ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第133話《髑髏ものがたり・5》惣一 
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髑髏の身元判明への道は意外に早く開けた。
窮したオレは艦長に直接メールを打ち、5分とおかずに艦長本人から電話があった。
『ニューギニア戦線で、戦死された陸軍中尉さんなんだね?』
「はい、戦死後首を切られて……」
全部を説明する前に艦長は的確な指示をくれた。
そして、その指示に従って防衛医科大の支倉教授を訪ねることになった。
「まずお骨を拝見しましょう」
支倉教授は、合掌した後骨箱から頭蓋骨を取り出した。
「……これは酷いねぇ。動物の骨格標本を採る時のように煮沸されている。頭骨の形状からアジア東部。日本人だとしたら、関東から東北南部の特徴が顕著、歯の状態から二十代の男性と思われるね……右上顎の第二臼歯に治療痕。これは日本の歯科医師の治療だと思う」
「分かるんですか?」
「長年遺骨を見てきた。初見判断でもこれくらいは分かる。よし、直ぐにDNA鑑定と複顔をやってみよう」
技官がやってきて、わずかに骨を削りDNA鑑定にかかった。
「DNAは時間がかかるんでしょうね」
「ダイレクトPCRでやるから、すぐに結果が出るよ。お顔は……」
教授が、パソコンのキーボードをいくつか押すと、数分でモニターに複顔した顔が現れた。
「阿部寛に似てますね……」
「推定身長……175~8だな」
複顔は一度骨に戻り、全身の骨格が付けられ、さらに肉付けされていった。日本人離れした偉丈夫に見えた。
「関東から東北には、ときたまいるんですよ。分かりやすく言うと縄文系の特質ですな」
教授は細々とした数値や特徴を言ってくれたが、専門的すぎて良く分からなかった。
「いろいろ調べさせてるんで時間つぶしに説明したが、余計だったかな……おお、なにか分かったようだな」
教授は、廊下の足音だけで朗報だと分かったようだ。
「防衛省の戦史資料室からファックスです」
若い技官がプリントアウトしたものを手渡した。
「ラム河谷の戦闘は第79連隊か。中尉は18人……5人は復員しているから、13人から絞り込めばいいんだな」
教授は、79連隊関連の資料を検索した。3個大隊の集合写真が出てきた。
「これは、検索が早いよ……」
集合写真なので、どの将兵も階級章がはっきり見える、その中から中尉を絞り込めば……18人の中尉のバストアップがモニターにHD処理をされた鮮明な画像で出てきた。
「「これだ!」」
教授と自分の声が重なった。
偶然なのだろうけど、阿部忠という陸軍中尉だった……。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員
- 孫大人(孫文章) 忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
- 孫文桜 孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
- 周恩華 謎の留学生