巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
四月七日、明日は始業式、春爛漫の今日も結婚式場に向かうホンダZ。
春休み中にみんなで出かけようと誓い合ったけど、一年の時とちがっていろいろある。まあ、三週間もすればゴールデンウィークだしね。残念がるよりも前向きに考えることにしてバイトに励む。
ムム、今日も四組!
本日の御式のとこには四組八家の苗字が並んでる。
「「よし!」」
直美さんといっしょに気合いを入れて職員用入り口から事務所経由でスタジオを目指す。
直美さんの手には事務所でもらった『本日の御式』の詳細。
「あ、やりぃ~!」
パラっとめくって小さくガッツポーズの直美さん。
「どうかしたんですか?」
「二組目に変更があってさ……あ、マリッジブルーじゃないわよ(^_^;)。人数が変更で、一組目と同じなのよ!」
「え、それはラッキー(^▽^)」
喜んでから――お客さまにはどんなご都合があってのことか分からない――ので、慌てて口を閉じる。
「そうね、でも、これは参列の方が増えてのことだから、いいよ」
「あはは、ですか(^_^;)」
直美さんは人数に合わせて照明やら椅子の間隔やらを変えている。日に何組も、月に何十組、年に数百組の写真を撮るけど、撮られる方は一生に一度の事。間に合わせや粗略な撮り方はしない。
しかし、ごくたまに前後で同じ人数の場合は同じ設定でいけるので楽ができる。
「ちょっと式場の外撮って来るよ、朝の光だし、桜も満開だしね!」
一組目の撮影が済むと、直美さんは宣言した。
「助手しましょうか」
「いいよいいよ、必ず使うってもんでもないし」
一眼レフを掴むと、直美さんは楽しそうに外に行った。
須之内写真館の結婚アルバムは新郎新婦のと親族一同のだけではなく、式場のあれこれ、式場の外観の写真も付けている。去年、令和の公民館の前で、53年前に式を挙げたというお婆さんに会って、お婆さんは、その時の記念写真を持っていた。
さて、しばしの息抜き、読みかけのコミックを広げる。
「それ『葬送のフリー〇ン』でしょ」
ギク( ゚Д゚)!?
顔を上げると巫女の御神楽采女さんが笑顔で立っている。
「大浜の神主さんが自前の巫女さん連れて来たんで、わたしも忙中閑ありなのよ」
ヤバイ!
いま読んでるのは令和のヒット作……て、御神楽さん、なんで見抜いてる!?
「こないだは、のぞき見してたでしょ」
「あ、あ…………(;'∀')」
覗いたわけじゃない、通りかかったら見えてしまっただけで。
「時司巡、あなた魔法少女……時司応(ときつかさこたえ)の孫ね?」
「あ、あ……はい(;'∀')」
なんか、すごい圧を感じて、あっさり白状してしまった。
「そんなに畏まらなくてもいいわよ、あれを見られてアルバイトの巫女でございもないだろうしね」
「あ、え、えと……」
「わたし、本名は須世理姫(すせりびめ)って言って、昔は、この丘の上にお社があったの」
「スセリビメ?」
「濁らない読み方ではスセリヒメ。ま、ここでは御神楽采女だから、こっちでは御神楽さんとか采女さんとかでいいからね」
「えと、神さま……?」
「まあねぇ」
「あ……でも、なんで、結婚式場に?」
「言ったでしょ、もともとお社があったし、結婚式場ってお目出度いでしょ。お目出度って神さまには栄養みたいなものだからね」
「あ、そかそか……」
「ああ、ごめん、いきなり出てきて神さまだって言われてもビックリだよね。まあ、おいおい知ってもらったらいいし。まあ、取りあえず素性は明らかにしておこうって、ま、引っ越しのご挨拶みたいな……あ、つぎの組、席次で揉めてるっぽい、やれやれ、じゃ、またね!」
シャララ~ン
そう言うと御神楽、スセリビメさんは、一昔前のアニメのようなエフェクトを残して消えていってしまった(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人