大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 25『敦子と今川焼』

2021-08-18 17:17:08 | ノベル2

ら 信長転生記

25『敦子と今川焼』  

 

 

 おい、ブタになるぞ。

 

 三つ目い手を出そうとしたら、頭の上から声がした。

 ああ……?

 首をひねると、斜めになった敦子の顔が見える。

「ばか、おまえの首が斜めなんじゃろが」

 そうか、ソファーに浅く座ったまま今川焼を食べていたら、いつの間にかずり落ちてしまったんだな。

「生きていたころから行儀の悪いやつだったが、美少女になってもかわらんなあ」

「うるさい、我が家で今川焼を食うのに行儀も何もない」

「そうだろうがな、今食べたのは六つ目だぞ」

「え……?」

 のっそり上半身を起こしてテーブルの上を見ると、10個入の箱には三つしか今川焼が残っていない。

「で、あるか」

「あはは、嘘じゃ。わらわが三つ食べたから、おぬしが食べたのは四つじゃ」

「では、食べる」

「甘いもの好きは、こっちに来ても変わらんのう」

「言うな、買ってきたのは敦子、おまえだぞ」

「ああ、転生してから一か月になるしな、たまには話すのもいいかと」

「その割には、口数が少ないな」

「お前がずっと考え事をしておるからな……食べた今川焼の数もわからんくらいな」

「そうか……」

 手にした今川焼が停まってしまう。

「いっちゃんのことが気になるのであろう?」

「そういうわけではない」

 ハム

「なにをする!」

「手に持ったままじゃからのう、今川焼も生殺しでは可哀想じゃろうが」

「もう好きにしろ」

「市はのう、学校で孤立しておる。信長の妹だけあってケンカがうまい。ただ腕力だけでは無くて、頭も切れるし口もたつ。学園で、市に敵う者はおらん」

「そうなのか?」

「タイプは違うが、パヴリィチェンコと同じじゃよ」

「あの鉄砲女とか」

「ああ、市も、一途に思い詰めておることがある」

「なにを?」

「察してやれ」

「はっきり言わんやつは嫌いだ」

「信長、おまえみたいにハッキリ言う奴のほうが、世の中には少ないんだ。分かってやらんと、また本能寺の無限ループになるぞ」

「次は、光秀を家臣にすることはせん」

「それはダメじゃ。信長と光秀の主従関係はデフォルトなんじゃぞ。ここを変えては、このゲームは成立せん」

「……どうでもよいが、今日の敦子は、喋り方が偉そうだぞ」

「信長に言われとうはないのう。わしは神さまじゃから、基本は偉いのじゃぞ」

「だったら、その女子高生のナリはよせ」

「これもデフォルトじゃ……」

 言葉の継ぎようが無くなる……自然に今川焼に手が伸びるが、箱の中は空っぽになっている。

「茶でも淹れるか……」

 敦子に淹れさせてもいいのだが自分でやる。

 転生してから、家事をやることが平気になってきた。まあ、ガキの頃に平手のジイに一通りは仕込まれたし、町や村のワッパどもと遊んでいたころは、何ごとも自分でやったしな。

 スーーーーー

 茶を淹れていると、目の前を白いものが、音もなく横切る。

 式神か……敦子は神さまだ、式神くらい飛ばしても不思議ではない……リビングの隅で力尽きたそれは……紙飛行機?

「それを極めれば、なにかが開けるぞ」

「呪をかけたのか?」

「いっちゃんが、いま、それに出会った。帰ったら聞いてやれ。茶は、いま頂いた」

 それだけ言うと、敦子はソファーに尻の窪みだけを残して消えてしまった。

 手元を見ると、二杯淹れたはずの茶碗の一つが空になっていた。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手
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