タキさんの押しつけ書評
『真山仁:コラプティオ』
昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。
corruptio:汚職・腐敗を指すラテン語
単行本が出た時に読んでますが、文庫を間違って買ってしまいました。 改めて、初刊時より今の方が時代にマッチしていると思います。
東北大震災に際して彗星のごとく現れた救世主にしてカリスマ的政治家・宮藤と若き政治学者にして宮藤の秘書官を勤める白石/大新聞の記者/神林。この三人を中心に政治の深層を探る。
初刊 平成23年より今の方が時代に寄り添っているというのは、何も安倍政権を揶揄しているのではない。物語はもっと普遍的なテーマを追っている。初刊刊行時、多分に予言的な内容を持って本書は世に出た。
未曽有の災害に当時の為政者の化けの皮が剥がれ落ち、日本人は強力なリーダーを求めていた。その風を背に受けて宮藤は首相に登りつめる。力強い言葉とカリスマ性を武器に その支持率は右肩上がりに上がっていく。 まぁ、あまりストーリーには触れない方がよろしい。ご想像通り、政権に疑惑の影がさす。果たして真相は? という疑問を追って物語は進行する。
真山仁は、あの「ハゲタカ」の作者です。今回、経済ミステリーから「政治」に舞台を移しての作品。読み出すと止められなくなるのは「ハゲタカ」と全く同じです。「ハゲタカ」シリーズと同じく、状況の薄皮が一枚剥がれ落ちるたびに少しずつ違う風景が顔を出す。この状況変化をどう考えるか、どう対処するか……登場人物達の立場は微妙に変化し、心中は引き裂かれていく。この人間心理の移り変わりの筆致はさすがです。
「最良なるものの腐敗は最悪である」というラテン語成句がありますが、我々は「最良なるもの……と信じていたもの…」というように書き換えないでしょうか。あまり違いは無さそうですが、書き換えた方には責任転嫁があります。「私は騙されていた」……どうでしょうか。
元の成句には「腐敗は避けられない、如何なるものにも」という意味が込められているのです。ラテン語成句じゃありませんが「騙すなら騙すで騙し通してくれ」ってのがありますが、その方が少なくとも心は平安だって事なんですね、その結果 奈落に落ちるとも……なんてな覚悟がある訳じゃありません。人間ってのは どこか他力本願で、ジッとしていれば誰かがどこかに運んでくれると幻想しがちです。
その意味で、本作の主人公達は 自ら浄化の道を取ろうと……最善ではないにせよ……努力しています。とはいえ、最後の為政者の言葉を鵜呑みにはできないし、そこまで追い詰めた側も その後の進展に責任がとれるのか? 状況に関わり続けるのか?という疑問が残る。
現実には有り得ない理想論を振り回すつもりはありませんが、本作がこれで完結するとするなら……私には「絶望」の二文字しか見えない。想像力の欠如?
「ハゲタカ」と同じく、本作の主人公達が、この後 如何なる地平を切り開くのか、是非とも続編が読みたいと思います。
『真山仁:コラプティオ』
昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。
corruptio:汚職・腐敗を指すラテン語
単行本が出た時に読んでますが、文庫を間違って買ってしまいました。 改めて、初刊時より今の方が時代にマッチしていると思います。
東北大震災に際して彗星のごとく現れた救世主にしてカリスマ的政治家・宮藤と若き政治学者にして宮藤の秘書官を勤める白石/大新聞の記者/神林。この三人を中心に政治の深層を探る。
初刊 平成23年より今の方が時代に寄り添っているというのは、何も安倍政権を揶揄しているのではない。物語はもっと普遍的なテーマを追っている。初刊刊行時、多分に予言的な内容を持って本書は世に出た。
未曽有の災害に当時の為政者の化けの皮が剥がれ落ち、日本人は強力なリーダーを求めていた。その風を背に受けて宮藤は首相に登りつめる。力強い言葉とカリスマ性を武器に その支持率は右肩上がりに上がっていく。 まぁ、あまりストーリーには触れない方がよろしい。ご想像通り、政権に疑惑の影がさす。果たして真相は? という疑問を追って物語は進行する。
真山仁は、あの「ハゲタカ」の作者です。今回、経済ミステリーから「政治」に舞台を移しての作品。読み出すと止められなくなるのは「ハゲタカ」と全く同じです。「ハゲタカ」シリーズと同じく、状況の薄皮が一枚剥がれ落ちるたびに少しずつ違う風景が顔を出す。この状況変化をどう考えるか、どう対処するか……登場人物達の立場は微妙に変化し、心中は引き裂かれていく。この人間心理の移り変わりの筆致はさすがです。
「最良なるものの腐敗は最悪である」というラテン語成句がありますが、我々は「最良なるもの……と信じていたもの…」というように書き換えないでしょうか。あまり違いは無さそうですが、書き換えた方には責任転嫁があります。「私は騙されていた」……どうでしょうか。
元の成句には「腐敗は避けられない、如何なるものにも」という意味が込められているのです。ラテン語成句じゃありませんが「騙すなら騙すで騙し通してくれ」ってのがありますが、その方が少なくとも心は平安だって事なんですね、その結果 奈落に落ちるとも……なんてな覚悟がある訳じゃありません。人間ってのは どこか他力本願で、ジッとしていれば誰かがどこかに運んでくれると幻想しがちです。
その意味で、本作の主人公達は 自ら浄化の道を取ろうと……最善ではないにせよ……努力しています。とはいえ、最後の為政者の言葉を鵜呑みにはできないし、そこまで追い詰めた側も その後の進展に責任がとれるのか? 状況に関わり続けるのか?という疑問が残る。
現実には有り得ない理想論を振り回すつもりはありませんが、本作がこれで完結するとするなら……私には「絶望」の二文字しか見えない。想像力の欠如?
「ハゲタカ」と同じく、本作の主人公達が、この後 如何なる地平を切り開くのか、是非とも続編が読みたいと思います。