魔法少女マヂカ・081
身体が憶えていた。
数十台のF1が一斉にエンジンをふかす轟音! エギゾーストから吐き出されるガソリンがたぎる匂い! レーサーたちのヘルメットから零れる闘志! 万を超える観客の声援! そういうものが混然一体となってサーキットの空気を震わせる!
たまらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!
正式なF1レースは1950年代に始まるが、その萌芽は1906年のGrand Prix de France(フランスグランプリ)だ。
オレは豊満な胸を日本のサラシを巻いてペッタンコにし、腰まで届こうかというブロンドのロングヘアーをバッサリ切って、ブリトン・サンダースと偽って参加した。
人間のレースに魔法少女がエントリーして優勝するわけにはいかない。これまで参加したレースは最終コーナーで意図的にミスやトラブルを起こして勝ちを譲っていた。
そのころの記憶が、まざまざと蘇ってくる。
アクセルを八分に抑えてエンジンをふかす。マックスでは、かえって初期加速が鈍るのだ。
フラッグが振られて、全車一斉にスタートをきる!
ブオーーーーーーン!!
メカニックの行き届いた整備もむろんだが、オレのテクニックも世界一だ! 魔法少女の集中力は、平均で並の人間の十倍はあり、身体能力は100倍だ! これに匹敵するのは魔法少女の男版であるスーパーマンくらいのもので、このブリンダは、その魔法少女の中でも抜きんでている。負けるわけなない! 負けるわけにはいかない!
行くぞ! 第一コーナー!
キュンキュンキュン! キュキュン!
完璧なドリフトで、二位以下を引き離し、500フィートの直線コースに踏み込む!
いっけええええええええええええええええええ!
ブロ ブロロローーーーーーーーン!!
「ブ、ブリンダああああ! いいかげんにしろおおおおお!」
マシン(車)が喋った……そうか、オレの闘志が感応して、マシンにも魂が宿ったか!
任せておけ、わが愛車! 酷使はするが潰しはしないぞ!
このレースが終われば、おまえはF1ミュージアムに永久保存されるぞ!
『おちつけブリンダ!』
ん?
バックミラーにブロンドの少女が現れて目を三角にしている。こいつ、大人しくしていれば、そこそこの美少女なのに、なんで、そんなに機嫌が悪い?
『これは、カオスにのせられて、ブリンダが作った妄想だ!』
「妄想? 妄想上等じゃねーか! このままブッチギリでいっくぞおおおお!」
ブウォーーーーーーーーーーン!!
『『キャーーーーーーーーーーーー!!』』
二人分の悲鳴がすると、マシンも大人しくなり、バックミラーの美少女も姿を消した。
いける! いける! 二位のマシンを周回遅れにしてやった!
掟を破ることになるけど、魔法少女が一生に一回くらいトップになってもいいだろう? いいよな! いいよなあ!
最終コーナーを周って、ホームストレッチのゴールが見えてきた。
いかげんにしろーーーヽ(`Д´)ノプンプン!!
二人分の怒声がしたかと思うと、オレは、ジェット戦闘機の緊急脱出のようにシートごと空中に放り出された!