大橋むつおのブログ

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)132・正直苦手なのよ

2024-08-26 09:18:48 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
132・正直苦手なのよ 朝倉美乃梨 





 宿泊を伴う部活には顧問の付き添いが原則なのよ。

 宿泊と言っても、商店街の福引に当って大阪府内の温泉に一泊。

 やかましく『原則』を振り回さなくてもいいと思うんだけど、職員室に来て報告されたんじゃ「あ、そう」というわけにはいかないわよ。

 まして、参加メンバーの中には車いすの沢村千歳がいる。

 温泉というからには入浴するんだろうから介助が必要でしょう。

 惣堀高校はバリアフリーのモデル校。

 つまり、身障者の教育環境には大阪でいちばん気を配ってますって学校。

 その惣堀の演劇部が部員揃って宿泊する。それに顧問が付き添わないのはまずいでしょ。

 反射的に言ってしまった「……下見に行く」と。

「しゃくし定規にやらんでもええですよ」

 横の席のB先生は松井さんが出ていくのを待って言ってくれた。

「個人旅行なんだから、関与しなくても。ね」

 前の席のM先生も目配せしてくれる。

 でもね、聞こえてるはずの教頭先生は無言。

 無言と言うのは、なにか起こった時には「教頭としては承知していません」と言い逃れるためで、そう言う時には、聞いていながら手を打たなかった顧問の責任になるんだ。

 ああ、知らせになんか来ないで、勝手に行ってくれればよかったのにぃ。

 煮え切らない気持ちのまま仕事を終えて駅に向かう。

 ホームに降りると、ギョッとした。

 松井さんが待っているではないか!?

「あら、いま帰り?」

 まるで同僚に話しかける口調。

 松井須磨は三年生の生徒なんだけど、わたしの同級生でもある(-_-;)。

 最初は気づかなかった。

 向こうから挨拶されたときは心臓が停まるかと思った。

 本人には悪いけど『化け物か!?』と慄いたわよ。

 風のうわさで松井さんが留年したとは聞いていたけど、ふつう女子が留年したら退学する。だから、とっくに退学して別の人生を歩んでいると思っていた。その後も留年を繰り返して、わたしが新任教師として赴任して出くわすとは思わなかった。

 これだけでもとんでもないことなのに、何の因果か、松井さんが所属する演劇部の顧問になってしまった。

 正直苦手なのよ、松井さんは(-_-;)。

 彼女が元同級生だと分かって、図書室の卒アルとかで確認したら、なんと一年生の時も同級だった。松井さんは最初から気づいていたようだけど、メチャ恥ずかしい機会で分かるまで一言も言わなかった。

 だから、ホームで出くわして「あ、今から下見」とか、みっともなく言って、帰宅するのとは逆方向の八尾南行きの電車に乗ってしまった(;^_^A

 いまさら、谷九で乗り換えて家に帰るわけにもいかないでしょ。

 だから、そうなんだ。

 わたしは生徒の為に下見をしに行くんだ。そうなんだ、そう決めていたんだ!

「すみません、惣堀高校の朝倉と申しますが、今夜一泊でお願いできるでしょうか……はい、今度お世話になる生徒たちの、はい、下見のためです(''◇'')!」

 谷九を過ぎて、南河内温泉に電話をいれるわたしだった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 

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