿さえ見えていたら、路地裏の奥まで追いかけられる。
と思って走っていると、自転車に乗った北側署の香取巡査が自転車で追いかけていた。
「一応窃盗だからね」
香取巡査が、取調室で、あたしと犯人の両方に言った。スマホドロボーは、なんと、あたしと同じ東都大の留学生だった!
「周恩華さん、前は無いみたいだけど、単に検挙されてないだけで、初めてだったって言い訳は通用しないよ。さつきさん、どこも怪我してません? ひっかき傷でもしてたら強盗致傷になるからね」
香取巡査は、冷たい麦茶を置きながら首筋の汗を拭いた。使ったタオルハンカチは、その横で調書を取っている女性警官のものらしく嫌な顔をしている。
「怪我はしていません。スマホが戻ったら、あたしはいいんです」
周恩華という同学の留学生は、固く口をつぐんだまま机の上を見ている。覚悟はしているようだった。
「周恩華さん、前は無いみたいだけど、単に検挙されてないだけで、初めてだったって言い訳は通用しないよ。さつきさん、どこも怪我してません? ひっかき傷でもしてたら強盗致傷になるからね」
香取巡査は、冷たい麦茶を置きながら首筋の汗を拭いた。使ったタオルハンカチは、その横で調書を取っている女性警官のものらしく嫌な顔をしている。
「怪我はしていません。スマホが戻ったら、あたしはいいんです」
周恩華という同学の留学生は、固く口をつぐんだまま机の上を見ている。覚悟はしているようだった。
あたしは、この周さんは、本当に初めて、あるいは手馴れていないのだと思った。慣れていたら、こんな豪徳寺みたいなローカルなところじゃやらないだろう。
でも、なんで豪徳寺なんかに来たんだろうって、疑問は残った。
「なんで豪徳寺なんかに来たの? あなたの寮は大学の近所でしょう?」
「……佐倉惣一の家が知りたかった、さつきのスマホ見たら惣一の住所分かる」
「兄貴の住所?」
「そうよ、佐倉惣一は佐世保沖海戦の英雄だから、どこの高級住宅に引っ越したのかと思って」
「え……?」
「どこよ、成城? 軽井沢? ひょっとして、特別に赤坂御料地の中とか?」
「なに言ってんの?」
「だって、英雄でしょ? 海戦の立役者でしょ? だったら、政府からの特別待遇で、どこかの高級住宅街で、セレブな家に越してるんでしょ?」
「えと……海上勤務で、あんまり帰ってこないけど、一応、うちが現住所なんだけど」
「う、うそ!?」
「いや、ほんと」
「ええー! だったら、さつきの後、付けていくだけで済んだあ!?」
「きみねえ、反省してない! 反省してないし、挑戦的だし」
でも、なんで豪徳寺なんかに来たんだろうって、疑問は残った。
「なんで豪徳寺なんかに来たの? あなたの寮は大学の近所でしょう?」
「……佐倉惣一の家が知りたかった、さつきのスマホ見たら惣一の住所分かる」
「兄貴の住所?」
「そうよ、佐倉惣一は佐世保沖海戦の英雄だから、どこの高級住宅に引っ越したのかと思って」
「え……?」
「どこよ、成城? 軽井沢? ひょっとして、特別に赤坂御料地の中とか?」
「なに言ってんの?」
「だって、英雄でしょ? 海戦の立役者でしょ? だったら、政府からの特別待遇で、どこかの高級住宅街で、セレブな家に越してるんでしょ?」
「えと……海上勤務で、あんまり帰ってこないけど、一応、うちが現住所なんだけど」
「う、うそ!?」
「いや、ほんと」
「ええー! だったら、さつきの後、付けていくだけで済んだあ!?」
「きみねえ、反省してない! 反省してないし、挑戦的だし」
香取巡査は、再び汗を拭いた。
「あたし、被害届出しません」
「出しなさいよ。そんなことで恩にきたりしないから。麦茶、もう一杯、お巡りさん」
「可愛くないなあ……」
そう言いながらも、お茶を淹れにいくところが、香取巡査のいいところだろう。
「あたし、被害届出しません」
「出しなさいよ。そんなことで恩にきたりしないから。麦茶、もう一杯、お巡りさん」
「可愛くないなあ……」
そう言いながらも、お茶を淹れにいくところが、香取巡査のいいところだろう。
ドン
「はい、どうぞ。でもね、なんで佐倉さんのお兄さんを?」
あたしも、それには興味があった。
「佐倉惣一は、たかやすの乗り組み士官。それに『MAMORI』の記事で、佐世保沖の大虐殺の正当化をやってる!」
「そんな言い方やめてくれる。あれはC国の軍艦がドローン船を発進させたから」
「嘘! ドロ-ン船なんかじゃない! あの漁船には人が乗っていた!」
「いや、最初はそう言われてたけど、自衛官の人が乗りこんでビデオに撮ってネットで流してたじゃない。マネキンだったよぉ」
「はい、どうぞ。でもね、なんで佐倉さんのお兄さんを?」
あたしも、それには興味があった。
「佐倉惣一は、たかやすの乗り組み士官。それに『MAMORI』の記事で、佐世保沖の大虐殺の正当化をやってる!」
「そんな言い方やめてくれる。あれはC国の軍艦がドローン船を発進させたから」
「嘘! ドロ-ン船なんかじゃない! あの漁船には人が乗っていた!」
「いや、最初はそう言われてたけど、自衛官の人が乗りこんでビデオに撮ってネットで流してたじゃない。マネキンだったよぉ」
「ああ、あれ流した三等海曹、懲戒免職になったんですよね」
調書をとっている婦警さんが顔を上げて付け加えた。
「嘘! あれはフェイクだ! フェイクでなくても、別の船だ! 撃沈されたのには人が乗ってた!」
「周さん……」
「アハハ」
さすがに香取巡査も笑ってしまった。
「笑うな! あの漁船で燃えていたのは、わたしの兄さんなんだから!」
「「「え?」」」
「実家に警察から連絡があった『あんたの息子は漁船に乗ってて、日本の軍艦に撃たれて爆発して死んだ』って」
「そんなバカなぁ!」
「なにが馬鹿よ! 政府は気の毒に思って弔慰金までくれたんだから! その弔慰金、うちのお母さん、ぜんぶわたしの口座に入れてくれて、それで、今年も留学続けられて……でも、お兄さんの命の代償で留学続けられても、嬉しくないよぉ……」
そこまで言うと、周さんは机に突っ伏して泣きじゃくった。
ああ……これ、どうしたらいいんだ(-_-;)?
ああ……これ、どうしたらいいんだ(-_-;)?
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員
- 孫大人(孫文章) 忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
- 孫文桜 孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる