ポナの季節・53
『ユニットの衣装……②』
ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名
珍しく大ネエの優奈から電話があった。
――ヘブンリーアーティストおめでとう。ところでコスとかどうすんの?――
ポナの苦境を知ったような第一声だった。
「ネットオークションなんか考えてたんだけど、みんな高くて手が出ない」
――あたしの手許に五着のお揃いがあるんだけど、どうだろ、使えないかな?――
「え、どうして大ネエが?」
――ちょっとワケ有なんだけど、明日非番だから、持っていくね――
なんで女性警官の大ネエが、そんなものを持っているか不思議だったけど、まあ、当てにしないで待ってみることにした。サイズやデザインとかの問題があるので、学校では由紀にも奈菜にも言わなかった。幽霊の安祐美には分かりそうなものだったが、吉岡先生の演劇同好会の稽古に付き合っている間にコスのことは、頭から飛んでいた。
一つは台本の『クララ ハイジを待ちながら』がよく出来ていて、あてがわれたシャルロッテという役がめちゃくちゃ面白かったこと。
もう一つはYouTubeで、数年前に上演した学校の『クララ』を観て、感動したり、あたしならこうする、ああするなどと思っていたからで、要するに、二つも大事なことを心に置いておけないポナの性格によるところが大きい。
「これなんだけど……」
家に帰ると、大ネエが帰って来ていて、リビングで、とりあえずの一着を広げて見せた。
「ウワー!」
デザインだけで、ポナは気にいってしまった。赤地に黒のチェック柄で、七分袖の袖口とスカートの裾が、少し「パンクかわいい」という感じにトゲトゲしていて、赤と黒の混ざったパニエもよく映えている。
「どう、気に入った?」
「うん、レプリカなんかと違って、とっても良くできてる。デザインはチョー感動」
「ちょっと着てみなよ」
「うん!」
その場で着替え始めたので、両親には怒られたが、チイニイは喜んで妹の生着替えを観察した。
「ポナって男みたいな着替え方するんだな。乃木坂の子は、もっと肌を隠しながら着替えてんぞ」
「やだ、孝史ニイチャン、そんなとこ見てんの。写メなんか撮ってないでしょうね、元警察官なんだから、変なことしないでよね」
大ネエが変態を見るような目でチイニイを咎める。
着替えてみるとピッタリだった。
「ポナにも衣裳だな!」
「ほんと、それでヘアーとかメイクとかしたら、ビジュアル的にはアイドルよ!」
「そりゃあ、あたし準ミス世田女だもん、それに……」
蟹江大輔のことが一瞬頭によぎったが「お前じゃない!」と頭から締め出す。
そして、不思議なことに他の四人も蟹江が見抜いたサイズにピッタリだった。
「すごい偶然だね。こんなタイトなコスなのに、全員分ピッタリだなんて!」
「そのへんは……ちょっと話しておきたいことがあるんだ」
大ネエが神妙な顔つきになった。
ポナの周辺の人たち
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生 美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智 父の演劇部の部長
蟹江大輔 ポナに好意を寄せる修学院高校の生徒