ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第68話《次の役は佐倉さくら!?》さくら
次は東京だよ
京都駅を出て――次の停車駅は名古屋です――の車内放送が終わるとマネージャーの吾妻さんが言う。通路を席に向かっていたオジサンがギョッとしてドアの上の電光掲示板を見る。手にした切符には『京都→名古屋』の文字が見えた。乗り慣れてないとビックリするかも。新幹線は最速ののぞみでも名古屋には停まる。
地理や交通機関には疎いわたしだけど、京都の次は名古屋で、東京の直前には新横浜と品川に停まることぐらい知っている。
でも名古屋ってビミョーだから、一瞬――停まらない――と勘違いするよね。
吾妻さんが言った東京は行先や停車駅のことなんかじゃない『次の仕事は東京だぞ』っていう意味で、電池が切れかかったわたしに念押ししたんだ。
二カ月ちょっとに及んだ『ワケテン』の仕事もやっと一段落。最後まで遅れていたマサカドさんの役も、あたしがモーションキャプチャーをやって、あっけなく終了。
由香の役の撮影が終わった時に花束をもらったけど、マサカドさんの仕事で、撮影そのものが終わり、もういっぺん花束をもらうとは思ってもいなかった。
由香の役の撮影が終わった時に花束をもらったけど、マサカドさんの仕事で、撮影そのものが終わり、もういっぺん花束をもらうとは思ってもいなかった。
久々に東京に帰って学校にいきたかった。思えば、一月に学校の先輩であり、シンガーソングライターでもある原鈴奈にそそのかされ、新曲のプロモにちょっと出たのがきっかけだった。
気が付けば、半年足らずで女優のはしくれになってしまった。
四月の初めに、この『ワケあり転校生の7ヵ月』の仕事をもらったのが本格的な女優の仕事だった。
役が大阪の女子高生だったので、ほとんど大阪に居続けだった。まともに学校に行けた日はほとんどない。さすがに中間テストは日帰りだったけど、まともに受けられた。
この仕事が終わったら、しばらく普通の帝都女学院の生徒に戻りたい。毎日授業のノートを解説付きでファックスしてくれたマクサや恵里奈と机を並べたかった。
でもね……たとえ、東京での仕事とはいえ、ドラマや映画の仕事ならば、まともに学校に行けるのは望み薄だ。
正直、フルマラソンを終えたあと、もう一回走ってこいと言われたようなもの。
「今度の役は、むつかしい。それに女優としては、一度は通っておかなきゃならない道でもある」
わたしの落ち込みを屁とも思わずに、吾妻マネージャーは、今時めずらしいシステム手帳とにらめっこしている。むろんパソコンやタブレットなんかも使っているけど、システム手帳だと、まず自分で書き、その上日に何度も見なおすことで、常に頭の中に自分のスケジュールや担当しているタレントのことなどが入ってくるので、このアナログでかさばるばかりの手帳の化け物がいいらしい。
「今度の役はむつかしい。主役だしな……」
気が付けば、半年足らずで女優のはしくれになってしまった。
四月の初めに、この『ワケあり転校生の7ヵ月』の仕事をもらったのが本格的な女優の仕事だった。
役が大阪の女子高生だったので、ほとんど大阪に居続けだった。まともに学校に行けた日はほとんどない。さすがに中間テストは日帰りだったけど、まともに受けられた。
この仕事が終わったら、しばらく普通の帝都女学院の生徒に戻りたい。毎日授業のノートを解説付きでファックスしてくれたマクサや恵里奈と机を並べたかった。
でもね……たとえ、東京での仕事とはいえ、ドラマや映画の仕事ならば、まともに学校に行けるのは望み薄だ。
正直、フルマラソンを終えたあと、もう一回走ってこいと言われたようなもの。
「今度の役は、むつかしい。それに女優としては、一度は通っておかなきゃならない道でもある」
わたしの落ち込みを屁とも思わずに、吾妻マネージャーは、今時めずらしいシステム手帳とにらめっこしている。むろんパソコンやタブレットなんかも使っているけど、システム手帳だと、まず自分で書き、その上日に何度も見なおすことで、常に頭の中に自分のスケジュールや担当しているタレントのことなどが入ってくるので、このアナログでかさばるばかりの手帳の化け物がいいらしい。
「今度の役はむつかしい。主役だしな……」
「……ありがとうございます」
「なんだ、気持ちが入ってないわね」
「いいえ、そんなことありません。主役に時めいています!」
本当は、時めいてなんかいなかった。こんどのワケテンで、女優の大変さ。特に主役の重圧ははるかさんを見て、よく分かっている。だから嬉しさよりも気の重さが先にやってくる。
「今度の役は、佐倉さくらという役だよ」
本当は、時めいてなんかいなかった。こんどのワケテンで、女優の大変さ。特に主役の重圧ははるかさんを見て、よく分かっている。だから嬉しさよりも気の重さが先にやってくる。
「今度の役は、佐倉さくらという役だよ」
「え?」
一瞬どこかで聞いた名前と思った……で、自分の名前であることに想い至って戸惑った。どういう意味だろう?
「しばらくお休み。自分の生活に戻るんだよ」
一瞬どこかで聞いた名前と思った……で、自分の名前であることに想い至って戸惑った。どういう意味だろう?
「しばらくお休み。自分の生活に戻るんだよ」
「は……」
「今まで学校に行っていたのとは大きく違う。佐倉さくらを演ずるつもりで学校にいけ」
「は、はい(^_^;)!」
あたしは、吾妻さんにドッキリをしかけられたように、ドギマギしながらも嬉しかった。
しかしね、吾妻さんが言ったのは、単なるドッキリではないことが、学校に行って分かることに……なるんだよね(-_-;)!
あたしは、吾妻さんにドッキリをしかけられたように、ドギマギしながらも嬉しかった。
しかしね、吾妻さんが言ったのは、単なるドッキリではないことが、学校に行って分かることに……なるんだよね(-_-;)!
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員