大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・029『教職員名簿とプラモ屋さん』

2023-05-25 09:28:47 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

029『教職員名簿とプラモ屋さん』   

 

 

 中学までは朝礼と終礼があった。

 

 朝、いちばんに顔を合わせるのは、門番当番の先生を除いては朝礼の担任の先生だった。

「おはようございます」の挨拶から始まって、出欠点呼、諸連絡。終礼でも諸連絡があって、先生が「今日の掃除当番はA班」とか確認して、先生に監督されながら掃除していた。

 昭和45年の宮之森高校では昼礼ということになっている。

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったら、生徒は教室に入る。で、担任の先生がやってきてSHR(ショートホームルーム)って建付けになってるんだけど、先生はめったにやってこない。だから、このごろは五時間目の予鈴が鳴らないと生徒も教室に入らない。

「必要なことは自分の授業で連絡するからいいんだ」

 謹厳実直そうなうちの藤田先生でも、そう言う。

 これって、良くないと思う。

 不慮の事故とかで生徒が居なくても(交通事故とか、無断欠席とか、家出とか)学校は気づかない。

 自主性の尊重とか言うけど、手抜きの一種だと思う。

 

 ま、いいけど。

 

 今日は珍しく、その昼礼があって、藤田先生が『職員・生徒名簿』を配った。

 文庫本の縦横を逆にしたようなサイズの小冊子で、教職員と生徒全員の住所と電話番号が載ってる。

 こんなの配って――不幸の手紙は止めよう!――とか言って、ちょっと矛盾だ。

「で、今から配るプリントはクラスの緊急連絡網だ。めったに使うことはないが、大事に保管しておくように」

 みんな、ざっと目を通してカバンにしまう。

 ちなみに、我が家のそれは令和の時代の固定電話。

 まあ、お祖母ちゃんは引退したとはいえ魔法少女。わたしのスマホ同様、たぶん使えるんだろう。

 でも、家庭訪問とかされたらヤバイから、品行方正を心がけよう。

 十円男の加藤高明は、名簿を繰りながら、時どきチェックを入れてる。変なやつ。

 

「ちょっとクラブ見学したいんで(^_^;)」

 

 放課後、ロコは、そうことわって本館の方に駆けて行った。

「うん、じゃ、またね」

 と、今日は一人で帰る。

 ロコは、人に依存するタイプだと思っていた。

 ハナから部活はやる気は無いので、放課後はロコとつるんで帰るのがルーチン化していた。

 オタク気質の子だけど、さすが、昭和の女の子だと、ちょっと嬉しい。がんばれロコ!

 

 駅に向かって歩いていると、ちょっと……いや、相当に香しい臭いがしてくる。

 

 どこかで浄化槽が爆発した!?

 角を曲がって見えてきたのは、宮之森市のマークを付けたバキュームカー。

 令和でも、たまに見かけるけど、ここまでの臭いはしない。

 そうか、この時代は下水が完備してないんだ。バキュームカーも消臭機能とかは充実してないんだよね。

 道幅は4メートルほど、ちゃんと左に寄せてくれているんで、バイクだって通れるんだけど、申しわけないけど手前のところで横道に入る。

 だいたいの見当をつけて商店街に入る。

 商店街は映画館があるところで曲がっているので、その先やら枝分かれした道は初めてだ。

『服部模型店』というのが目に留まる。

 プラモ屋さんだ。

 叔父さんがガンプラ趣味なんで、プラモのプの字くらいは分かる。

 ランドセル背負った小学生が三人、ショーウィンドウに張り付いている。

 チラ見すると、戦艦大和やらの軍艦や飛行機、自動車のプラモの完成品が並んでいる。

 え、ガンプラ無いんだ。

 叔父さんに連れられて行った電気街のプラモ店は、全店ガンプラ。ソフマップにも行ったけど、半分くらいはガンプラで、プラモ=ガンプラだと思っていた。

 並んでる完成品は、どれもピカピカ。

 塗装はしてあるんだけど、なんというか、キレイ。

 大和は竣工したばかり、ゼロ戦はこれから試験飛行しますって新品の感じ。

 ウェザリングって叔父さんは言ってた。

 ラッカー系の塗料で塗った後、エナメル系の塗料で汚しを入れて、エナメルの溶剤でボカシたり滲ませたりして実感を出す。仕上げはファンデみたいなので、まさにお化粧の感覚。

「ちょっと、アヤシイ」

 そう言うと「い、いや、こういうものなんだって、プラモは(^_^;)」と弁明していた。

「おねえちゃんも、模型やるの?」

 小学生が、首を捻って聞いてくる。

「アハハ、親類の叔父さんがね……ここって、安いの?」

 値段が5円とかの端数が付くものが多いので、そんな気がした。

「うん、5%引き」

「向こうの店は10%引きだぜ」

「え、向こうにもあるの?」

 教えてもらって脇道に入ると、文具屋を兼ねた店があって、服部模型店よりも微妙に安い値段がついていた。

 映画館といい、プラモ屋といい、写真館といい、令和では見かけなくなったお店が元気。

 というか、商店街自体が、すごく元気。

 三波春夫の『こんにちは~こんにちは~』をいつの間にか口ずさみながら電車に乗った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

 

 


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