巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
二時間目が終わると階段を下りて、今日二度目、校長室の前を通る。
『……まだ予断を許しません、発表は控えておきましょう』
『そうだなぁ、元々お通夜も葬儀も断っておられたからなあ』
ビンゴ、例の件だ!
校長室は事務室の隣なので、掲示板を見るふりをして盗み聞き。
魔法少女の能力で、壁一枚向こうの会話なんて楽勝で聞ける。神経を集中したら中の様子を見ることだってできる。あんまり品のいいスキルじゃないからめったに使わないけど、今回は特別だ。
教頭先生と校長先生が佐伯さんの件で話をしてる。
御神楽さんが裏技とか奥の手を使って、黄泉の国に足を踏み入れる寸前の佐伯さんを引き戻したのが一昨日。ご両親からは、その日のうちに「葬儀はやらないことになりました」と連絡があったみたい。
生き返りはしたけど、まだ医学的には大丈夫とは言えないので、そういう言い回しになったんだ。
『しかし、長時間心臓も脳波も停まっていたんだ、元通りになるかどうか……おそらくは植物人間なんだろうねえ』
『いや、戦地ではこういう状態で生還する例がありましたよ、校長』
『そうか、僕は内地で終戦だったからなあ……あ、それと、生徒会から申し入れのあった件だけど』
『それは、やっぱり運営委員会を経て職員会議にかけませんと』
『とりあえず、暫定的にやってみるというのは、ダメかな?』
『なし崩しの管理強化ととられますよ、うちは組合が強いですから』
『そうか、まっとうな提案だと思うんだけどねえ……』
学校というのはまどろっこしいなあ……と思うと、壁を通して教頭先生が予定表の黒板に向かっているのが見えてきた。
『同感です……ええと、今月は、ああ、修学旅行がありますから、月末になりますねえ』
あ、そうだ、文化祭やら佐伯さんのことやらですっとんでたけど、修学旅行があったんだ!
二つ同時にものを考えるのは苦手だけど、これは、両方ともゆるがせにはできないよ。
ええと……でも、とりあえずは佐伯さんのことだ。
いや、神さまでも魔導士でもないから治癒魔法なんか使えないけど、例の朝礼と終礼、放っておくと12月まで放っておかれるよ。
よし!
拳を握ると、わたしは一段飛ばしで階段を上がって教室に向かった。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- 妖・魔物 アキラ
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人