ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第81話《さくら その日その日・3》さくら
わたしのブログは炎上した。
久米久のトーク番組『上から下』に出て、言いたいことを言ってきたからだ。
久米久は、今度のC国との事件……C国は穏やかなものでも紛争、中には海戦と表現してして、燃え盛る操舵室で微動だにせずに舵を握っていた船長(マネキンなんだけど)を烈士と讃えた。
しかし、烈士の素性が明らかにされないことや、アメリカが強襲揚陸艦のお尻から漁船が出てくる衛星写真やら航空写真を発表して、C国でも疑問に思う声が上がり始めた。むろん、そう言う声やSNSへの投稿はアカウントごと削除されたけどね。
でも疑問や不満を持つ人たちはアメリカや各国大使館のSNSに投稿し始め、さすがに大使館のアカウントを削除するわけにいかない。もともと経済状態が最悪だったため、かえって国内が混乱するというありさまだった。
で、久米久さんは、C国混乱したのは日本のせいで、事態を悪化させた海上保安庁と、特に海上自衛隊が一方的に悪く、したがって『たかやす』が悪く、その『たかやす』の砲雷科の士官であったさくらの兄の惣一にも責任があり、妹であるさくらは、これに批判的でなければならない(暗に、芸能界で生きていけないとまで言った)と、わたしを責めた。
「もし戦争とかになったら、自衛隊にも犠牲者が出るかもしれないし、C国の人たちは難民になるかもしれないんだよ。語るんだったら、自分が戦闘に参加したり、難民になる覚悟で話さなきゃ」
「それって変ですよ。戦う覚悟とか、難民の気持ちなんか言ってたら、なにも喋れなくなります。でしょ、久米久さんだって、政治家とかお医者さんとか批判されますけど、政治家とかお医者とか先生とかになる気になります? そんな、いちいちなる気とか覚悟とか言われたら、批判とか言えなくなるじゃないですか。それにね……第一に、この話題振ってきたのは久米久さんだと思いますよ(^▽^)」
で、久米久さんは、C国混乱したのは日本のせいで、事態を悪化させた海上保安庁と、特に海上自衛隊が一方的に悪く、したがって『たかやす』が悪く、その『たかやす』の砲雷科の士官であったさくらの兄の惣一にも責任があり、妹であるさくらは、これに批判的でなければならない(暗に、芸能界で生きていけないとまで言った)と、わたしを責めた。
「もし戦争とかになったら、自衛隊にも犠牲者が出るかもしれないし、C国の人たちは難民になるかもしれないんだよ。語るんだったら、自分が戦闘に参加したり、難民になる覚悟で話さなきゃ」
「それって変ですよ。戦う覚悟とか、難民の気持ちなんか言ってたら、なにも喋れなくなります。でしょ、久米久さんだって、政治家とかお医者さんとか批判されますけど、政治家とかお医者とか先生とかになる気になります? そんな、いちいちなる気とか覚悟とか言われたら、批判とか言えなくなるじゃないですか。それにね……第一に、この話題振ってきたのは久米久さんだと思いますよ(^▽^)」
「それはだねえ……」
言い合いになった時、臨時ニュースが入った。
なんと、捕獲した漁船の内部の動画がSNSを通じて世界中に流されたんだ!
流したのは、お兄ちゃんといっしょに漁船に乗り込んだ真田という三等海曹。
休暇の日に、横浜のネットカフェで、全部の動画を流したんだ。
動画には、マネキンの船長も、ドローンである証拠のパソコンやら制御装置、機関室には爆薬がしかけられているのも見えた。
臨時ニュースが終わると、久米久さんと二人こわばった笑顔で手を振って番組が終わった。
ブログへのコメントの大半は、あたしに賛成のものだった。ま、コメントなんてみんな匿名だから、そもそもがマトモに相手をするようなもんじゃないけど。
ええと……
スクロールしていると四ノ宮忠八の実名のコメントが出てきたので、たまげた。
一言だけ「君が正しい」とあった。
一瞬本物かなあ? と思ったけど、なんとなくチュウクンらしいので、メールで――ご声援ありがとう――と打っておいた。
折り返し返事がきた。
――ドンマイ。お互い、のんびりがんばろう――
あたしは、このとき「お互い」の意味をしっかりとは分かっていなかった……。
はるかさんからは直接電話がかかってきた。
「さくらが言ってくれたことは『はるか ワケあり転校生の7か月』にも通じるわ。思うところに忠実に行動して、結果は思う通りにならなくても通じるものは通じるわ。あの放送を聞いて、あのころの自分を思い出したわ。そろそろ吾妻さんが放っておかなくなるかもね」
はるかさんの予言は当たった。ま、そのことはいずれ。
スクロールしていると四ノ宮忠八の実名のコメントが出てきたので、たまげた。
一言だけ「君が正しい」とあった。
一瞬本物かなあ? と思ったけど、なんとなくチュウクンらしいので、メールで――ご声援ありがとう――と打っておいた。
折り返し返事がきた。
――ドンマイ。お互い、のんびりがんばろう――
あたしは、このとき「お互い」の意味をしっかりとは分かっていなかった……。
はるかさんからは直接電話がかかってきた。
「さくらが言ってくれたことは『はるか ワケあり転校生の7か月』にも通じるわ。思うところに忠実に行動して、結果は思う通りにならなくても通じるものは通じるわ。あの放送を聞いて、あのころの自分を思い出したわ。そろそろ吾妻さんが放っておかなくなるかもね」
はるかさんの予言は当たった。ま、そのことはいずれ。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員