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上戸彩婦警が不機嫌な顔で、空気の抜けた人形のようなものを担いで帰ってきた……。
「またですよ、今度で三回目……」
上戸彩婦警は、その抜け殻人形をソファーに投げ出した。
「困ったものね、矢頭萌にも」
その名前にピンときて、人形の顔を見た。
「これ、AKRのモエチン?」
「そうよ、あの窪みに引っかかってから、妙なこと覚えちゃって、時々脱皮しては遊んでるの」
「脱皮……!?」
「一度もとの世界に戻ったんだけどね。今度は、わざと躓いて、こっちに来るの。で、こんなテクニック覚えて」
「脱皮が?」
「うん。脱皮しては、自分と体型が似た子に取り憑いて、あっちの世界で遊んでんの。あんまりやると元に戻れなくなるって、注意したんだけどね」
「こりゃ、あと二回が限度だね。抜け殻が薄くなってる。なんとか止めさせなきゃ……」
天海祐希婦警が、爪楊枝を使いながら言った。
「でも、取り憑かれた相手も、どこへ行ったかも分からないし、あっちの世界じゃ手が出せないしな」
「やっぱ、戻ってきたところを掴まえて説諭ですかね……」
「もう、三回やった。聞くタマじゃないよあれは」
三人の婦警さんがそろってため息をついた。
「あ、清水さん。あなた、わたしのこと婦警って思ったでしょ。わたしは女性警官なんだからね!」
上戸彩さんが、マジで怒った。
「まあ、とんがるなって。今は矢頭萌のこと」
「でも、婦警なんて言われると、天海さんや宮沢さんになったような気になってやなんです……って、お二人のことがイヤってわけじゃ……」
二人の婦警さんに迫られて、上戸彩婦……女性警官はタジタジだった。
「上戸……!」
「は、はい?」
「それ、良いアイデアかもよ。ねえ宮沢婦警?」
「ああ……」
二人の婦警さんと一人の女性警官さんに見つめられ、あたしはアセアセ……。
「ちょ、や、やめてくださいよ!」
あたしの叫びは虚しかった。逮捕術などで鍛えてるんだろう、あたしは天海祐希と宮沢りえの二人の婦警さんに身ぐるみ剥がされている。
その横では、上戸彩女性警官さんが、抜け殻を裸にしていた。
「ようし、準備OK!」
「被疑者、いや適任者確保!」
完全に素っ裸にされて、あたしは前を隠すのがやっとだった。
「ていねいにやらないと傷が残るからね」
天海祐希婦警さんは、息も乱さずに上戸彩女性警官さんに注意した。
「分かってます。天津甘栗の要領なんですよね……」
上戸彩女性警官さんは、モエチンの裸の背中に、器用に爪をあて、パカっと首からお尻の上まで開けてしまった。
「じゃ、清水さん、これ着て」
と、抜け殻を渡された。
まるで、ユルキャラの着ぐるみを着るようだった。でもダブダブ感はなく、背中の割れ目を閉じられると、自分の体のようにピッタリした。
鏡の前に立つと、モエチンそのものが写っていた。ちゃんとスキンケアしてんだ。それが第一印象だった。
「見とれてないで、服……バカ、矢頭萌の方だよ!」
「着たら、これ飲んで」
宮沢婦警さんが、飲み薬をくれた。
「なんですか、これは?」
「定着液。これで完全な矢頭萌になれるから」
栄養ドリンクに似たそれを、あたしは一気飲みした。一瞬視界が二重になり、揺らめきながら、一つになると、モエチンの意識が浮かび上がってきた。例えて言うと、間違えて二重にコピーした紙のようなもので、片方に意識を集中すると、すっかりその人格になれる。あたしはモエチンに意識を集中した。
「あなた、お名前は?」
「矢頭萌、AKR48チームAのモエチンで~す♪」
「じゃ、しっかり、がんばってね!」
あたしは、二人の婦人警官さんと一人の女性警官さんに見送られて、交番を後にした……。