大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第94話《さつき今日この頃・2》

2024-02-28 07:08:54 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第94話《さつき今日この頃・2》さつき 





 意外な人が周恩華さんの身元引受人になってカタがついた。


 なんと、裏のアパートの冴えない住人、四ノ宮忠八クンだ。

「よかったら、さつきさんもどうぞ」

 というので、迎えのタクシーにいっしょに乗った。

 違和感は、ここからだった。

 四ノ宮クンと言えば東京大学に籍があることだけが取り柄の、冴えない上に貧乏な学生という認識しかない。

「四ノ宮クン、どこに行くの?」

「恥ずかしながら、僕の実家」

 そう言ったなり黙りこくってしまった。

 タクシーは山の手の高級住宅街に入って、ひときわ大きなお屋敷が見えてきた……と思ったら、お屋敷の八の字に開いた門を抜けて、玄関の前の車寄せで止まった。

 クシーのドアが自動で開くのは当たり前だけど、開いたドアの前に執事さんとメイドさんが出迎えているのにはタマゲタ。

「四ノ宮クン、あなたって……」

「めったに、ここには来ないんだけどね……」

「奥の座敷になさいますか? それとも坊ちゃんのお部屋で?」

「僕の部屋。肩の凝らないところがいいだろうから」

「若奥様は、間もなくお出でになります」

「え、まだ来てないの。桜だけが頼りなのに」

「え、さくら!?」

「あ、来てから説明するけど、あの『さくらちゃん』じゃないから。ま、どうぞ。南さん、お茶だけおねがいします」

「かしこまりました」

 アキバや渋谷のまがい物ではないメイドの南さんが言った。メイドも本物になると迫力と気品がちがう。

 四ノ宮クンの部屋は広いだけが取り柄のガラクタ部屋だ(^_^;)。

 プラモデルやフィギュアの類なら、まだ理解はできるけど、かなりの量のプラレールや、骨董品屋さんの倉庫のように鎧があったり、模擬刀なんだろうけど刀があったり、壺や茶わんや掛け軸。よく見ると、なんかの専門書や漫画などがゴタマゼで平積みになっている。天井からは、モビールやら、模型飛行機なんかもぶら下がって乱雑、いや、熟成した趣味を感じさせる(^_^;)。

 あたしはぶっタマゲタだけだけど、恩華さんは不快を絵にかいたような顔になっていた。

 二三分すると、メイドではないかわいい子がワゴンにお茶とケーキを載せて現れた。

 若奥さんではないと思った。身に着いた気品や、そこはかとなく感じる人としての幅が四ノ宮クンとはかけ離れ過ぎている。
 言ってみれば、この娘さんはドラマで主役が張れそう。で、四ノ宮君は、どう見ても通行人というかエキストラというかモブの学生A。

「妹の篤子です。こないだまではオレのお目付け役だった」

「過去形で言わないでくれます、お兄様」

「おいおい、じゃ、お目付け役が二人も居るってことかい?」

「たった二人だと思ってたの? まあ、頼りない兄で申し訳ありません。そういうわたしも盲腸のときはさくらさんにお世話になりましたけど。どうぞ恩華さん」

 恩華は、お茶を受け取るふりをして、少し先にあった脇差を抜くと自分の喉元に当てた!

「恩華さん!」

「来ないで!」

 それ以上近づけば、自殺しかねない勢い!

 誰も身動きができなかった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 

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