大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・14『忍冬十五代目』

2022-07-22 09:34:53 | 小説3

くノ一その一今のうち

14『忍冬十五代目』 

 

 

 う~~~~ん

 

『吠えよ剣!』の仕事から帰って来ると、金持ちさんが唸っている。

 チラ見すると、パソコンの画面がチラついたかと思うとツアー旅行のあれこれが出ている。

「あ、見られちゃった(^_^;)?」

「旅行でもいくんですか?」

「あ、まあね、三十路の独身女、たまの旅行くらいしか楽しみないからね」

「わたしも、はやく就職して、そういうの悩んでみたいです」

「アハハハ」

 

 それで、仕事の報告をしようと社長室にいくと、また回覧板を頼まれた。

 

「すまんな、金持ちから『仕事してくれ』って、外出禁止なんだ」

 見ると、机の上には書類や手紙がいっぱい。

 まあ、社長が忙しくって経理がツアー旅行の情報をググっているのは、会社が順調で平和な証拠。

「了解!」

 元気よく返事して忍冬堂へ。

 

「順調なもんかい……」

 回覧板に目を落としながら忍冬堂は不穏なことを言う。

「なんかあるんですか?」

「チラ見したら、パソコンの画面がチラついたんだろ?」

「はい、で、ツアー旅行のアレコレがダダ―って出ていて」

「そりゃ、瞬間で画面を切り替えたのさ。キーボードの左上はエスケープ」

「え、そうなんですか!?」

 ズズズズ

 渋茶をすすると、しみじみとした口調で忍冬堂が続ける。

「おまいさんが近づいてきたのにも気づかないくらい、金持ちは仕事に集中していたのさ」

「そうなんですか!?」

「社長は、仕事をためて外出禁止なんだろ」

「はい、だから、あたしが回覧板……」

「左前なんだろなあ……」

「左前って……経営が苦しいってことですか?」

「ちょっと前に、鈴木まあやのスタントやっただろ」

「あ、うん、はい」

 あれから、まあやの専属みたいになって、あたし的にはけっこう忙しい。

「スタントてえのは畑が違う。その後も、おまいさんが専属みたいにやってるから、他の仕事を干されてるんだ」

「え、事務所がですか!?」

「事務所のだれかが言ってなかったかい?」

「あ……」

 こういうのって、縄張りがあってね……

 そうだ、最初に話があった時、金持ちさんが言ってた。

 でも、その後も、あたし的には仕事が続いているんで気にもしていなかった。

「まあやは特別だからな、まあやが気に入ってしまった以上、おまいさんを外すわけにはいかねえ……で、おまいさん以外の仕事で意趣返しってわけさね」

「え、そんな……(;'∀')」

「おっと、おまいさんが苦に病むことじゃねえ。風魔そのは立派にやったんだからな……おーい、婆さん!」

「はい、ちょうど用意もできたとこですよ」

「あれ?」

 忍冬堂のおばちゃんは、リクルートみたいなカッチリしたスーツで現れた。

「さすがは、忍冬の嫁だ。ちーっと早いが、御大にナシをつけてきてくれ」

「承知」

 小さく応えると、おばちゃんは外に出て、ちょうどやってきたタクシーに乗って出かけて行った。

「おばちゃん、どこへ……」

 振り返ると、忍冬堂は固定電話の受話器を取って話している。

「おう、というわけだから、百地、おまいも腹くくりな。おうよ、伊達に忍冬十五代目を張っちゃいねえぜ……いつかは動かさなきゃならねえ山なんだからよ」

 え、なに?

 胸のあたりが、ポッと暖かくなる。

 なに感動してんだろう……と、思ったら、胸ポケットにいれていた風魔の魔石が熱くなっていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋

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