真凡プレジデント・54
生徒会室に無いもの=エアコンと男。
その結果、生徒会役員たちは非常にダレてきてしまった。
年代物の扇風機は暖気をかき回しているだけで効果はないのだけど、ここで稼働しなければレーゾンデートルにかかわるとばかりに唸りを上げて回っている。
「ちょっとマシかもしれないよ」
食堂から戻って来たなつきが、キンキンに凍ったペットボトルのお茶を配る。
「よくメッケてきたわね!」
普段は凛としている副会長のみずきがクリスマスプレゼントをもらった子供のような顔になった。
「同じ食べ物屋だから、食堂でもやってるんじゃないかと思って」
「あ、なつきんちはお好み焼き屋さんだもんね」
ブラウスの第二ボタンまで外していた綾乃はタンクトップを引っ張って、ペットボトルを胸の谷間に収める。
「う~ん、二択だなあ……」
とりあえずタオルハンカチでくるんで頬っぺたをスリスリしながら、みずきは悩み始める。
「なに、悩んでんの?」
「なつきみたく胸に納めるべきか、脚で挟んでみるか……」
「脚で挟む?」
「こうよ……」
三人が机の下を覗くと、みずきはスカートをたくし上げ太ももでペットボトルを挟んでいる。
「あ、それって、女捨ててる……」
「アハハ、でも涼しいよ」
「そう?」
「足の付け根って太い動脈があるから効率的に冷やせるのよ」
「動脈なら、腋の下とか首筋にもあるでしょ」
真凡が首筋にペットボトルをあてがって注意する。
「だって、ここがいちばん蒸れるし(^_^;)」
「うん、分かる、こうやって……下敷きであおぐと……おお、いっそう快適じゃあ!」
「「あ、そう?」」
なつきと綾乃が倣おうとしたとき、真凡のスマホが鳴った。
「……あ、やったあああああああ! エアコンが手に入るよおおおおおお!」
「「「えーーーー!」」」
「毎朝テレビの営繕課にメールしといたの、取りにくるんだったらストックのエアコンくれるって!」
蛇の道は蛇で、真凡は姉の知り合いにメールを打っておいたのだ。
かくて、本日の執行部会議は予定の議案を一つも話し合わないまま散開することになった。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
- 橘 なつき 中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 柳沢 琢磨 天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
- 北白川綾乃 真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
- 福島 みずき 真凡とならんで立候補で当選した副会長
- 伊達 利宗 二の丸高校の生徒会長