大橋むつおのブログ

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銀河太平記・276『筋斗雲は西を目指して』

2025-02-07 10:46:59 | 小説4
・276

『筋斗雲は西を目指して』 東鈴 




 筋斗雲はカンパニーの上をゆっくり旋回してから西を目指した。

 神社の前ではハナがピョンピョン跳ねながら手を振っている。目につくのは紅白の巫女服が目立つからばかりじゃないだろう。

 筋斗雲に翼があったらと思った。ズングリした筋斗雲ではバンクで挨拶しても分かりにくいからね。

「成層圏航路をとろうか、一時間早く着くけど」

「ううん、これでいいのよしゃ。海見てるの楽しいのよしゃ」

「火星には海ってないものね」

 メグさんが合わせると、鼻にしわを寄せて笑うテル博士。

 こういうところは、ひいき目に見ても小学生なんだけど、立派な大人。それも火星で三本の指に入るというサイエンティスト。敬意をもって接しなくちゃいけない。

「イルカ、泳いでる……あそこ」

 マヌエリトが散文的に言う。

 このインディアンの酋長は接し方がよく分からない。まあ、歓迎会で姿を見て、声を聞いたのはついさっきだから、何を言ってんだってことなんだけど、予測としてね。

 いつも悟兵の相手ばかりしてるから、同じ空間に居る人間とは無駄口をたたいていないと、微妙に気づまり。

 グィィィ~ン

 そう思いながらも筋斗雲の高度を下げてイルカ見物のポジションをとる。

「うわあああ(^▽^)」

 もう完全に小学生、いや、幼稚園児。キャノピーに両手とオデコをつけて、ヨダレまで垂らしてるし(^_^;)

「おいしそうなのなのよさ!」

 グフ( ゛艸゛)!

「そ、そういう感覚なんだぁ(^_^;)」

「火星の人口は10億で頭打ちなのよしゃ、主な理由は食料なのよしゃ。海がないしねぇ、しぇめて、地球の1/5でも海があったら、大気循環が活発になるし、養殖でない魚やクジラも獲れるようになるのよしゃ……」

「養殖の魚ねえ……」

 テル博士とメグさんの呟きがシンクロする。

 高度を5メートルにまで下げて、キャノピーを開けるわけにはいかないけど、外の音を流して雰囲気を盛り上げてやる。

 ザッパーーン

 間近でイルカがジャンプして、マヌエリトの瞳がキラリと光った。

「あれ一頭で、100人、1か月のたんぱく質」

 今のはインディアンとして? 孤島の前市会議員として?

「しかし、しょの前に戦争……」

「え、戦争は、もう終わったんでしょ?」

「停まってるだけなのよしゃ、人も資源も足りないかりゃ……力が回復したら、九分九厘、また始まるのよさ……」

「そうなんだ……」

「そのために、抑止力……東鈴、やっぱり成層圏航路とってなのよしゃ!」

「お、おお」

 グィィィ~ン

 筋斗雲は30度の仰角をとって上昇、水平線が見る見る地球の輪郭に変わっていった。

 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 

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