大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女・60『ドッペルゲンガー』

2019-04-06 05:58:29 | 時かける少女

時かける少女・60 

『ドッペルゲンガー』        
 

 

 いつもの道を曲がり損ねてしまった。考え事をしていたからだ。
 

 駅から学校へ行く道は二本ある。多少の遠近はあるが、どっちの道も距離は似たようなものである。 自然に生徒は二本の道を分けて通るようになる。当然一本当たりの道を通る生徒の数は少なくなり、住民とのトラブルは、その分だけ少なくなる。
 

 ひなのが亡くなってから、光奈子は道を替えた。

 それまでの道は毎朝ひなのと歩いていた道なので、無意識に別の道を通るようになった。この道は、学校の前で双方東西から学校に向かうようになっており、反対の道から来た生徒と出くわすカタチになる。 もっとも、お喋りやスマホに気を取られ、案外反対側から来る生徒には気づかないものではあるが。
 

 この日は違った。
 

 最後の角を曲がったところで、オーラを感じてしまった。 向こうから、たくさんの生徒に混じって、もう一人の自分が歩いて来たのである。前の生徒が邪魔で、いっしょに並んでいる生徒の姿が見えない。 とっさに、光奈子は速度を落とした。むこうの光奈子は、話しに夢中で、こちらには気づいていない。
 

 校門を潜ると、後ろ姿を追いかけるカタチになった。

「コンクール残念だったな!」

 自転車で来た三年の林田が、気楽に声をかけた、その二人に。
 振り返った二人は光奈子と……ひなのであった。
 

「………!」

 思わず叫びそうになるのを堪えて、自分の口を押さえると、駅に向かって駆け出した。

 ちょうどやってきた準急に乗り、息を整えた。

 気づくと向かいに網田美保が憐れむような顔で座っていた。
 

「とりあえず家に帰ろうか」

「だめだよ、お母さんがいる」

「お母さんには、会わないようにしてあげる」
 

 本堂の方から入り、靴は持って上がった。美保が脱いだとたんに靴が消えた。

 そう、美保はアミダさまなのである。
 

「さっきのひなのと、あたしは誰なの!?」  

 部屋に入るなり聞いた。

「見ての通りひなのと、光奈子」

「どういうことよ、これって!?」

「まあ、落ち着いて……これは光奈子が望んだことなんだよ」

 「あたしが?」

「お彼岸の最後の日に、願ったでしょ。ひなのが生きてればいいって」

「ずっと思ってるわよ、ひなのが亡くなってから……」

「こないだ、加害者のお祖母ちゃんと、まなかちゃんがガチンコしちゃったじゃない。お彼岸の最後の日」

「うん、胸が痛んだ」

「あの時、強く思ったのよ。ひなのが生きていればいいって」

 「じゃ、ひなのが生き返ったの?」

「死んだ者は極楽往生。生き返ることなんかないわ」

「でも、ひなの笑って、あたしと話してた……そうよ、あのあたしってなんなのよ?」

「ここは、ひなのが死ななかった世界。パラレルワールドよ。光奈子が強く願ったから、光奈子が移動した。で、ここには別の光奈子がいるから鉢合わせしたわけ」

「じゃ、あたしは……」

「余計な存在。ごくたまに起こる現象。街なんかで自分とそっくりな人間に出会ったって、都市伝説みたいなのがあるでしょ。ドッペルゲンガー、離人症って呼ばれて、精神病理学の一つになっている。普通はほんの瞬間。あるいは不定期的にパラレルワールドが重なって起こる現象」

「じゃ、これも……」

「あんたは、完全に、こっちのパラレルワールドに入っちゃったから、ここに存在するわけにはいかないの」
 

 思考が停止してしまった。
 

「もしもし……」

「あたし、どうしたら……」

「あなたは、沢山のミナコを生きる運命にあるようね。そろそろ別のミナコになる時期かもしれない」

「別のミナコ?」

「こないだ、亡くなった湊子って、オバアチャンも、その一人だったかもしれないわ」

「……なんだか、頭が痛くなってきた」

「少し横になるといいわ。おつかれさま、ミナコ……」
 

 光奈子は、制服のままベッドで横になった。数時間たって、もう一人の光奈子が帰ってきた。
 

「たっだいまあ~。ああ、お腹空いたあ!」

「檀家さんから頂いた、お饅頭があるわ」

「へへ、お寺の特権だね」

「食べ過ぎないようにね、晩ご飯食べられなくなるから」

「はいはい、別腹でございます」
 

 光奈子が、饅頭の箱を持って自分の部屋に入ると、なんとベッドで寝ている自分を見つけてしまった。
 

「え……ええ!?」
 

 ほんの数秒で、ベッドの光奈子は消えてしまった……。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« せやさかい・003『せやさ... | トップ | 高校ライトノベル・秘録エロ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

時かける少女」カテゴリの最新記事