大橋むつおのブログ

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滅鬼の刃・エッセーラノベ 38『眼病始末記・3・ビビィディバビィディブゥー』

2025-01-19 10:45:32 | エッセー
 エッセーラノベ    
38『眼病始末記・3・ビビィディバビィディブゥー』  




 ビビィディバビィディブゥー

 ご存知でしょうか? 

 ディズニーアニメ『シンデレラ』に出てくる魔法の言葉です。

『シンデレラ』は1950年に作られたディズニーを代表するアニメで、検索すると日本での公開は1952年、わたしが生まれる前の年ですから、鉄腕アトムや鉄人28号と同じころの作品です。

 大阪の場末の町で育ちましたので、『シンデレラ』が上映されるようなハイカラな映画館はありません。

 ですから、ビビィディバビィディブゥーを知ったのはテレビでやっていた『ディズニーランド』という番組からです。

 ウォルトディズニー自身がナビゲーターになって、ディズニーの作品や、ディズニーランドの「未来の国」「おとぎの国」「冒険の国」「開拓の国」に沿った特集を見せてくれる一時間番組でした。

 ディズニー自身がオフィスや書斎から語り掛けるというスタイルで、それも、じっと座っているのではなく、オフィスや書斎の中をウロウロ歩き、本を手に取ったりオブジェやフィギュアに語り掛け、時にはオブジェやフィギュアの方から声をかけられたりして、その日のテーマに誘導します。

 長身で足の長いディズニーがデスクに斜めに腰掛けて語る姿はカッコよかったですねえ。当時テレビで見かける司会やプレゼンテーターというと、玉置宏やトニー谷、シャボン玉ホリデーのハナ肇……ブーフーウーの黒柳徹子さんぐらいのもので、たいていバストアップというか上半身だけ。

 顔の表情筋もディズニーの半分も動かず、手の動きも「それでは次の方どうぞ!」式に横に伸ばすか手を叩くかぐらいのものでした。

 ディズニーが微笑むと、口角が日本人の倍ほどに上がります。今思うと胡散臭い笑顔なのですが素敵でした。
 何かを考えたり思いついたりした時には眉がバネ仕掛けのように跳ね上がります。時には片方の眉だけが吊り上がって、たいていは指を立てて「ここからがテーマ!」みたいな表情をして――カッコいい!――と真似をしたりしていました。

「さて、話はここからなのですが」という感じで斜め座りのまま両手を広げ「あれをご覧ください」と広げた両手で本棚を指すと、本棚から一冊の本がヒラヒラと飛んできます。そして、たいていコラージュされたティンカーベルが星くずをまき散らしながら飛んできてテーマのページを開いて見せてくれます。

 そして、カメラが本の挿絵にズームインして、その日のテーマが始まります。

 シンデレラも、そういうディズニーの導入から入っていったような気がします。

 太っちょのオバサン魔法使いが出てきて、素敵なドレスとカボチャの馬車を出します。

 その時の魔法の言葉が「ビビィディバビィディブゥー」だったのです。

 子ども心にもイカした言葉で、それまで魔法の言葉というと「チチンプイプイ」とか「テクマクマヤコン」ぐらいしか知らなかったわたしには、それこそ魔法の言葉でした。

 さっそく「ビビィディバビィディブゥー」を覚えて、幼稚園でカマシてみました。

「昨日のディズニーランド観てたかあ?」

「おお、見てた見てた!」「見たぞ!」「オレもオレも!」「あたしもぉ!」

 と友だちが寄ってきます。そこで「魔法の呪文おもしろかったなあ」とカマシて「ビビィディバビィディブゥー」を披露します。

 サラカドゥーラ メチカブーラ ビビィディバビィディブゥー(^^♪

 すると。

「それ、ちゃうで!」とハナタレのM君が異議を唱えます。

「どこがちゃうねん!?」

「ビビリバビリブーや!」

「ええ!?」

「サラカドーラ メチカブーラ ビビリバビリブーや!」

 こいつら分かってへんなあ……と思って、ちょっと得意になりましたが、他の子たちも「ビビリバビリブー」派なので「まあ、そう聞こえたんかもしれへんなあ」と返しますが、結論が出たという感じで、みんなは園庭に飛び出していきました。


 ……ビビリバビリブー


 前を向いたまま栞が無表情に呟きます。

 ん?

 21世紀少女である栞は小さいころから「ビビィディバビィディブゥー」と正確に発音していました。

 それが、いよいよ手術室に移送されるという時に「ビビリバビリブー」を呟くのです。

 数秒してピンときました。

「ビ、ビビってへんわぁ!」

「え?」

 なんのことでしょう? ととぼける孫娘。

 シンデレラの魔法使いに似た看護婦さんが車いすを押して手術室まで運んでくれます。

「よし、手術が終わったら、憎っくき孫に挑戦状をつきつけてやろう」

 と、思い立ちました。

 スーパーカリフラァジュェラスティックエクスピアリドーシャス( ー̀֊ー́ )✧ 

 十分足らずの手術でしたが、「はい、終わりましたよ」とドクターが言うまで、わたしは魔法の言葉を唱えておりました。


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