RE・かの世界この世界
そのまま二日後を迎えた。
ヤックンに告白させなかったんだから、冴子も穏やかなはずだ。
昇降口へ下りる階段で冴子に呼び止められることもない。
従って、昇降口で乱闘になることもなく、不可抗力とは言え冴子を殺してしまうこともない。
制服のブラウスを朱に染めて逃げ回ることも無ければ、旧校舎の屋上に追い詰められることも無いし、飛び降りて頭蓋を柘榴のように割って脳みそをぶちまけて死ぬこともない。
「このまま神社行く?」
終礼が終わって廊下に出ると冴子が待っていた。
お祭りの準備と巫女神楽の稽古が佳境に入って来たのだ。三回目の巫女神楽とあって、冴子もわたしもWKだ。
WK、つまり期待と緊張。
神社の記録でも三回の巫女神楽をやった例は江戸時代に一度あったきりだそうだ。
巫女の病気とか事故とかじゃなくて、あまりに美しい少女だったので、神さまも――十八になるまで務めさせよ――とご託宣されたんだとか。その時は一人舞の神楽を三年続けたそうだ。
わたしと冴子の場合は、単に舞手の子が入院したからなんだけど、それでも評判や期待は上がる。
冴子は、ヤックンへの想いもあって、三年連続の巫女神楽をやったらチャンスも増えるし、ひょっとしたら江戸時代の先例にあやかって、少しは魅力的になれるかと口には出さないけど思っている。わたしもそうだけど、冴子もラノベとか書くから、そういう伝説めいたことに気持ちが傾斜する。
「ちょっと寄ってくとこがあるから、先に行っといて」
「あ、うん。じゃ、そこまで……」
そう言いかけて、中庭の方へ足を向けたので――あれ?――という顔になる冴子。
「三年の先輩に……」
あいまいに旧校舎と芸術棟が重なるあたりを指さす。
「そか、じゃ、ヤックンとおさらいしとくね」
「うん、破のところで微妙に合わないから、しっかりやれって言っといて」
「ハ?」
「序破急の破」
「ああ、その破ね。テンポ変わるからむつかしいとこだもんね」
「もう三回目だしね」
「そうだね、きっちり決めたいもんね」
「じゃね」
自然な形で、冴子とヤックンが一緒になれるようにという思いもあるけど、それは考えない。
とにかく、とりあえずは、志村・中臣両先輩に報告と相談だ。
旧校舎の扉を開くと、そこはかとなくヒンヤリ。
わたしは中廊下の奥を目指した……。
☆ 主な登場人物
- 寺井光子 二年生
- 二宮冴子 二年生、不幸な事故で光子に殺される
- 中臣美空 三年生、セミロングの『かの世部』部長
- 志村時美 三年生、ポニテの『かの世部』副部長